

最近、日本企業による海外進出のニュースを目にする機会が増えている。背景には、国内市場の縮小や少子高齢化に伴う成長鈍化があり、多くの企業が北米をはじめとする海外市場で新たな可能性を模索している。
一方で、こんな声もよく耳にする。
- 「海外に出るのは大企業だけでしょ」
- 「うちは日本向けの商品だから…」
- 「興味はあるけど、何から始めていいか分からない」
そう考えて、まだやってもいないのに、海外展開を最初から“無理”あるいは、自社サービス、プロダクトを海外では刺さらない・難しいと過小評価していないか?
たしかに、資金力や人材のリソースが豊富であったり、ブランド力がある大企業と比較すると、海外展開はハードルが高く感じられるかもしれない。しかし、それは本当に“無理”なことなのか?
「うちの商品は日本向け」は思い込みかもしれない
日本人向けに丁寧に作られたプロダクトだからこそ、海外では驚きをもって受け入れられる。これはbtraxがこれまで多くのプロジェクトで実感してきた事実である。
- 細部までこだわったパッケージ
- 目立たないけれど高性能な機能
- おもてなし精神が込められたユーザー体験
これらは、日本国内では“当たり前”とされてきたかもしれない。しかし、多様な文化背景を持つアメリカの消費者にとって、それらは“新鮮で驚きのある体験”になることがある。
大事なのは、「日本だから無理」と考えるのではなく、「どうすれば海外に響く形にできるか?」と視点を変えることである。
海外展開で成功するのは、“初めからグローバル設計”の企業だけなのか?
たしかに、グローバル市場では「まず日本で成功してから海外へ」という段階的アプローチが通用しない分野もある。
たとえば、SaaSのようなソフトウェア・IT領域では、スピード感やネットワーク効果が競争力に直結する。後発になるほど不利になりやすいため、創業初期から海外市場を見据えた設計・戦略が重要になる。
実際に、SaaS管理プラットフォームを提供するJosysは、創業当初からグローバル展開を前提とした組織体制を構築。各地域の業務慣習や商習慣をふまえた導入・運用支援によって、海外でもスムーズな導入が進み、急成長を遂げている。
このようなケースでは「最初からグローバル」が理にかなっていると言える。
でも、それはすべての企業に当てはまるわけではない
では、日本市場で事業を展開してきた企業が、今から海外にチャレンジするのは難しいのか?
答えはNOである。
むしろ、日本市場向けに丁寧に作り込まれてきたプロダクトやサービスが、思いがけず海外で強く評価されるケースも増えている。
日本ならではの視点や価値観、ユーザー体験が、多様な文化を持つ海外の人々にとって「新しくて魅力的」に映ることがあるのである。
海外で評価された日本発プロダクトの事例
ここからは、日本市場向けに設計されながらも、海外で高く評価され、成長を遂げたプロダクトやサービスの実例を紹介する。
それぞれの企業が「日本らしさ」を活かしながら、現地のニーズや市場環境に合わせて進化を遂げており、海外展開を目指す企業にとって多くのヒントが詰まっている。
ポケトーク|翻訳デバイスからグローバルインフラへ
もともとは、訪日外国人と日本人の会話をスムーズにするために開発されたポケトーク。
しかし現在では、売上の過半数を欧米市場が占め、教育機関や自治体、医療・物流などのBtoB領域でも広く活用されるグローバル製品に進化している。
唯一無二の製品設計
翻訳端末本体に加え、セキュリティ管理機能や利用状況の分析ツールなどをセットで提供することで、教育現場や公共機関でも安心して利用できる“翻訳インフラ”へと進化した。

出典:ポケトーク ホームページ
強力な販売パートナー戦略
アメリカでは大手ディストリビューターを積極活用し、学校・病院・行政機関などに効率的に展開。国内だけでなく、国際調達ルートの確立も成長を後押ししている。

参考:ソースネクストIR資料
多言語対応の社会的ニーズ
対応言語は92言語に拡大。移民の多い英語圏や多民族社会において、「すべての人に言葉の自由を」というミッションが共感を呼んでいる。
今では世界10,000社以上に導入されるまでに成長し、「個人用翻訳機」から「社会のインフラ」へとポジションを変えつつある。
TOTO|“おしりを洗う”文化がアメリカで市民権を獲得
「ウォシュレット=日本の文化」というイメージを持つ人も多いかもしれない。
しかし今、TOTOの温水洗浄便座はアメリカで急成長を遂げ、一般家庭から高級ホテルまで幅広く導入されている。
ニーズの転機となったタイミング
パンデミック時のトイレットペーパー不足を契機に、ウォシュレットの清潔性・快適性が改めて注目された。
ブランド信頼を支えるアフターサービス
現地技術者の育成、認定修理網の整備、ショールームの拡大など、日本と変わらない安心感の提供がブランドへの信頼を後押しした。
単なる“ガジェット”ではない再定義
「おしりを洗う機能」だけでなく、温座・脱臭・自動開閉などの快適機能により、ライフスタイルを変える製品として定着しつつある。
TOTOの事例は、日本発のプロダクトがローカルの課題や価値観に合わせて進化し、グローバルで成功を収めた好例。文化の違いを越えるには、機能性だけでなく、体験価値やサポートの丁寧さが鍵であることを教えてくれる。

TOTOのロサンゼルスにあるショールームにおける、ウォシュレット展示 https://www.totousa.com/gallery-la#
ブックオフ|日本のリユース文化がアメリカで定着
1999年にアメリカ法人を設立し、2000年にニューヨークで1号店をオープンしたブックオフ。
現在では全米に19店舗を展開し、日本のリユース文化を現地のライフスタイルに合わせて展開している。
商品構成のローカル適応
アニメ・マンガ・ゲーム・トレカ・フィギュアなど、日本文化に関心を持つ若者層に向けて商品を再構成。英語書籍や現地向けアイテムも拡充し、日系に限らない幅広い客層を獲得している。
サステナビリティとバリュー志向のマッチング
物価の高い都市部では、「良質な中古商品を安価に手に入れられる場所」として、地元住民の“掘り出し物探し”の場として定着している。
地域密着型の店舗運営
地域ごとのイベント開催や買取対応など、日本式の丁寧な接客が現地でも好評。顧客との関係構築がリピート率を高めている。
「日本発=日系向け」に留まらず、ローカルコミュニティに根づいた進化型リユースビジネスとして定着している好例である。

BOOKOFF Riverside店(カリフォルニア州) https://www.bookoffusa.com/store-location/
実はプロダクト重視のアメリカ企業
いまや世界を代表するテック企業であるAppleやMicrosoft。その成功の裏側には、実は「徹底したプロダクト重視の姿勢」がある。そして興味深いのは、両社ともに過去に“プロダクト軽視”によって業績が低迷した時期があるという共通点である。
Microsoftの停滞と再生
2000年代初頭、スティーブ・バルマーがCEOを務めていた時代、Microsoftは営業主導のビジネス展開に傾倒。結果、プロダクト開発の刷新が遅れ、GoogleやAppleといった他社に主導権を奪われた。
しかし、その後サティア・ナデラ体制に移行し、クラウドやTeams、Surfaceなどプロダクトドリブンの戦略に切り替えたことで、再び成長軌道に乗った。
Appleの迷走と原点回帰
一方Appleも、スティーブ・ジョブズが追放された1990年代、マーケティング重視の経営方針によりプロダクトの独自性が薄れ、ブランド価値が低下。業績は悪化の一途をたどった。
しかしジョブズが復帰し、iMac・iPod・iPhoneといったプロダクト起点のイノベーションを次々に打ち出したことで、Appleは世界的ブランドへと返り咲いた。
日本企業への示唆:プロダクトのこだわりは武器になる
こうした事例が示すのは、「アメリカ企業=商売重視」というイメージが誤解であるということ。むしろ、長期的な成長には“プロダクトファースト”な姿勢が不可欠であることが明確である。
日本企業の多くが持つプロダクトへのこだわりや品質に対する誠実さは、まさにこのグローバル文脈における強みとなり得る。
営業力やマーケティングのみに頼るのではなく、ユーザー視点でプロダクトを磨くことが、結果として国境を越えて評価されるのである。
丁寧に作られたものこそ、“世界で光る武器”になる時代へ
多言語対応や物流、法規制といった課題から、海外展開には確かに多くのハードルがあるが、そこで足を止めてしまうのはあまりにも惜しい。
むしろ、細部まで丁寧に作り込まれた日本発のプロダクトやサービスこそ、海外のユーザーにとって「これまでにない体験」として強く印象に残る差別化要素になる。
AppleやMicrosoftといったアメリカの成功企業も、決して商売やマーケティングだけで成長したわけではない。両社ともに一度は業績低迷を経験し、そこから再浮上できた要因は、プロダクトを軸に再構築した戦略だった。
同様に、ポケトーク・TOTO・ブックオフといった日本企業も、現地の課題に向き合いながら、“日本らしさ”を活かしたプロダクトやサービスでグローバルに評価されつつある。
btraxで過去支援した、リラックマのUSAツアーの様子
今、求められているのは“完璧さ”より“仮説検証力”
重要なのは、「うちには無理」と可能性を閉ざすのではなく、仮説を立てて、小さく始め、素早く改善すること。今、世界に求められているのは、“完璧な計画”ではなく、ユーザー視点の柔軟なチャレンジである。
以下の参考記事では、日本企業がなぜ今グローバルに挑むべきか、その3つの理由を解説しているので、ぜひ併せてご覧いただきたい。
最後に|“無理”ではなく、“まだやってないだけ”
米国市場はたしかに簡単な場所ではない。しかし、競争が激しく、文化が多様だからこそ、日本発プロダクトが持つ丁寧さや誠実さが評価される余地がある。
「海外は難しい」と思う前に、ぜひ一度視点を変えてみてほしい。あなたのプロダクトがまだ知られていないだけで、“すでに世界に求められているもの”かもしれない。
私たちbtraxは、その可能性を一緒に見つけるパートナーである。
btraxができること
btraxは、サンフランシスコと東京を拠点に、日本発ブランドのグローバル展開を一貫して支援するデザイン・ブランディング会社である。
私たちは、現地での消費者インサイトとデザイン思考を掛け合わせながら、単なる情報提供や翻訳にとどまらず、実際に“売れる・使われる”形にプロダクトを進化させる実行支援を強みとしている。
提供する主なサービス
・現地テストマーケティング:主要都市でのポップアップ運営、消費者インタビュー、仮説検証の実行
・ブランディング&デザイン:日米でのネーミング、パッケージ、ストーリーテリング、UI設計支援
・販路開拓:Whole Foods、Sprouts、Targetなどへのピッチ支援・バイヤー紹介
・コミュニティ構築:マイクロインフルエンサー連携、TikTok活用、ライブコマース設計
・現地採用ブランディング:文化設計からオンボーディング支援まで、人材獲得・定着の仕組み化
サンフランシスコで、キャリアや新規事業に変化を起こす3日間

キャリアの転換点に立つ個人、新規事業担当者、起業家(起業志望者)等に向けた3日間集中プログラムをサンフランシスコで開催します。
元・日本マイクロソフト澤円氏、btrax CEOブランドンが講師として登壇し、AI×デザインの最先端を実践的に学び、未来の働き方・学び方を先取りします。
詳細はこちら!先着順で定員に限りがございますので、ご応募はお早めに。
最終更新日:
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