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スーパーマーケット最大手・クローガーが学んだネットスーパー戦略の“光と影” EC再編の核心に迫る

クローガー初のCFC拠点となったオハイオ州モンロー施設。ここから始まった“壮大な実験”が、いま大きな転換点を迎えている。

クローガー初のCFC拠点となったオハイオ州モンロー施設。ここから始まった“壮大な実験”が、いま大きな転換点を迎えている。

スーパーマーケット最大手・クローガーが学んだネットスーパー戦略の“光と影” EC再編の核心に迫る

クローガー初のCFC拠点となったオハイオ州モンロー施設。ここから始まった“壮大な実験”が、いま大きな転換点を迎えている。

在米28年のアメリカン流通コンサルタント
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

イントロダクション:巨大チェーンの苦闘と転換点

スーパーマーケットチェーン最大手であるクローガーは、この数年間でネットスーパー戦略を大きく揺り動かしてきた。

2021年から本格稼働したオカドとの協業による自動化フルフィルメントセンター(CFC)のネットワークは、かつて「次世代小売の主軸」と期待された。

しかし2024年以降、複数拠点の閉鎖が相次ぎ、そして2025年にはさらなる撤退・減損が発表され、ネットスーパー戦略は大きな見直し局面を迎えている。

最新の発表では、同社はサードパーティとの連携を強めた「ハイブリッド型EC」へ舵を切り、ロボティクス主体の専用CFC網からの部分撤退に踏み込んだ。

この一連の動きは、クローガーのEコマース戦略が「巨額投資によるフル自動化モデル」から、「店舗網×サードパーティ×一部自動化」を組み合わせた現実的かつ収益性重視の体制へと転換したことを意味する。

オカド・モデルの開始:巨大CFCとスポークの構築

クローガーがオカドと提携し、自動化フルフィルメントセンターを始動したのは2018年である。

オハイオ州モンローを皮切りに、アメリカ南部から中西部・東海岸まで、最大40万平方フィート(約1.12万坪)のCFCを次々と展開した。

これらの施設では、1,000台以上のロボットが稼働し、生鮮品や日用品から3.5万品目超を扱う高効率のピッキングシステムを備える。

ある商品50点のピッキングが最短3分、配送準備は5分という圧倒的な処理速度を実現し、注文は当日または翌日に届けられた。

これらCFCは「オカド・シェド」とも呼ばれ、広大なハブ拠点として機能し、周辺には「ズーム」と呼ばれるスポーク拠点がクロスドッキング型の小型FCとして設けられた。

ハブ&スポーク方式により、90マイル(約140キロ圏)までカバーでき、店舗の力を借りずに独立したEC配送体制を構築する点が革新的であった。

2022年の段階では、オハイオのロックボーンをはじめ、インディアナポリス、ルイビル、タンパ、ジャクソンビル、オクラホマシティなど全米で拠点網が拡大し、クローガーは「自前ECで全米を制覇する」という野心を明確にしていた。

フロリダとテキサスの敗戦:スポーク閉鎖が示した限界

しかし、野心は必ずしも現実と一致しなかった。2024年、クローガーはテキサス州サンアントニオ、オースチン、そしてフロリダ州オパロッカのスポーク拠点を閉鎖すると発表した。

これらは2022年~2023年に新設されたばかりの施設で、稼働期間はわずか1~2年程度にすぎなかった。

フロリダ南部ではクローガー傘下のスーパーがほぼ存在せず、パブリクスが約900店という圧倒的な地場基盤を持つ。

ウォルマートもスーパーセンターとネイバーフッドマーケットを330店近く構えており、クローガーは“ほぼ新参者”としてネットスーパーのみで挑む形だった。

認知度の低い地域で店舗基盤ゼロのままCFC配送網だけで勝負したことが、オパロッカ閉鎖の背景となる。

テキサスも状況は似ており、州全体にはクローガー傘下スーパーが200店以上あるものの、サンアントニオとオースチンの両地区には店舗が存在しなかった。

HEBという地場最強スーパーが圧倒的な競争力を持ち、さらにウォルマートが支配的で、CFC単独での展開は市場に浸透しなかった。

2024年春以降、クローガーはネットスーパー網の拡大を「一時凍結」し、すでに建設済みであったコロラド州オーロラのCFCも稼働を保留した。

これが、ネットスーパー戦略の減速を象徴する出来事となったのだ。

そして2025年、戦略は完全転換へ:CFC閉鎖と巨額減損

2025年の最新発表で、クローガーはさらに踏み込んだ転換を表明した。ウィスコンシン州プレザントプレーリー、メリーランド州フレデリック、フロリダ州グローブランドの3つのCFCを2026年1月に閉鎖する。

グローブランドCFCは最大400人規模の雇用を生んだ新拠点であり、建設費は約5,500万ドル(約82.5億円)に上る。しかし稼働からわずか数年で閉鎖される。

この決断に伴い、クローガーは2025年第3四半期に約26億ドル(約3,900億円)の減損損失を計上する。

オカド側も約2億5,000万ドル(約375億円)以上の補償金を受け取る見込みであり、EC自動化戦略の修正規模がいかに巨大であるかが分かる。

クローガーは、残るCFCについてもパフォーマンスを継続監視するとしており、オカド主導のフル自動化物流が「全社戦略の中心」であった時代は終わりを迎えた。

新たな柱:サードパーティと店舗網によるハイブリッド型EC

CFC網の縮小とともに、クローガーは「ハイブリッド型EC」への移行を発表した。これは以下の3本柱で構成される。

第一に、既存店舗をフルフィルメント拠点として活用し、キャピタル・ライトな小規模自動化を導入する。これにより、顧客近接性を生かして最短30分の配送が可能になる。

第二に、インスタカート、ドアダッシュ、ウーバー・イーツとの連携強化である。

インスタカートはクローガーのサイトとアプリにおける主要配送パートナーとなり、AIを活用した「カート・アシスタント」もクローガーが初導入する。

ドアダッシュとの提携範囲は約2,700店舗に拡大し、ウーバー・イーツでも食事と食料品を同時注文できる新体験を開始する。

第三に、中核地域では自動化CFCの強みを残しつつ、周囲の店舗網とサードパーティ配送を組み合わせ、地域ごとに最も効率の良いフルフィルメント方式を選択する。

このハイブリッド型モデルにより、クローガーは2026年度までにEコマースの営業利益を約4億ドル(約600億円)改善できると見込んでいる。

結論:フル自動化の夢を超えて、現実的な最適解へ

数年にわたり「自前の巨大CFC網による全米制覇」を描いたクローガーは、2024年~2025年の市場環境変化と費用対効果の低迷を受け、戦略の大転換を実行した。

それは後退ではなく、むしろ現在のEコマース市場における合理的な最適化である。

顧客は必ずしも完全自動化の倉庫から商品が届くことを求めているわけではない。

必要なのは「早く、安く、確実に届くこと」であり、それを実現する手段は1つではない。

クローガーが選んだハイブリッド型モデルは、店舗網・サードパーティ配送・自動化の適切な組み合わせによって、現実的な収益性と顧客価値を両立しようとする戦略である。

オカドとの連合は決して失敗ではない。しかし、パンデミック後の需要変動、市場の密度差、地域競合状況を踏まえると、

単一モデルで全米をカバーすることは容易ではなかった。今後のクローガーが、どの地域で自動化を残し、どの地域で店舗網と外部配送を重ね合わせるか、その最適化が同社の競争力を決めることになるだろう。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!

今回は、クローガーが数年間にわたり挑戦してきたネットスーパー戦略の“光と影”、そして最新の大転換について分かりやすく解説します。

2021年のオカド提携による巨大自動化倉庫の本格稼働から、全米にハブ&スポーク網を構築し、店舗を持たない地域にまで攻め込む姿勢はまさに「EC版オマハビーチ上陸作戦」でした。

しかしフロリダ南部やテキサスなど、地場の強者がひしめく地域では浸透せず、スポーク拠点が次々と閉鎖。

2025年には複数のCFCまでシャッターを下ろす事態となり、約3,900億円の減損という痛手を負うことになりました。

その一方で、クローガーは大胆な方向転換を実施し、インスタカートやドアダッシュ、ウーバー・イーツなどサードパーティとの連携を強化した「ハイブリッド型EC」へ舵を切りました。

巨大倉庫に頼り切るのではなく、店舗網、近距離自動化、外部配送を最適に組み合わせ、2026年までに600億円規模の利益改善を狙う“現実解”へと進化しているのです。

クローガーのネットスーパー戦略は、最新テクノロジーと市場現実の間で揺れ動く“壮大な実験”そのものです。

そして私たち日本人の流通業界人にとって、この実験結果をリアルタイムで“無料で”学べること自体が最大の恩恵。

クローガーの挑戦と失敗と転換──これだけの超大型教材をタダで見せてもらっているのですから、彼らにはむしろ感謝すべきなのかもしれませんね。

最終更新日:

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