アマゾンとウォルマートの都市戦略 買い物を「1時間単位」で再設計する速度戦

ウォルマート・アプリの商品ページに表示される「ゲット・イット・ナウ(Get it Now)」ボタン。Apple Watch SE2のような高単価商品(現在セールで129ドル!)でも、“今すぐ手に入る”スピードを前提に購入判断を促す──ウォルマートがアプリ主導で仕掛ける即時性の象徴だ。

ウォルマート・アプリの商品ページに表示される「ゲット・イット・ナウ(Get it Now)」ボタン。Apple Watch SE2のような高単価商品(現在セールで129ドル!)でも、“今すぐ手に入る”スピードを前提に購入判断を促す──ウォルマートがアプリ主導で仕掛ける即時性の象徴だ。

ウォルマート・アプリの商品ページに表示される「ゲット・イット・ナウ(Get it Now)」ボタン。Apple Watch SE2のような高単価商品(現在セールで129ドル!)でも、“今すぐ手に入る”スピードを前提に購入判断を促す──ウォルマートがアプリ主導で仕掛ける即時性の象徴だ。

都市の買い物を「1時間単位」で再設計するアマゾンとウォルマートの速度戦
アメリカ小売市場は今、「スピード」と「利便性」の勝負になっている。
アマゾンはオンラインとオフラインを統合して顧客体験を高速化する戦略を強化している一方で、ウォルマートは自社の巨大な実店舗網と配送インフラを活かし、アプリ内の新機能「ゲット・イット・ナウ(Get it Now)」でさらなる即時性を提供しようとしている。
こうした動きは単なるスピード競争ではなく、消費者が「30分~1時間で欲しいものが手に入る世界」をどこまで当たり前にできるかの競争でもある。
アマゾン・ラッシュとは何か──1時間ピックアップで店舗を再定義する
アマゾンの「ラッシュ・ピックアップ(Rush Pickup)」は、オンライン注文から1時間以内に商品を受け取れる新しいクリック&コレクト型サービスだ。
アマゾンはホールフーズ・マーケットやアマゾン・フレッシュ、アマゾンゴーといった実店舗の在庫と自社オンラインの豊富な商品をひとつの注文バスケットでまとめて受け取れる仕組みを試験している。
これにより、店舗網を単なる在庫保管場所ではなく、即時受け渡しの拠点として機能させることを狙っている。
このサービスは2026年初頭の主要都市圏での実装が想定され、アマゾン上層部による進捗管理でも重要視されているのだ。
アマゾンはこの取り組みを通じ、オンラインとオフラインのスピード融合が顧客体験向上の鍵であると見ている。
宅配配送だけでなく、店舗ピックアップを単体以上にスピードの軸で再定義しようとしているのだ。
30分配送のアマゾン・ナウと二段構えの高速戦略
ラッシュとは別に、アマゾンは都市部で30分以内配送を目指す「アマゾン・ナウ(Amazon Now)」も展開している。
【アマゾン】ついに「30分で届く日常」!超高速配送がコンビニを“時代遅れ”にする日?
これは都市生活者の「今欲しい」を前提にしたオンデマンド型配送で、アマゾン・フレックス配送網と小型物流拠点を組み合わせることで配送距離と時間の最適化を図っている。
ニューヨーク市で一時的に試みられた「10~15分配送バブル」は、採算性の面で多くの企業が撤退したが、アマゾンはその失敗から学び、持続可能性の高い速達モデルに進化させる試みとしてアマゾン・ナウを位置付けている。
このモデルは都市部の密度と物流効率を活かし、配送距離・時間・在庫の統合管理を実現している。
アマゾンの現在の超高速配送戦略は、過去の「プライム・ナウ(Prime Now)」の経験を踏まえ、都市生活者の小さな買い物バスケットに特化した「第二章」として再設計されているのだ。
ウォルマートのゲット・イット・ナウ──アプリで配送時間を「見える化」
このような超高速競争の中で、ウォルマートもまた独自の戦略を進めている。
2025年12月のプレスリリースで発表された新機能「ゲット・イット・ナウ」は、ウォルマートのアプリ内で配達までにかかる時間を分単位で表示し、1タップで即注文できるオンデマンド注文機能だ。
これにより、ユーザーは配送予測時間を見ながら判断し、即座に注文できるようになった。
さらにこの時期、同社はクリスマスイブまで最大1時間で届くエクスプレス・デリバリー(Express Delivery)を提供するなど、年末商戦に向けたスピード強化を進めている。
ウォルマートの配送ネットワークは米国の約95%の世帯に3時間以内で届けられる能力があり、この既存の基盤の上に、顧客が「あとどれだけで届くか」を即時に把握しやすいアプリ体験を追加した。
これは単純な配送速度だけでなく、注文から到着までの見通しを顧客自身が持てるようにするというUX面での競争でもある。
クリック&コレクト市場の爆発と両社の差別化
米国におけるクリック&コレクト市場は急拡大している。
予測では2025年に売上が約1,129.6億ドル(約17兆3,000億円)に達し、さらに2027年には約1,293.3億ドル(約19兆8,000億円)へ成長するとされる。
また、デジタル購入者の約68%にあたる約1億5,290万人がこのサービスを利用すると見込まれている。
ウォルマートは広大な店舗網を活かし、クリック&コレクトと即日配送やエクスプレス・デリバリーに強みを持つ。
一方アマゾンは圧倒的なオンライン在庫とデジタルプラットフォームを活用し、そこに実店舗を速達受け取り拠点として組み込もうとしている。
ウォルマートのゲット・イット・ナウは、顧客がスピード配送を注文前に把握できる透明性を高めることで、受け取り行動そのものを変えようとする施策だ。
アマゾン・ナウの料金設計と習慣の囲い込み
アマゾン・ナウは、プライム会員にとって割安な料金体系を採用している。
プライム会員なら3.99ドル(約600円)から利用できる一方、非会員は13.99ドル(約2,100円)と大きな差がある。
さらに注文金額が一定額未満の場合には手数料が加算される。これは、単なる価格競争ではなく、プライム経済圏に顧客を囲い込む戦略として機能している。
最近の消費者は価格よりも「すぐに届く/受け取れる」という安心感を重視する傾向が強まっている。
アマゾンはこの習慣の変化を捉え、日常の買い物行動を「アマゾンで頼めば何とかなる」というレベルに引き上げようとしているのだ。
巨大スケールと投資で支える超高速戦略
アマゾンは6億点以上の商品を扱い、米国では1億1,170万世帯が利用している。
その規模は他に類を見ない。1日あたり884万件の注文、27万5,000人以上の配送ドライバーが稼働するこの巨大なフットプリントを背景に、アマゾンは2026年までに配送ネットワークの拡大に40億ドル(約6,000億円)を投資する計画を発表している。
この規模の差は、単に「速い配送」を実現するだけでなく、都市の日常行動そのものを再定義するインフラ構築につながる可能性を秘めている。
組織再編とAI集中──速さを支える社内改革
アマゾンは社内でもスピードを追求している。
今年10月には約1万4,000人の人員削減を発表し、階層を減らしてスタートアップのような機動力を取り戻す方針を示した。
さらにAI活用を奨励することで、業務効率を高め、生産性を向上させる組織体制への移行を進めている。
このようにアマゾンは、社内の俊敏性と市場でのスピード提供という両面でウォルマートとの競争に挑んでいる。
結語──都市の時間価値を握るのは誰か
10分配送バブルの崩壊は、単体企業では超高速配送が成立しにくいことを示した。しかしそれは終わりではなく、「スケールを持つプレイヤーだけが第二章へ進める」という現実の証明にすぎない。
アマゾンのアマゾン・ナウとラッシュ・ピックアップ、そしてウォルマートのゲット・イット・ナウとエクスプレス・デリバリーは、都市生活者の「30分~1時間の時間価値」を実現するための各社の答えである。
どちらが都市の買い物習慣を再設計する中心になるか──このスピード競争はまだ始まったばかりであり、今後の展開から目が離せない。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!
今日のテーマは、アマゾンとウォルマートが繰り広げる“スピード覇権戦争”です。
アマゾンが新たにテストする「ラッシュ・ピックアップ(Rush Pickup)」は、オンライン注文からわずか1時間で店頭受け取りができるサービスで、オンライン在庫とホールフーズやフレッシュなど店舗在庫をひとつに束ねて受け取れるのが最大の特徴です。
まるで「広大な倉庫と街角の店舗を瞬間接続したハイブリッド反応炉」のような設計で、デジタルとフィジカルの境界を完全に溶かしにきています。
一方でウォルマートはアプリに新機能「ゲット・イット・ナウ(Get it Now)」を導入し、配達までの所要時間を分単位で表示し、そのままワンタップで注文できるようにしました。
さらに最速1時間のエクスプレス・デリバリーと組み合わせることで、「欲しい」と思った瞬間に届けられる体験を前提化しています。
こちらは例えるなら、「巨大チェーン店が全米を覆う高速道路網をそのまま“即配の動脈”に変えた」ようなものです。
つまり両社は、スピードそのものだけでなく、“いかに顧客の時間感覚を支配するか”で真っ向勝負を始めたわけです。
都市生活者の「今ほしい」という衝動を、どちらがより自然に受け止められるか。これこそ次の小売競争の核心です。
ただ、これだけ速くなると、そのうち「頼んだ覚えのない商品まで勝手に先回りして届く」なんて未来が来るかもしれませんね(笑)。
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