人工知能(AI)はファッション消費をどう変える?

Photo by : Studio Roosegaarde
Photo by : Studio Roosegaarde

  人工知能(AI)はファッションの世界でも接客や需要予測などに活用され始めている。ただ、まだ企業サイドからの実験的な試みが多い。この先に到来するのは、消費者自身がそれぞれの着こなしや買い物にAIを使う状況だろう。電子商取引(EC)サイトでの購買履歴に基づくレコメンド(おすすめ)機能はすでに身近になっているが、AI利用がさらに進めば、「こっちのほうが似合うはず」と、AIが着こなしを人間様に指図するような事態も起こりかねない。ファッション消費とAIの関係の「近未来予想図」を思い描いてみよう。(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江

 ファッションとAIの連携で目立った動きを見せているのは、ファッションアプリ「アイコン(iQON)」を開発・運用しているVASILY(ヴァシリー)と、ファッション人工知能「SENSY(センシー)」を手がけるカラフル・ボードだろう。ファッション分野でリアル店舗やEC事業者向けに様々なレコメンドサービスを提案している。まるで専属スタイリストのようにユーザー の好みや傾向に沿ってアイテムやコーディネートをサジェストしてくれるイメージだ。

sensy14-20150514-top-01.jpg


 ただ、現時点ではまだAIが「プライベートスタイリスト」と呼べるまでの水準には達していない。もっとも、AIの開発スピードが早いうえ、ユーザー層が広がれば、飛躍的に学習が進む可能性もあり、実用レベルに達する期待もある。では、そうなった段階で、実際に一般ユーザーがどんなサポートを受けられるのかを、妄想的にシミュレーションしてみよう。

1)みんなと「かぶらない服」をAIがこっそりサジェスト

 「かぶりたくない」という気持ちは今の10、20代には結構強い。そのため、服選びでは「かぶらないためには、どの服を選ぶべきか」という点にも気を配る。この面倒なシミュレーションもAIに任せてしまえる。参加者のリストと過去の写真をAIに学習させれば、ある程度の確率で参加者の装いを推測できそうだ。その結果と自分の手持ち服をクロス検索させて、「かぶり危険度」の低いコーデをAIが組み立ててくれるという仕掛けだ。

07-06-16-15-01-20160706_001.jpg


2)自分でも気づいていない「内なるおしゃれマインド」をAIが発掘

 「好き」と「似合う」は別物だ。もちろん、本人が満足していれば、それで構わないのだが、「もっと似合う(私を引き立ててくれる、魅力を引き出してもらえる)服が欲しい。でも、どれがいいのか分からない」という「おしゃれ迷子」は珍しくない。コンプレックスが邪魔していたり、勇気がなかったりという理由から、服選びが偏ってしまうことも多い。似た容姿やおしゃれマインドの人の着こなしを参考にAIが本人は試したことがないが、AIが「似合うはず」と判断したコーデをおすすめする

3)「これなら『いいね!』がたくさんもらえます」と、「SNS受け」するアイテムをAIがおすすめ

 SNSでセルフィー(自分撮り写真)を公開するのは、もはや当たり前の行為になった。ただ、SNS越しに自分の着姿をチェックされることにもなった。自分なりに工夫してSNSに登場する人は多いが、AIのアドバイスを受けることも可能になりそうだ。SNS上で好評価の他人コーデを手がかりにしつつ、本人の公開済みルックとの重複も避けて、AIが「いいね!」獲得につながる着こなしを探し当てる。日々の自撮りショットと照らし合わせて「3日前のコーデとよく似ています。みんなの視線が心配です」と警告してくれるような機能も重宝がられそうだ。

4)トレンドを先読みして賢いショッピングを提案

 買い物でもAIは頼れるアドバイザーになってくれる。シーズンが始まってからでは手に入れにくくなってしまうトレンドアイテムを、AIが先読みして「今がお買い得」と助言する。バーゲンの時期には、本人の好みと、百貨店やセレクトショップの在庫をクロス検索して、「あなたが買いそうな服がバーゲンに出そうです。待ちますか?」と問いかける。「待てば半額になりますが、初日に売れる確率70%」と、売り切れ確率付きで「バーゲン予報」を送信することもできそうだ。試着を始めた段階で、「あなたは既に似たタイプのワンピースを3着も持っています。それでもどうしても買いたいですか」と再考を促すような機能も、賢いショッピングを手助けしてくれる。

Shopping

Photo by : Elliot Stokes


5)冷静な第三者としてズバズバ「ダメ出し」

 友達と服を買いに行くと、試着の評価を尋ねられて困ることがある。あまりよさげに見えなくても、残酷な物言いはしにくいもの。中途半端なジャッジは助けにならないと分かっていても口を濁してしまいがち。でも、AIは評価基準さえはっきり与えておけば、バッサリ判断を下してくれる点がかえって頼もしい。試着室の中で撮った自撮りショットをAIにチェックしてもらえば、「あまり似合っていません」と、はっきり却下してくれるだろう。自分が「似合う」と思い込んでいる格好にもAIが反対すれば、スタイリングを考え直すきっかけにもなる。

6)デートやプレゼンなどの目的別にふさわしいコーデをAIが設計

 特別な目的がある場合の着こなしは戦略的に組み上げる必要がある。たとえば、初デートやお呼ばれがそう。パートナーの家族との会食や、大きな仕事の企画説明なども第一印象が肝心になる。自分なりのアイデアは大事だが、ネット上に公開されている、似た状況で選ばれたたくさんのコーデを参考にする手もある。シチュエーションをAIに教え込んで、自分の好みも加味したうえで、おすすめのスタイリングを導き出してもらうこともできるはずだ

2014-017 - like a cheap suit

Photo by : Robert Couse-Baker


7)「あなたはこの服にそろそろ飽きたのでは?」と、ユーズド出品を提案

 着飽きた服をユーズド販売業者に売るのは今では当たり前の処分方法になってきた。でも、いったん手に入れた服を売りに出すタイミングはなかなか見極めにくい。そもそもその服をいつ買ったのかを、正確には覚えていないものだ。その点、AIは記憶力がいい。購入した時点で写真を撮ってAIに覚え込ませておけば、指定の期間が過ぎた時点で「購入から半年が過ぎました。売却を検討しますか?」とアラートを発してくれる。さらに半年後にも同じように問いかけてくるので、「そう言えば、この半年、1度も着なかったから、もう売っちゃおうか」と、考えるきっかけになる。

8)ご近所で物々交換をプランニング

 いくらか仕組み面でハードルが高いが、シェアリングの分野でも応用が利く。たとえば、他人とシェアしても構わないと考える服を「共有候補」として公開できるようになれば、AIがマッチングを助けてくれる。「あなたが欲しそうな服を持っている人がご近所5km以内にいます。あなたの持っている服を相手も欲しがりそうです。交換を持ちかけてみますか?」といった具合に、本人抜きでAI同士が共有候補を見つくろってくれるというシステムも不可能ではない。こうなれば、「他人の服は私の物」的な状況が生まれ、ワードローブの選択肢は飛躍的に広がる。

9)「着ていく服がない」シンドロームを解決

 あらかじめ準備しておかないと、イベント当日になってスタイリングがまとまらなくてパニックに陥る。AIが味方につけば、このような事態は避けやすくなる。本人のスケジュール表を先読みして、「3日先にドレスアップの予定があります。この日に着る服がないのでは?」と、発信してくれる。解決策として購入、レンタルなどの対応を促す機能も盛り込めるはず。上手な着回し方を助言してもらえれば、パニックを避けやすくなる

iPhone

Photo by :Lisa Padilla


10)手持ちワードローブの活用策をコンサルティング

 異なるテイストをねじり合わせるミックスコーディネートが一段と深みを増してきた。メンズ物を取り入れたり、真逆の雰囲気をマッチさせたりと、少しの勇気が着こなしをリフレッシュさせる。だが、ついつい扱い慣れた組み合わせに落ち着いてしまいがちで、チャレンジングなミックスは試しにくい。そこで、手持ちアイテムをデータベース化して、AIに指令を出せば、「このトップスとボトムスの組み合わせはまだ試していませんが、おしゃれに見えそうです」と、新たなミックスコーデをレコメントしてくれるだろう。「いくら何でもそれは無理」と思えば、そう回答して再検討を求めればいい。本人の希望をさらに深く理解して次はもっと的確に提案してくれるはずだ。

 10通りのシミュレーションを試みたが、どれも近い将来に実現しそうに思える。しかし、スタイリングや買い物が便利になる半面、やはり自分なりのポリシーやスタイルを養っていかないと、「AI任せ」になってしまう人が増えるかも知れない。逆に、AIの強みを把握したうえで、「助言者、相談相手」として上手につきあえれば、本当の好みや自分らしい着こなしを発見するパートナーになってくれるだろう。既に開発が進んでいるAIサービスは私たちのおしゃれを加速、発展させる新たな「エンジン」になってくれる可能性を秘めている。(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江)

記事のタグ

最新の関連記事

おすすめ記事

Realtime

現在の人気記事

    次の記事を探す

    Ranking Top 10

    アクセスランキング