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SNSの隆盛や社会的な消費サイクルの加速で、現代のファッションシーンは目まぐるしく変化している。流行の移り変わりは激しく、長くブランドを維持するのが困難な時代でもある。
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蓮井茜が手掛ける「アカネ ウツノミヤ(AKANE UTSUNOMIYA)」は今年で設立15周年。デビュー初期から百貨店や有力セレクトショップで展開し、「フレッドペリー(FRED PERRY)」とのコラボレーションやオリジナルシューズのスタートなど要所でトピックを持ちながらも、堅実にコレクションを発表し続けている姿勢は、決して多弁ではないデザイナー 蓮井のキャラクターにも通じる。
鮮やかなカラーパレットと中間色の独特な配色、ベーシックなニットアイテムに捻りを効かせる匙加減、豊富なテキスタイルをデイリーにもハレの日にも使えるアイテムへと落とし込むバランス感といった、見て・着て感じる“アカネ ウツノミヤらしさ”が確かにある。「言葉で伝えるのはあまり得意ではない」と話す蓮井との静かな会話の中から、そのクリエイティブマインドの糸口を探る。
■蓮井茜
1982年生まれ。チェルシー・カレッジ・オブ・アーツを経て、セントラル・セント・マーチンズのBA テキスタイル科を卒業。同校のMAではファッションニット科を専攻した。ロンドン滞在を経て帰国後にアパレルブランドに就職し、2009年にアカネ ウツノミヤをスタート。2025年秋冬コレクションでデビューシーズン以来のショーを開催した。
説明が求められる現代でも、無理に語らないスタンスを貫く
──ブランドをはじめて15年が経ちましたが、東京のファッションシーンや服作りの環境の変化をどう捉えていますか?
サイクルがとても早くなりましたよね。情報量も膨大なので、その中で発信していくために、以前よりも背景やストーリー、説明が求められていると感じます。
──アカネ ウツノミヤでも背景、世界観の発信に力を入れているのでしょうか。
正直なところ、私は言葉で伝えるのがあまり得意ではなくて。だからこそ、ものを作る側になりたかったというのもあります。アカネ ウツノミヤに関して言えば、服自体やコレクションルックに込められるものがあるので、無理に語らなくてもいいかな、というスタンスです。
──ちなみに、15年の中で困難や危機はありましたか。
何かしら大変なことは、都度あったと思うのですが、あまり過去を振り返ることがあまりないんですよね......。前だけ見てきたというと聞こえがいいですが、この業界に足を踏み入れてから、ずっと流れに乗っているだけなのかもしれません(笑)。勿論、コレクションやビジネスとして考えるべきところは、立ち止まって考えていますが。とにかく手を動かし続けるようにしています。

──蓮井さんは芸術系の学校からセントマのテキスタイル科に転校していますが、最初はファッション以外に興味があったのでしょうか。
渡英した当初はプロダクトデザインに興味があったのですが、自分が生み出したものが、人の生活や身体と近い方が面白そうだなと思ったんです。ファッションに興味を持ち始めたのも、ブランドやアイテムそのものより、着ている人のことやキャンペーンヴィジュアルなどからでした。「誰かが身につけるもの」が前提というある種の“制限”を抱えながら、コンセプトやテーマは自由でいいというバランスに惹かれました。
──アカネ ウツノミヤでは、シーズンごとのテーマをあまり設けていないですよね。
1シーズンのレファレンスが常に多岐にわたり、「今季のレファレンスはこれです」とすぐ言えないこともあり、個別のテーマを設けるのが難しんですよね。テーマを設けると分かりやすくはあるのですが、なんとなく自分のスタイルと合わない気がして、こだわらないようにしています。
──コレクションの制作プロセスはルーティーン化されていますか?
結構自由で固定的ではないのですが、大体は全体の方向性や雰囲気を想像して、まず素材を探すことから始めます。糸や生地のリサーチをして、肌触りや機能性をチェックしていくうちに、こんなものを作ろう、と広がっていき、その過程で気になるアーティストや作品、映像、小説、写真のようなレファレンスが噛み合ってくるという感じでしょうか。スケッチも、しっかりする時もあれば固めすぎない時もあります。
──今日は貴重な資料をお持ちいただきました。
こういうムードボードは大体いつも作ります。今回は何色を使いたいと思ったら、その色を使った面白いと感じたものをとにかく貼っていく。そうすると、貼ったもの同士の組み合わせから「この配色いいな」と発見につながることもあります。

アカネ ウツノミヤ“らしさ”を象るもの
──アカネ ウツノミヤといえば、テキスタイルのバリエーションや独特な色使いが特長です。
特別な考えでもないと思うのですが、いわゆるデザインやシルエットだけではなくテキスタイルの風合いや素材感も含めてファッションデザインだと思っていて。だからこそコレクションを組んでいく時に、テキスタイル選びやアイデアが欠かせない。デザインと素材探しの優先度が同等なんです。
──配色も独特ですが、色選びのこだわりは何でしょうか。
テキスタイルとカラーは切っても切り離せないので、素材探しや、リファレンス集めの段階で、カラーのアイデアも自ずと固まってくるんですよね。ありがたいことに、「茜さんらしい」と言っていただける色の雰囲気はありますが、分かりやすい「ブランドカラー」は持ちたくないという、つい捻りを加えたくなる性分なので、塩梅には注意しています。

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15周年のショーで見せた、“古典的な女性像”の崩し方
──今年は15周年でデビューコレクション以来のファッションショーを披露しました。なぜこのタイミングで?
展示会やヴィジュアルだけではない、いつもと違った見せ方も模索してみたいと思い、本当は10周年でやろうとしていたのですが、コロナでできなかったので、次の節目だった15周年にしました。
──ショーの開催にあたり、制作で普段と違う点はありましたか?
今回のコレクションは、ショーありきでスタートしたので、完全にルック先行で進めました。モデルが着て、歩いた時に、どう見えるかを重視しました。スタイリングは普段からコレクションルックを手掛けてくれているデミ(デミ・デム)にお願いしたのですが、いつものブランドを知っている彼女とだからこそ、「ショーでは何ができるか」を考えやすかったんだと思います。

AKANE UTSUNOMIYA 2025年秋冬コレクション
Image by:  FASHIONSNAP(Koji Hirano)
──今シーズンは、どんなイメージソースで進めたのでしょうか。
まず、アーティストのトレイシー・エミン(Tracey Emin)のペインティングが浮かびました。彼女のドローイングの色彩感や“崩し”が、私のファッション感と通じるところがあるなと。それから、これまで深く女性性を掘り下げて制作したことがなかったので、ショー形式であれば、今考えていることをリンクさせられるんじゃないかと思ったんです。
──ショーの囲み取材では、「古典的な女性らしさをどう複雑に崩していくか」というお話がありました。
何か画一的なスタイル提案にならないように、曖昧さや自然体から滲み出る女性らしさを捉えたいと考えました。たとえば、レースやアンゴラ、チュールのようなクラシカルで感覚的にフェミニンっぽいものを、ユーモラスに見せられないかなと。
──センシュアルなランジェリーのディテールが際立つトップスにボリューミーなハットなど、小物を含めたスタイリングのアンバランス感が目を引きました。
まさに、そういう意外性のある組み合わせを楽しめるように組んでいきました。カジュアルに寄ったアイテムを女性的なシルエットになるスタイリングに取り入れたり、鮮やかでプレイフルな色合いのアイテムは肌を見せるようなデザインにしたり。全体を足し引きで整えていくのは、通常のプロセスとは異なる手法だったので、自分としても楽しんで取り組めました。

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

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──ニットも単色、ボーダー、ケーブル編み、ドレープなど、色やディテールのバリエーションが豊富でした。
ニットはブランドのキー素材でもあるので、ウォーキングで映えるニットはなんだろうと、これまでと違うアプローチを模索しました。ニットはほっこりした印象になりがちですが、スタイリングによって変化をつけることができないかなと。シンプルなデザインのものでも、肩に掛けたり頭に巻いたりと、動きを意識した遊び心のあるアレンジを取り入れられて楽しい経験でした。




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服のクリエイティブとユーティリティとリアリティ
──ショーで見て昂るようなルックと同時に、「日常的に着たい」と思わせるルックが多かったです。クリエイティブと実用性の“バランス”について、意識していることはあるのでしょうか。
強く意識してどうこう、ということでもないのですが、自分が作る服においては、そうでありたいと思っているんですよね。
──そうでありたい?
元々デザインやクリエイティブに興味が沸いた入り口がプロダクトデザインだったこともあり、「使えるかどうか(着用できるか)」は根本的な要素なのかなと。アカネ ウツノミヤの服を色んな人が各々の感覚で着ているのを見るのがやり甲斐でもあるので。

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──「扱いやすさ」で見ると、特に春夏シーズンのコレクションは素材に関してもその考えが浸透しているように感じます。
全アイテムには踏襲できていませんが、洗えるとか、型崩れしにくい素材は以前より考えるようになりました。メーカーさんの企業努力あってこそではありますが。
──アカネ ウツノミヤの客層は、30代を中心に、20代から50代と幅広いですよね。
素材や着回しなど、店舗の方から「着やすい」とか「提案しやすい」と言っていただくことが増えたのですが、自分としては今も昔も、まずは面白いと思うものを作り続けているだけというか。そのニュアンスに共感してくださる方が増えたことはとても嬉しいです。
──デザイナーズブランドは、デザイナーが歳を重ねるごとに服自体もエイジングというか、客層も上がっていくことが多いですよね。若年層にも響くフレッシュさを保つ秘訣などはあるのでしょうか。
15年続けてきて、「女性のファッションは本当に自由だな」と実感したんですよね。同じアイテムでも年齢によって着こなしは多様。それが刺激でもあり、励みでもありました。だからこそ、体型カバーや利便性に特化するのではなく、第一にファッションを楽しみたい気持ちに応えなければいけないなと。
具体的な方法論はないですが、若いスタッフや外部の方がポロッと溢した意見で、新鮮だなと思ったのもは頭の片隅に置くようにしていて、それがいい塩梅でアカネ ウツノミヤらしさを少しずつ進化させるヒントになっているかもしれません。





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「人との関わりが作るモチベーション」
──改めて、15年続けてこれたモチベーションは何でしょうか。
最初は10年続けるのが目標で、気がついたらここまで来ていました(笑)。単純に手を動かすのが好きなのと、続けていくうちに関わる人が増えたことで、新しい視点や刺激をもらえたのも大きな支えになったと思います。
──ちなみに、蓮井さんにとっての“いい服”はどんなものですか?
知恵や工夫が詰まっていて、プロダクト的な強度もある服でしょうか。ヴィンテージの服が好きなのですが、表から見えない部分まで緻密に考えられているのが面白いなと。シルエットや形を出すだけではなくて、可動性を加味したパターンや仕立てが追求されていると、機能性と人間味のバランスが素敵だなと思うんです。
──アカネ ウツノミヤでも、そうした強度のある服を目指していく?
その域に到達できたら、とは思います。15年続けてきて、雰囲気や世界観として“アカネ ウツノミヤ“っぽさが徐々に蓄積されてきたわけですが、これがファッションブランドの醍醐味なのかなと感じています。私の性格上、その都度の自分の感覚でいいと思ったものを集積して落とし込むので、今後もそのやり方を続けて、次にどんな“らしさ”が出てくるのか、私自身も楽しみです。

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