「アシックス(ASICS)」が2024年の秋冬に立ち上げたランニングアパレルの「リミテッドシリーズ」は、ランナーのパフォーマンスを最優先に据えたテクニカルな設計と、日本の伝統的な美意識を結びつけたデザインが特徴です。2026年春夏は“ibuki(息吹)”をコンセプトに、伝統工芸の伊勢型紙にインスピレーションを得たグラフィックを取り入れました。同シリーズについて、アシックスでグローバルアパレルデザインを統括するアリステア・キーズ(Alistair Keys)と、グローバルアパレルマーケティングの責任者である藤田真彩にインタビュー。2人は、オランダのアムステルダムにあるアシックス欧州本社を拠点に、日本や世界中のメンバーと協働しています。
話を聞いたのはこの2人
イギリス出身。複数のスポーツブランドやファッションブランドでのデザイナーを経て、アシックスに2022年に入社。オランダ・アムステルダムの欧州本社で、ランニングとテニスカテゴリーのアパレル製品のグローバルデザイン統括を務める。日本には過去25年で20数回の渡航経験あり。趣味はキックボクシングのトレーニング。
機能性と日本文化の二面性を表現




「リミテッドシリーズ」の2026年春夏ヴィジュアル。同アイテムでも、メンズとウィメンズで細部のデザインを変えている箇所がある
──まずは、リミテッドシリーズの役割や狙いについて教えてください。
アリステア・キーズ アシックス グローバルアパレル部 デザイン&クリエイティブチーム マネージャー(以下、キーズ):アシックスが軸に据えているのは、ランナーが走りに集中できる、パフォーマンス性の高いランニングアパレルを提供することです。アシックスは、常にランナーの課題解決を出発点としてもの作りを行ってきました。同時に消費者はアシックスのもつストーリー性や「日本発のブランド」という背景にも惹かれている。そこで、アシックスの日本的なヘリテージを探求するという意味で、リミテッドシリーズでは日本の伝統工芸や美意識をテーマとして取り上げています。
これまで同シリーズでは、日本の伝統芸能や、戦国武将の武具などに飾られた“勝ち虫”としてのトンボのモチーフなどをグラフィックとして採用してきました。日本は最先端のテクノロジーと、古くからの伝統やわびさびといった美意識が共存するユニークな国です。リミテッドシリーズでも、アシックスの強みである高度な機能性に日本の伝統を掛け合わせ、二面性を表現しています。
藤田真彩アシックス カテゴリー戦略部 テゴリーマーケティングチーム マネージャー(以下、藤田):リミテッドシリーズは、着るもので自分らしさを表現したいと考えているランナーをターゲットとしています。「ファッショナブルでスタイリッシュなランニングウェア」といった言葉で表現するとチープになるのであまりそうは言いたくありませんが、今のランナーは走ることを通して自己表現やコミュニケーションを楽しむようになっていますよね。リミテッドシリーズは、デザインも品質も特別なものを身に着けて走りたい、と思うランナーの方々に向けたプレミアムなコレクションです。
我々としては、鬼塚喜八郎が創業し、日本人がイノベーションを重ねてきたというアシックスのルーツを伝えたい。海外のランナーだけでなく、日本を訪れるインバウンド客にも「リミテッドシリーズ」は人気商品となっています。
型紙職人と協働、“ibuki(息吹)”がコンセプト




伊勢型紙の職人と協働してオリジナルデザインを制作した
──2026年春夏のリミテッドシリーズは、“ibuki(息吹)”をコンセプトにしたグラフィックが印象的です。リサーチのために、アリステアさんも実際に日本の職人のもとを訪れたそうですね。
キーズ:“ibuki(息吹)”は、息づかいや生命の気配、新しい季節の始まりを感じさせ、空気の流れや通気の重要性を象徴する言葉です。春夏シーズンと相性のよいテーマであり、視覚的な魅力と通気性などの機能性を同時に語れる点が魅力でした。ジャケットは軽量で、はっ水加工を施し、脇下をメッシュ素材に切り替えるなど、空気循環を意識した設計になっています。
デザインのためのリサーチを行ったのは、今から2年ほど前。チームでまず訪ねたのが大阪です。19世紀末〜20世紀初頭の着物の図案を収集しているコレクターの男性に会って、貴重なコレクションを見せてもらいました。その次に訪問したのが三重の伊勢型紙の職人たち。型紙とは、和紙に細かい穴を彫って文様を作り、着物の模様を染めるために使われるものです。最も複雑な型紙は1平方センチに100個以上の穴を彫るといいます。アシックスは職人たちと協働し、雲をモチーフにしたオリジナルの型紙を制作してもらいました。それをもとに、プリントやレーザーカットなどでリミテッドシリーズのデザインに落とし込んでいます。
──デザイン上のこだわりと同時に、機能面ではどういった点を重視しましたか?
キーズ:アシックスは、神戸に独自の研究施設であるアシックススポーツ工学研究所(ISS)を持っており、そこにアスリートを招いて運動時のデータ計測やそれに基づく製品開発を進めています。リミテッドシリーズの設計にあたっても、ISSに蓄積されているボディサーモマッピングなどのデータを採用しました。例えばTシャツの生地は、無数の通気孔を備えるように編み立てていますが、どれくらいのサイズの通気孔を体のどこに配置するかは、全て研究データに基づいて決めています。
ランニングウェアは自己表現のツールに
「リミテッドシリーズ」の2026年春夏イメージムービー
──ランナーのウェアといえば機能性が最優先で、ファッションや自己表現は後回しというイメージも従来はありました。ランナーが求めるものが、以前とは変化してきたということですか?
キーズ:ここ10〜15年でランニング市場は大幅に拡大し、新規ブランドもかなり増えました。ランニングギアといえば、かつてはヴィヴィッドカラーで形はこれ、という定型があり、多くのブランドがそれに従っていた。でも、ブランドが増える中で、それぞれが多様な表現を取り入れるようになっています。ランニングウェアを日常で着ることも増え、ライフスタイルやファッションの領域とランニングウェアとが、カテゴリーを超えて影響し合うようになっています。
藤田:消費者調査やランニング関連のメディアを見ていると、マラソンやレースはいまやファッションショーのようになっています。自己表現としてランニングを楽しむ傾向は年々強まっており、シューズよりも占める面積の大きなアパレル製品は、これからますます多様なデザインの可能性があると思っています。
アシックスは従来はシューズの存在感が大きなブランドでした。しかし、リミテッドシリーズを通して、シューズブランドではなく頭からつま先までトータルで提案するヘッド・トゥー・トーブランドであることを世界中のお客さまに知っていただけたらうれしいです。シューズはもちろんアシックスの大きな強みですが、リミテッドシリーズによって、アパレルへの本気度も示していけたらと思っています。
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