ビッグマック560円時代のファッション消費を見通して

今年9月にパリで開かれた日本ブランドの合同ポップアップストア「ル・ソレイユ・ルヴァン」
今年9月にパリで開かれた日本ブランドの合同ポップアップストア「ル・ソレイユ・ルヴァン」

 2014年を振り返ってみると、「円安」と「格差社会」というキーワードが頭から離れません。ビッグマック指数(BMI)という言葉をご存知でしょうか。世界の物価を測る指標の一つで、世界各国に進出している同一商品の価格から判断するため、ビックマックの値段を活用しているものです。(文:Journal Cubocci 編集長・ファッションジャーナリスト 久保 雅裕

 2014年のデータによると、ビックマックはフランスが3.9ユーロ(12月17日の為替レート換算・570円)、米国が4.8ドル(同560円)、対して日本は370円。この間のデフレ経済と円安によって、同じ先進国でありながら大きな価格差が生まれています。肌感覚で言うと1ユーロ=95円、1ドル=77円が同意できる為替レートという事になる訳です。すなわち円、つまり日本の国力が実力以下に見られていると言い替えても良いでしょう。

 安倍内閣の続投によって円安基調が続くことは間違いなく、輸入原材料費そのものの高騰と円安によるダブルパンチの価格上昇に伴い、あくまでも象徴例として言うならビッグマック560円時代になる日が来ると予想されます。あくまでも現状の為替とインフレに見合う賃金上昇が続けばという前提です。もちろん日本マクドナルドが様々なコストカットを試み、そこまでの値上げはしないだろうとも予測できますが。

■日本をファッション先進国に押し上げたのは誰?

 そこで、円安ともう一つの大きな問題「格差社会」の暗雲が立ち込めます。この失われた20年の間に非正規雇用者の比率が全体の20.9%(1995年)から36.7%(2013年)に増えました。一方サラリーマンの平均年収は同じ時期を比較すると457万円から414万円となり、約10%減ったことになります。しかも2012年のデータで正規雇用と非正規雇用の年収を比べると468万円と168万円、つまり300万円もの開きがあります。

 かつて日本には「1億総中流」と言われた時代がありました。この潤沢な中間層がファッション消費を維持し、他の欧米先進国よりも「ファッション感度の高い国」に日本を押し上げてきた原動力となっていました。しかしこの潤沢な中間層が崩れ、働き手の約4割が年収差300万円の格差社会の底に沈み始めている訳です。

 グローバルSPAと呼ばれる欧米のファストファッションの代表格「H&M」「ZARA」や日本型低価格SPAと古着が若年層だけでなく、こうした人々のファッション購買の中心に据えられてきていることがはっきりしてきました。既に早くから階級社会、格差社会を形成してきた欧州先進国では、「ファッションはこの程度で良い」というある種の諦め感が漂っています。いやむしろ、ファッションにお金を掛ける余裕など無くなってきていると言った方が分かりやすいかもしれません。

■ファッションにお金を掛けるのはみっともない?

 こうした社会意識はどのように醸成されてくるのでしょう。ファッションは、その人の日常生活の中で潤いを与え、気分を上げてくれ、自信を漲らせてくれるツールになります。しかし、クリエーションに支払うお金を持てなくなれば、自ずと「ファッションにお金を掛けるのはみっともない」「この程度で良い」と自己暗示のように自身に言い聞かせ、その繰り返しによって「ファッションに一生懸命なのはカッコ悪い」という社会意識が醸成されてくるのではないでしょうか。今まさに、日本はこの岐路に立たされていると思うのです。

 それは、セレクトショップのバイヤーが小さな合同展を回って、面白い物を作っている若手デザイナーの商品をオーダーしなくなっている。昨年売れたもののリピートや別注はするが、挑戦的な商品には手を出さなくなっているという傾向が強まっていることにも表れています。これは実は「鶏と卵の関係」で、市場で先程のような社会意識が醸成されているが故に、挑戦的なものが売れなくなっているという事の表れという側面と、また裏を返せば、挑戦的な商品を買い付けないから、店頭に並ばず、消費者も見ることすらないという二面性があります。

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