ライセンス先企業は地元の消費者ニーズや体型、市場動向をよく分かっているうえ、プライスの面でもリーズナブルに設定できるので、消費者の支持を受けやすくなる。三陽商会が手掛ける「バーバリー・ブラックレーベル」と「バーバリー・ブルーレーベル」の派生2ブランドは、三陽商会と英バーバリーが日本市場向けに共同開発したブランドだ。本家はもともとの「バーバリー」ブランドに加え、モード感を高めた最高級ライン「BURBERRY PRORSUM(バーバリー・プローサム)」をフラッグシップ・ブランドに据えて、ブランドイメージをさらに引き上げる戦略を打ち出している。
英バーバリーの経営トップに就いているクリストファー・ベイリー最高経営責任者(CEO)はもともと「BURBERRY PRORSUM」のデザイナーとして知られている。CEOの座にあったアンジェラ・アーレンツ氏が米アップルに引き抜かれたことに伴い、それまでチーフ・クリエイティブオフィサーだったベイリー氏が経営トップも兼ねることになった。「BURBERRY PRORSUM」をモードブランドに押し上げたベイリー氏のクリエーションは国際的にも高く評価されている。商品デザインだけでなく、企業イメージづくり全般を担うチーフ・クリエーティブ・オフィサーという重職にあるベイリー氏がCEOに就いて「本家仕様」にブランドを統一する姿勢を鮮明にしたのは、デザイナー出身者としては自然な発想と映る。
しかし、ライセンス先企業の独自開発商品にも消費者から見た利点は少なくない。日本に関して言えば、バッグや革小物の企画・製造に長けた優秀なメーカーが多く、日本独自企画のバッグや革小物は本家が認めて本国のショップに置くケースすらある。服にはフィット感が欠かせないが、ライセンス先企業は日本人体型を熟知しているので、シルエットの微調整が可能だ。
デザインもグローバル市場を意識した本家の提案は日本人の趣味になじまないケースがあり得るが、ライセンス先企業の独自企画は最初から日本人の好むテイストが落とし込まれている。程よく本家テイストを写し込んだキャッチーなデザインや、こなれた価格設定もライセンス物が支持を集めやすい理由。ブランド物のハンカチは日本メーカーの得意とするところだ。
だが、ラグジュアリー志向を強めるブランドにとってライセンス物はブランドイメージを損なうノイズと映る場合もある。ブランディングやマーケティングがますます重視され、世界をひとつの市場と見る意識が広がってきたのを背景に、本家デザインのグローバル仕様に統一する流れはこの先も勢いづきそうだ。ファストファッションの台頭を受けて、消費が二極化する中、ブランド企業にとってはグローバル市場をにらんだブランドコントロールが生命線となっている。様々な情勢の移り変わりを受けて、ライセンスビジネスは大きな曲がり角を迎えたと言えそうだ。
■宮田理江 - ファッションジャーナリスト -
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビなど数々のメディアでコレクションのリポート、トレンドの解説などを手掛ける。コメント提供や記事執筆のほかに、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南書『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』がある(共に学研)。
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