【コラム】「ありえない系」ファッションがおしゃれルールを変える

東京ブランド2016年春夏の新作 Image by Fashionsnap.com
東京ブランド2016年春夏の新作
Image by: Fashionsnap.com

ファッションの「約束事」がここ数シーズンで様変わりしているのを感じます。昨年末にこちらのコラムで「トレンドフリー(=トレンドの消失)」を取り上げた通り、2015年にはジェンダーレスシーズンレスなどが勢いづき、性別や季節の壁を越えて、別のムードとテイストミックスする着こなしが世界的に広がりました。16年はこれまでの「常識」をさらに揺さぶるようなスタイリングやアイテムが登場してきそうな気配です。(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江

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■おしゃれルールに変化

 「ファッション=かっこいい、整っている」という概念が崩れ始めました。今まではセンスのよさと「おしゃれ」が近い意味とされてきましたが、そうではなくなってきています。たとえば、わざとダサめに見せる「ギーク(理系おたく)」も「きれいに見せる」という従来の役割とは縁遠いテイスト。「ナード(文系おたく)」は従来、モードから遠い存在だった人たちのスタイルにスポットライトが当てています。

 16年に向けてモード界ではランジェリーやパジャマを街中に進出させる提案が相次いでいます。本来は他人に見せないはずだった下着や寝間着までおしゃれアイテム化する「ありえない系」ファッションが、おしゃれのルールをドラスティックに書き換えていきそうです。

 着る側が主導する「しなやかな自分本位制」とも呼べそうなムーブメントです。それは「ありえないけど、それもあり」という、やや不敵な自意識に裏打ちされています。全員が60歳を超えている7人のニューヨークマダムが自分らしい着こなしを披露する映画『アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生』でも示された、自分と服を切り離せない間柄ととらえる感覚です。業界やメディアが仕掛けるトレンドやブームに軽々しく同調しない態度でもあります。

advancedstyle_001.jpg『アドバンスト・スタイル そのファッションが人生』(c)2014 Advanced Style The Documentary Llc. All Right Reserved. advancedstyle-movie.com

■アスレジャーが有力トレンドに

 ワークウエア(作業着)の機能美を写し取った「ユーティリティー」、楽ちん感重視の「コンフォート」といった新トレンドは単なるスタイリング手法にとどまりません。むしろ、見栄えと引き替えに苦痛や負担を強いてきたこれまでのファッションへの「着る側」からの反乱と見えます。ガウチョパンツがアパレル業界で2015年最大のヒット商品となったのも、進化したエフォートレスやコンフォートが消費者の気持ちと折り合ったからでしょう。16年の有望トレンドとされる、「athletic」と「leisure」を組み合わせた造語「アスレジャー」のスタイルも着心地のよさや、動きの快適感、扱いのイージーさなどが評価され、支持が広がり始めています。

nergy-shibuya-20150917_009-th.jpgアスレジャーを提案するジュンとナイキによる新業態「ナージー(NERGY)」

 シェア(共有)に抵抗感の薄い消費者から支持されて成長してきたのが、レンタル形式のシェアリングサービス。「カブリ」を嫌い、レア物や限定商品を欲しがるような独占所有のワードローブ意識とは対極に位置する考え方です。SNSを通じて、「着る」という個人的な体験すらも共有する人たちは、おしゃれの意味までも変質させ始めました。同じカットソーを着た思い思いのルックをSNS上で分かち合う人たちは、「モノ消費」の代名詞的存在だったはずのファッションを、コミュニケーションツールとしての「コト消費」に置き換えつつあるのです。

■性別や年齢、季節をまたぐ「レス」系が台頭

 トレンドとの向き合い方も移り変わっていて、これまでの「乗り遅れないようにしなきゃ」といった観念はやわらぎました。気が向かないブームは見送り、自分好みの流行だけを受け入れる態度が広がって、横並び意識も一時期よりは薄れてきたようです。シンプル志向のワードローブ維持を説いた『フランス人は10着しか服を持たない』がファッション本では異例のベストセラーになったことも、本当の意味での「上質」「賢さ」「美意識」を求める消費者マインドの盛り上がりを映しています。複数のトレンドが同時進行で動くようになったおかげで、様々なムードをテイストミックスしやすくなってきたのも「自分流」のコーディネートを後押ししているようです。

 デザイナーや企業の側もこういった「着る側」の変心を感じ取って、何通りにも着回せる服や、季節をまたぐ装いを提案するようになってきました。15年秋冬にヒットした「コーディガン(コート×カーディガン)」もその表れ。16年春夏に向けても落ち感を帯びたトレンチコートの「トロンチ」が登場。ガウチョパンツをヒットさせた「GU(ジーユー)」からはスカート形のパンツ「スカンツ」が打ち出されています。

 レトロ感やクラシックさを備えた装いが広がり、「タイムレス」のうねりも強くなってきました。カシミアやツイード生地に象徴される上質素材の人気は、服に愛着を持って長く着る意識の浸透をうかがわせます。ヴィンテージ・古着のファンが増えてきたのも同じ志向からでしょう。自由な気分が強かった70年代ルックが長く支持されているのも納得てきます。同じ「レス」系ではノージェンダーシーズンレスシーンフリーノンエイジなども定着の気配。全体として着る側の自由度を高め、選択肢の幅を広げる潮流が勢いを増すと見えます。

■2016年はさらに「私的」に

 消える一方ではなく、丁寧な手仕事感や細部へのこだわり、ユーモラスな遊びは2016年向けに相次いで打ち出されている取り組みで、着姿に一段と深みをもたらしていきます。「ステートメント」と呼ばれる、服に発言力を持たせる演出も、着る人のオピニオンを発信する手段となり、メッセージTシャツの進化版と言えそうです。

 古い仕組みが崩れる中から、おぼろげに輪郭を見せ始めたのは、作る側・売る側の事情に押し切られてしまわない、着る側のリアルな自意識です。「こなれ感」がキーワードとなる中、力みや新品感は「野暮」「わざとらしい」と見なされるようになってきました。むしろ「ありえない」の半歩手前までにじり寄るスリリングな着こなしが価値を持つようになっています。服を着ないと外に出て生活できないことからも分かる通り、服には世界と向き合う「接触面」という意味があり、そこに多少のリスクを取ってでも本来の自分を写し込む気持ちが強まってきたと見えます。こういった流れが加速する2016年は、今までよりもチャレンジングな「私的」ファッションを試す好機になりそうです。

(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江

宮田理江 - ファッションジャーナリスト -

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 複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビなど数々のメディアでコレクションのリポート、トレンドの解説などを手掛ける。コメント提供や記事執筆のほかに、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南書『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』がある(共に学研)。  http://riemiyata.com/

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