
Image by: メンズビギ
「メンズビギ(MEN’S BIGI)」が、2025年に設立50周年を迎えた。デザイナー 菊池武夫が1970年に設立したウィメンズブランド「ビギ(BIGI)」が、1973年にメンズラインをスタート。1975年にメンズビギが発足し、メンズデザイナーズブランドの草分け的存在として、日本のファッションシーンを牽引してきた。

メンズビギ設立当時の菊池武夫
Image by: メンズビギ
その影響力の大きさを象徴するエピソードのひとつが、メンズビギ設立前のビギ時代に行ったテレビドラマ「傷だらけの天使」への衣装提供だ。同ドラマの主演は、当時の若者に絶大な影響力を持っていた萩原健一。幅の広いピークドラペルのジャケットにパンタロンを合わせた前衛的なデザインのスーツを萩原が劇中で着用したことは社会現象となり、同アイテムは驚異的な売上を記録した。また、メンズビギとしては1978年に日本のメンズブランドで初めてパリファッションウィークに進出。1980年代に日本人デザイナーがパリで活躍する礎を築いた。更に現地にショップをオープンするなど、時代に先駆けた取り組みを行い、国内外を問わず熱狂的なファンを獲得。同時代のクリエイター達にも多大な影響を与えた。しかし、その後のメンズビギの発信力は、往年の勢いを知るファンにとっては物足りなかったかもしれない。




メンズビギのパリコレクションを紹介する当時のファッション誌
Image by: メンズビギ
そんなメンズビギが、反転攻勢をかける。50周年を記念して、日本を代表するクリエイターたちとのコラボレーションコレクションを展開するのだ。節目の年でタッグを組むのは、菊池武夫と中田慎介。ブランド創業者で、1984年にメンズビギを退社して以降自身のブランドを展開していた菊池が、古巣・メンズビギとコラボすることは、大きな話題を呼んだ。また、数々の人気ブランドを手掛け、時代の寵児と言えるクリエイティブディレクター 中田との化学反応にも注目が集まっている。
さらに、コラボに合わせてポップアップイベントを開催。9月には東京・有楽町に旗艦店をオープンする。メンズビギはこれからどんなファッションを発信していくのか。2020年からメンズビギのディレクターを務めている鈴木敏之氏に話を聞いた。
メンズビギの本質は「前衛的なデザイナーズブランド」
⎯⎯メンズビギに入社する前はセレクトショップでディレクションなどを担当されていたそうですが、当時と今でメンズビギに対するイメージは変わりましたか?
前職のときは、いわゆる「マルイ系」というイメージが強かったですが、今は「デザイナーズブランド」という認識が非常に強いですね。数年前にメンズビギのオフィスの引越しを行ったのですが、そのときに1980年代以降の資料が大量に出てきたんですよ。当時のカタログやショーのビデオ、ノベルティ、サンプルなどを見ていると、創業者のタケ先生(菊池武夫さんの愛称)をはじめとする歴代デザイナーが、その時代の最先端のファッションを打ち出していたことが伝わってきて、メンズビギの本質はデザイナーのクリエイティビティであることを強く認識しました。50年の歴史があるということは、ブランドにとって非常に大きな強みだと思います。




メンズビギアーカイヴヴィジュアル
Image by: メンズビギ
⎯⎯菊池さんがメンズビギを退社してから錚々たる面々がディレクターを務めてきました。鈴木さんが考える“メンズビギらしさ”とはどんなものでしょうか?
メンズファッションのルーツである英国を筆頭としたヨーロッパ各地やアメリカなどの洋服やカルチャーを取り入れてファッションに落とし込んでいることですね。アイテムで言えばテーラードジャケットですが、いわゆるビジネスウェアではなく、大人の男が遊びに行くときに着るような、色気があるイメージ。タケ先生は自分のデザインをトラッドと真逆のものと捉えているそうなんです。メンズビギはただ単にトラディショナルな服を作るのではなく、前衛的なファッションを提案するデザイナーズブランドであると言えるでしょう。







日本を代表するフォトグラファー 植田正治が手掛けたヴィジュアル
Image by: メンズビギ
菊池武夫、中田慎介との50周年コラボアイテム誕生秘話
⎯⎯「BEGIN THE BIGI」と題した今回の50周年記念企画。狙いを教えてください。
現在のメンズビギの課題のひとつは、新規のお客様の獲得が進んでいないことです。特に、40代より下の世代からは、ほとんど認知されていない状況。また、既存のお客様を大事するのは当たり前のことですが、それを意識するあまり特定のデザインやシルエットに凝り固まってしまっていたのではないか、という懸念もあります。
若い世代に響く新しいファッションを提案することが、企画の最大の狙いです。とはいえ、ただ単に若者受けを狙ってトレンドを追いかけたデザインの服を作るのは、メンズビギらしくありません。では、どうやったらメンズビギらしくて新しいファッションを打ち出せるのか。幸運なことに、メンズビギには50年間蓄積されてきたアーカイヴがあります。今回のコラボで改めてアーカイヴの数々をチェックしてみましたが、今の感覚で見ても格好良いんですよ。デザインの独創性が高いうえ、上質な生地や付属品を用いているので、全く色褪せていないどころか、新しささえ感じられるんです。







メンズビギアーカイヴアイテム
Image by: メンズビギ
メンズビギがこんなにもクールなブランドだったことを若い世代に伝えられていないのは、とてももったいないことだと感じました。アーカイヴは、メンズビギが持つ唯一無二の個性と言えます。当時のアイテムを復刻するという方法もありますが、50周年ということでもっと挑戦的な試みをしてみたかった。こうした経緯から、今回はブランドのオリジナリティが詰まったアーカイヴと、タケ先生と中田さんの感性、そして2025年の空気感をかけ合わせた、今のメンズビギでしかできない唯一無二のコレクションを作りました。

「BEGIN THE BIGI」キーヴィジュアル
Image by: メンズビギ
⎯⎯創業者とはいえ、現在メンズビギとは直接関わりのない菊池武夫さんとコラボすると聞いて驚きました。
タケ先生から「何か一緒にやりませんか」とお声がけいただいたんです。自分が始めたブランドの節目の年なので、思うところがあったのでしょう。タケ先生は打ち合わせのときに、ご自身が描いたスタイル画を持ってきてくれました。









菊池武夫直筆デザイン画
Image by: メンズビギ
タケ先生の頭の中に既にそれぞれのアイテムのイメージが明確にあったようで、トワルチェックのときは「この部分を5mm削りたい」などと、とても細かくパタンナーに指示していたのが印象に残っています。






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⎯⎯菊池さんとのコラボアイテムのなかで、特に注目のものを教えてください。

メンズビギ50周年記念菊池武夫コラボレーションアイテム
Image by: メンズビギ
まず挙げたいのがスタジャンです。実は、タケ先生が出掛けていたころのメンズビギではスタジャンは展開していなかったので、タケ先生によるスタジャンを販売するのは今回が初になるんです。刺繍は1980年代のアーカイヴのグラフィックをリデザインし、リブにはリアルレザー素材を用いるなど、細部までこだわった仕様になっています。




メンズビギ50周年記念菊池武夫コラボレーションスタジャン
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また、メンズビギの歴史を語るうえで欠かせない、「傷だらけの天使」で萩原健一さんが着用したダブルブレストのセットアップや、映画「燃えよドラゴン」でブルース・リー(Bruce Lee)さんが着ていたセットアップは、1970年代の雰囲気を漂わせながら今のファッションとして着られるよう現代的にアップデートしました。








メンズビギ50周年記念菊池武夫コラボレーション萩原健一モデル
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ボアパイル素材の半袖パーカとショートパンツは、タケ先生からご提案いただきました。発売するのが秋冬シーズンなので売れないのではと一時は見送りも検討したのですが、蓋を開けてみると展示会で一番人気でした。さすがタケ先生だな、と思いましたね(笑)。





メンズビギ50周年記念菊池武夫コラボレーション ボアパーカ&パンツ
Image by: メンズビギ
⎯⎯中田さんはどういった経緯で起用されたのでしょうか。
元々、今回の50周年企画はメンズビギのアイコンであるスタジャンを軸にしようと考えていたんです。メンズビギのスタジャンを最も今っぽく表現していただける方として挙がったのが、中田さんでした。中田さんは普段とても物腰が柔らかいのですが、ものづくりになると目の色が変わりましたね。特に色の出し方やシルエットに対して、相当こだわっていました。








Image by: メンズビギ
タケ先生は打ち合わせで用意した生地のサンプルを見ながら徐々に形を作り上げていくという製作方法でしたが、中田さんは初回の打ち合わせでは膨大な資料をくまなく確認してインプットすることに時間を割き、2回目の打ち合わせのときには「こんな色のこんな生地で、こういうディテールの服をつくりたい」というように、かなり明確にイメージを固めていました。それぞれアプローチは全く違いますが、おふたりと一緒にアイテムを作れたことは個人的にもとても勉強になりました。

メンズビギ50周年記念中田慎介コラボレーションアイテム
Image by: メンズビギ
中田さんは1980年代のメンズビギのイメージが強いようで、今回の企画に際して当時のアーカイヴをかなりご覧になっていました。そして生まれたのが、このスタジャンです。1987年に発売されたスタジャンを、中田さんらしいゆったりとしたシルエットにアレンジしたうえで、ブラウン×ブラックのカラーパレットを用いたことで、洗練された大人の雰囲気に仕上がっています。




メンズビギ50周年記念中田慎介コラボレーションスタジャン
Image by: メンズビギ
こちらのオーバーコートは、中田さんらしいリバーシブルデザインを採用しています。クラシックな雰囲気のハウンドトゥース柄のウール素材と、モダンな雰囲気のコットンツイル素材が一着のコートに同居した、中田さんとメンズビギとのコラボでしか生まれないアイテムになりました。


メンズビギ50周年記念中田慎介コラボレーションコート
Image by: メンズビギ
チノスラックスは、会社で保管していたアーカイヴではなく、中田さんが古着屋で購入したビギ時代のパンツをベースにしています。ウエスト部分の凝った仕様と、中田さんらしいリラックス感のあるシルエットを両立させた一本です。




メンズビギ50周年記念中田慎介コラボレーションパンツ
Image by: メンズビギ
今回、非常に興味深かったのが、タケ先生も中田さんも展開アイテムのベースカラーにブラウンを選んでいたことです。事前に打ち合わせをした訳ではないので、おそらくおふたりにとってメンズビギと言えばブラウン、というイメージがあったのでしょうね。このことからも、メンズビギというブランドにはしっかりとした軸があることを再認識しました。

メンズビギアーカイヴヴィジュアル
Image by: メンズビギ
⎯⎯今回のコラボヴィジュアルを撮影したのは、フォトグラファーとしても活動している俳優の安藤政信さんです。
安藤さんもメンズビギと同じ1975年生まれなので、縁を感じてオファーを受けてくださったのかもしれません。安藤さんだけでなく、俳優の山田孝之さんやスタイリストの大久保篤志さんら、ビッグネームの方々にもモデルとして参加していただきましたが、皆さんメンズビギをリスペクトしてくれていて、非常に協力的だったのが嬉しかったですね。






左から大久保篤志、中田慎介、山田孝之、菊池武夫、鈴木敏之、安藤政信
Image by: メンズビギ

安藤政信
⎯⎯周年企画の一環として代官山、渋谷、六本木でポップアップも開催します。
メンズビギのことをよく知らない人に認知してもらうために、発信力があるロケーションを選びました。代官山 T-SITEではタケ先生とのコラボアイテムを先行販売、渋谷パルコでは中田さんとのコラボアイテムを先行販売、そして六本木ヒルズでは両コラボアイテムの販売を行い、代官山と六本木ヒルズでは安藤さんの写真展も開催いたします。メンズビギがパリに出店したときのファサードデザインを取り入れるなど、内装にもこだわっているので、ぜひ多くの方に見ていただきたいですね。
■代官山T-SITE ガーデンギャラリーポップアップ
所在地:東京都渋谷区猿楽町16−15
開催日:2025年9月12日(金)〜14日(日)
営業時間:11:00〜20:00(最終日は17:00終了)
■渋谷パルコポップアップ
所在地:東京都渋谷区宇田川町15-1
開催日:2025年9月19日(金)〜10月1日(水)
営業時間:11:00〜21:00
■六本木ヒルズポップアップ
所在地:東京都港区六本木6丁目10−1
開催日:2025年9月27日(土)〜10月26日(日)
営業時間:11:00〜21:00(仮)
有楽町に旗艦店をオープン、これからのメンズビギが目指すブランド像
⎯⎯9月12日には有楽町マルイに旗艦店をオープン。
現在店舗がある7階から6階への移転し、旗艦店として心機一転オープンします。メンズビギは現在全国で30以上の店舗を展開しているので、店舗の大きさや内装がそれぞれ違うためにブランドの世界観を統一することが難しかったのですが、旗艦店では、メンズビギというブランドの世界観をしっかりと表現し、ブランドステータスを上げていくことをミッションに掲げます。我々が打ち出したいスタイルをお客様にきちんとお伝えするために、接客もブランドを熟知したプロフェッショナルが担当し、メンズビギらしさを正確に表現していきたいと考えています。

Image by: メンズビギ
⎯⎯50周年コラボ、ポップアップ、旗艦店オープンとトピックが目白押しですが、鈴木さんはメンズビギの将来像をどのように描いていますか?
抽象的な表現になりますが、やはり“ファッションブランド”としてあり続けていたい。そのためには、お客様に「欲しい!」と思っていただける服と、楽しんで買い物ができる店舗を提供し続けていかなければなりません。ただ流行りを追いかけた「売れ線」の服を作るのではない、そして、昔と同じことを続けるのでもない。歴史あるデザイナーズブランドとして筋の通った新しいスタイルを提案し続けていくことが、メンズビギのあるべき姿だと考えています。そして、お客様がメンズビギの服を着て、自分らしさを表現してもらえたら嬉しいですね。
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