ワークショップや講義も受けられる、東京都による若手デザイナーを発掘・育成する新たなコンクールの審査会に潜入

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NFDT フリー部門二次審査会の様子

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NFDT フリー部門二次審査会の様子

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ワークショップや講義も受けられる、東京都による若手デザイナーを発掘・育成する新たなコンクールの審査会に潜入

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NFDT フリー部門二次審査会の様子

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 国内外さまざまなアワードが開催されている中、参加者が口を揃えて「今までになかった新鮮な体験や吸収ができた」と話すのがファッションコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo」(以下、NFDT)と「Sustainable Fashion Design Award」(以下、SFDA)だ。昨年度、FASHIONSNAPでは二次審査会、ショー形式で行われた最終審査をレポート。今年度も、両アワードの二次審査の会場に潜入した。

「NFDT」「SFDA」とは? 

 2022年に東京都が設立した「NFDT(Next Fashion Designer of Tokyo)」と「SFDA (Sustainable Fashion Design Award)」。東京都では、これまでに東京をパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンと肩を並べる「ファッションの拠点」にするべく、2014年に「TOKYO FASHION AWARD」や2017年に「FASHION PRIZE OF TOKYO」を設立。「NFDT」と「SFDA」は、特に世界で活躍する若き才能の芽を育て上げていくことを目的とし、未来を担う若手デザイナーを発掘・育成するための実践的なプログラムが組まれている。

 同コンクールの最大の特徴としては、一次審査、二次審査それぞれ終了後に、審査員のデザイナーをはじめファッション業界の最先端で活躍するプロフェッショナル達による講義や、応募者全員を対象としたワークショッププログラムが受けられること。また、二次審査通過者にはビジネス体験として売るところまで想定したプログラムを設置するなど、受賞を獲得しなくとも過程の中で新たな視点や技術、交流に出会うことができ、本当の意味での「育成」を考えたコンクール内容となっている。

一般観覧可能なショー形式で行われた昨年の最終審査の様子

Image by: FASHIONSNAP

 受賞者には、大賞、優秀賞、特別選抜賞としてそれぞれ賞金が与えられるほか、ブランドの立ち上げをサポート。また、都内商業施設等で巡回展示を行い、パリでの展示会参加等も支援する。さらに応募者全員には、次年度以降デザイナーとして世界で活躍するために役立つワークショップ等への参加の権利が与えられるなど、継続的なプログラムを用意している。

 在学中の学生を応募対象者としたNFDTは、自由な発想での表現力が試される「フリー部門」と、障害のある方にとって着心地がよくファッション性の高い作品を選ぶ「インクルーシブデザイン部門」で構成。SFDAは、学生やキャリア問わず「日本独自の着物などの文化、伝統を現代のファッションの力により新たな形で世界に発信していくこと」を審査要項に一般応募も可能。服を対象とした「ウェア部門」と、バッグや帽子などを対象とした「ファッショングッズ部門」のそれぞれ2部門で審査を行った。

審査だけでは終わらない、ワークショップや審査員と対話できる機会

 一次審査通過者は、ビジネス面からブランドを考えるワークショップを受けたのち、デザイン画に沿った1ルックを制作。12月中旬に行われた二次審査会では、デザイン性、機能性、新規性(伝統の継承と革新)、市場性、サステナビリティへの対応、将来性の6項目を元に、各アワードからそれぞれ12組ずつが選出され、3月29日にショー形式で実施する最終審査へと進む。

 NFDTのフリー部門二次審査の審査員は、前年度から引き続き、ファッションディレクター原由美子、「アンリアレイジ(ANREALAGE)」デザイナーの森永邦彦、「シーエフシーエル(CFCL)」代表兼クリエイティブディレクターの高橋悠介、WWD JAPANサステナビリティディレクター向千鶴に加えて、三越伊勢丹伊勢丹新宿店リ・スタイルバイヤー橋本航平が参加。デザイナーだけではなく、メディア、バイヤーなどさまざまな視点からのコメントや質問が飛び交った。

NFDT フリー部門二次審査会の様子

 前年度から参加する森永と高橋は、ともに「オリジナリティがあること」を評価軸にした上で、コンセプトからシルエットや素材、色など全体のバランス感に加えて「今の時代にフィットしていること」も評価の対象にしたという。

 森永が興味深く審査をしていたのが、農家という自身のルーツをもとに制作した文化ファッション大学院大学・村田充生の作品。「まだ他のデザイナーが踏み込めていない、ファッションとして確立されていないスタイルを、自身のルーツと現代社会を的確に捉えながら表現できていました。服としての完成度も高く、細部の作り込みも秀逸でした」と高く評価した。

 審査を終えて、村田は「本気でクリエイションに向き合える刺激的な場でした。審査員の方からの新しい視点や考え方に出会えるだけではなく、他の参加者の人たちともディベートができるコンクールは中々ないと思います。アドバイスやフィードバックを受けて、自分の将来を考える分岐点になりました」とコメントしている。

NFDT フリー部門二次審査会の様子

文化ファッション大学院大学 村田充生「NORAGRI」

 また、エスモード東京・二宮櫻壽​​の作品について、高橋は「オリジナル生地を作ったり、染めたり、それぞれの要素にこだわりと高いクオリティがありながら、服としてのバランスが取れている」と評価。二宮は、「リアルクローズが好きなので、ショーでどのように映るのか初めて意識する機会になりました。自分の得意なところを伸ばすように審査員の方からのアドバイスをいたいただいたので、素材に向き合う新たな挑戦ができました」と二次審査までに受けたフィードバックを形にした。

エスモード東京 二宮櫻壽「Hymne à l’humanité 人間賛歌」

NFDT フリー部門二次審査会の様子

 NFDTの審査員を初めて務めた橋本(昨年はSFDA審査員を担当)は、「事前のワークショップ等のおかげもあり、作品のクオリティが格段に高いと感じました。プレゼンにおいても自らの想いだけでなく、しっかり客観的な目線をもって評価ポイントへのアプローチをみんなが意識していたと思います。また、自身のことだけではなく、ファッション業界が抱える課題も考えた上で、課題解決に向けて新しいものをなんとか生み出そうという気概が感じられ、同じ業界人として大きく勇気づけられました」と29組との審査交流を振り返る。

 デザイナーの2人とは異なり、「着る人や気分、場所をイメージできているか」を審査基準とした橋本は、バイヤーならではの視点で、文化服装学院・中村虹輝の作品について「不要な布を砕いて混ぜ合わせることによってできる絶妙なグレーのワントーンをシアーな布で包むことでまとまりが出ていました。思い切った大胆なフォルムの服に仕立てることで、誰しもが羽織ってみたいと思わせる力強さが感じられました」と評価した。

NFDT フリー部門二次審査会の様子

文化服装学院 中村虹輝「循環する服」

 また一人ではなく、東京大学・バンタンデザイン研究所から増田凌・金田昌也・永田莉紗の3人によるグループ参加も。異なるバックグラウンドによって、CLOで作成したCGのデザインをもとに3Dプリンターを活用した新たなシルエットや素材感に挑戦した作品を発表した。

東京大学・バンタンデザイン研究所 増田凌・金田昌也・永田莉紗「Whole-Zip」

NFDT フリー部門 二次審査参加作品

文化服装学院 木佐貫綾乃「Punk have afternoon tea」

 SFDAの審査員には、「マリオンヴィンテージ(MALION vintage)」デザイナーの石田栄莉子、「チルドレン・オブ・ザ・ディスコーダンス(Children of the discordance)」デザイナーの志鎌英明、ライフスタイリストの大田由香梨、FASHIONSNAPファッションディレクターの小湊千恵美、三越伊勢丹伊勢丹新宿店婦人靴バイヤーの中西祥子が参加。

SFDA ウェア部門二次審査会の様子

 二度目の参加となった志鎌は、「独創性とリアリティのバランス」を基準に、選出者全員に対して技術の高さと独創性、完成度のバランスを高く評価。前回の経験を経て「全体のレベルが上がっていました。それぞれの個性や強みをしっかりと作品に落とし込んでいたのが特徴。ワークショップでアドバイスした内容を上手にアップデートした結果も多く見られて、コンクールの意義を感じました」と全体を振り返った。なかでも、国際ファッション専門職大学・野口キララの作品はワークショップを経て、大きな変化が見られたという。「ワークショップ前には表地が全てクリアな状態でした。そのままだと着る人を選んでしまうなと感じ、生地の使い方をアドバイスさせていただきました。結果、エレガントな力強い作品になったと思います」。野口も審査に至るまでに印象的だった経験に「アドバイス会」を挙げ、「照明を当てた時に光る光沢感によって高級感を演出することができた」と振り返る。

SFDA ウェア部門二次審査会の様子

国際ファッション専門職大学 野口キララ「VIBRANT VEIL」

 初参加となった中西は、「SFDA」の特徴について「応募資格の間口が広いことから、さまざまな経歴や感性をもつ応募者が多い印象でした。それによって、コンセプトやデザインアプローチの幅が広がるだけでなく、どんな人でもファッションを楽しめることが分かりやすく伝わる良い機会になっていると感じます」と言及した。

 バイヤーの視点として「ワクワクして、腕を通してみたいと思うか」を審査基準として重要視。その上で、一般応募の倉持三千世の作品を「1枚で多様な着回しが楽しめるというポイントが、見ているだけでとてもワクワクしました。金具の取り付けや生地の裏貼りなど、細かい部分まで配慮されており、着物の新しいカタチに挑戦する強い意思と貪欲さが伝わってきて、実際に腕を通してみたくなりました」と評価した。

一般応募 倉持三千世「直線」

 志鎌が「アワードの趣旨全体を体現していた作品」と言及したのは、立教大学大学院・鈴木祐太の作品。鈴木に今回の応募のきっかけを聞くと「愛知県の豊田市・足助町で活動しているクリエイターの友人から着物を活用する企画を組みたいという話をもらったのがきっかけです。足助町で祖母の世代から引き継がれる着物の技術をこの作品を機に、今後も地域に還元できるように活動したいです」と話した。

立教大学大学院 鈴木祐太「風華変容(ふうかへんよう)」

SFDA ウェア部門 二次審査参加作品

華服装飾専門学校 原田かむい「OBI(帯)」

最終審査にショーを開催する意義

 厳正な審査を通過した36組の参加者は、3月29日14時30分から六本木ヒルズウェストウォーク 2階 大屋根プラザで開催するファッションショー形式の最終審査へ参加。ファッションショーは無料で一般観覧が可能で、ショーの模様はコンクールの公式YouTubeでライブ配信される。このほか、TVerではドキュメンタリー番組「TOKYO ネクストデザイナーズ~世界に羽ばたけ若き才能~」が配信中。乃木坂46 筒井あやめ、池田瑛紗、遠藤さくらをナビゲーターに迎え、服作りに情熱を注ぐコンクール参加者たちに密着している。

NFDT フリー部門二次審査会の様子

 ショーを通した審査の意味を高橋は、「『人が着て動く(歩く)状態で美しいかどうか』は、ファッションデザインの審査においては重要」とし、これまでのマネキンでのプレゼント異なるポイントを見ていくという。

 自身もショーでの発表にこだわりを持つ森永は、「ショーは、ファッションにおいて最もダイレクトに、その服が持つ非日常性を人々に伝える手段。日常の中で生きる服を生み出す才能と、ショーで新しい非日常の世界を創り出す才能、この両方を兼ね備えたデザイナーは、世界的に見ても稀有な存在です」と言及し、続けて「今の時代にショーという形式にこだわり、人の心を服で動かすファッションデザイナーが増えていくべき」だとコンクール全体の趣旨でもある未来の若き才能へのエールを送った。

 また両者とも、一部の過去受賞者と交流を継続。その後自身のブランドでアルバイトとして実践の場を提供しているという。審査員と受賞者という一過性の関わりで終わるのではなく、実際に世界で活躍するデザイナーとの継続的な関係までへと繋がるコンクールのあり方は稀ではないだろうか。次年度の応募に向けて、ぜひ一般観覧可能なショー審査の場を体感してほしい。

最終更新日:

■最終審査 ファッションショー開催概要
日時:2025年3月29日(土)14:30〜
会場:六本木ヒルズウェストウォーク 2階 大屋根プラザ
※観覧自由・参加無料。途中入場も可能。
NFDT SFDA公式YouTubeライブ配信ページ

text: Yoshiko Kurata(LESEN) | photography: Hikaru Nagumo, edit & project management: Shiori Nagaoka (FASHIONSNAP)

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