ニット技術の最先端「島精機製作所」50年の革新

島精機製作所 ニットウェアのファッションショー
島精機製作所 ニットウェアのファッションショー
 11月8・9日の2日間、和歌山市の和歌山ビッグホエールで最新の横編み技術を駆使したニットウェアのファッションショーが開催された。主催は市内に本社を置くニット機の最大手、島精機製作所。創立50周年記念事業の一環として行われたもので、キャットウォークに登場した完成度の高いニットウェアと同社が世界に誇る最先端技術に大勢の招待客が魅了された。(文・写真 / 橋長初代)

 50周年記念イベントは、ファッションショーのほか、ニットサンプルの展示、横編機とデザインシステム、プリンティングマシンの展示・デモンストレーション、ディナーパーティーで構成。海外からはイタリアのベネトン、ブルネロ・クチネリ、イギリスのジョン・スメドレー、スコットランドのホーウィック・カシミヤ、国内からはオンワード樫山、ワールド、三陽商会、サンエーインターナショル、東京スタイル、フランドルといった大手アパレルをはじめ、業界関係者ら約1400名が来場した。「今回は海外からの招待客が500名となり、とくに中国・香港の取引先が増えた」(同社経営企画部)という。


 同社は1962年、全自動手袋編機の完成をめざして会社設立。1967年、世界初の全自動フルファッション衿編機を開発し、横編機業界に進出した。その後、コンピュータ横編機、デザインシステムなど世界初やオンリーワンの技術と製品で業界をリード。横編機では世界トップシェアを誇る。とくに1995年、ITMA展(国際繊維機械展)で世界初の完全無縫製型コンピュータ横編機を発表し、国内外のニット業界にセンセーションを巻き起こした。一着丸ごと立体的に編み上げるこの横編機は「ホールガーメント横編機」と呼ばれ、「産業革命に匹敵する」と評された。

2008年には編み上げる速度が従来の2倍以上というホールガーメント横編機を開発し、生産性の問題を解決。同社がめざす「消費地型生産」という新しいビジネススタイルの実現に欠かせない次世代の横編機として期待されている。さらに、今年3月にはホールガーメントのオリジナルブランド「サマンドール」を立ち上げ、百貨店での販売をスタート。10月には企画製造販売会社を設立し、ホールガーメントの普及と認知度アップ、新たなニット事業の構築をめざす。


 売上げの約8割を占める横編機事業のほか、デザインシステム関連事業にも力を入れている。これまでデザインシステムをはじめ、生地自動裁断機や無製版型プリンティングマシンを開発。アパレル業界のみならず異業種のものづくりをサポートし、航空宇宙、自動車などの産業資材にも販路を拡大中だ。

 ただ、世界的な景気後退や円高、競争の激化などが影響し、ここ数年は苦戦を強いられている。2011年度の業績は減収大幅減益となり、今年度9月の中間決算も大幅減収赤字だった。そんな厳しい経営環境にもかかわらず、盛大なイベントを敢行し、自社製品の優位性を国内外にアピール。パーティの挨拶で同社の島正博社長は「次への50周年に向け、EVER ONWARD(限りなき前進)の精神で業界と地元の発展のために今後もがんばっていきたい」と力強く語った。


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和歌山市内で開催された島精機製作所50周年記念事業には2日間で約1400名が来場した


 ファッションショーは「EVER ONWARD」をテーマに、「ノーブル」「フューチャー」「ワードローブ」「イノベーション」「美ライン」の5つのグループで構成。ホールガーメントのニットウェアを中心に、社内デザイナーが企画した61体の作品が披露された。バロック調の繊細な柄や組織をウルトラファインゲージで表現したドレスや、独特なシルエットのローゲージセーター、高級素材を使ったリラックス感のある日常着、ファーのようなニットコート、美しいドレーピングのエレガントなニットドレス、豪華なオートクチュールなどが登場。なかには織物のごとく薄く軽やかな素材で作られた作品も見られ、ニットに対する固定観念が根底から覆された。同時に、ホールガーメントが業界活性化の起爆剤になる可能性を大いに感じるショーとなった。

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 ホールガーメントは、通常のニットウェアと異なり、一着丸ごとの状態で立体的に編立てられる。縫い目がないため、ごわつき感がなく、着心地がよい。そのうえ、ニット本来の伸縮性を損なわないため、ストレッチ性に富んだフィット感のあるウェアを実現できる。軽さを引き立て、ドレープ感のある理想のニットウェアを生み出せるのが、ホールガーメント横編機の強みだ。生産面でのメリットも多い。ニット製造工程のボトルネックとなっているリンキング工程が不要になることで、労働集約型から知識集約型のものづくりへと脱皮でき、人件費高騰や労働力不足の問題が解消できる。また、リードタイムの短縮化が図れ、編地の各パーツを裁断した後のカットロスもなくなる。さらに、編み目の大きさが異なるウェアなど今までなかった製品を作り出せ、多品種少量生産も可能、といいことづくめだ。

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ただ、ホールガーメントは編成が複雑なため、当初はプログラミングがむずかしかった。先進的なハードを使いこなすノウハウの蓄積やソフトの充実が大きな課題だった。ソフト開発に努めた結果、現在では初心者でも簡単にプログラムできるようになったという。
商品の同質化や低価格化が進むファション業界では、オンリーワンや付加価値の高い商品の登場が待望されている。ホールガーメントの独創的なニットは消費者の支持をえられ、売り場の活性化につながるはず。そのためにはニットの企画に携わる人材の育成と、アパレル小売企業のさらなる理解がカギになりそうだ。

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(右)島精機製作所の島正博社長


和歌山ビッグホエール2階では、一周約300メールのフロアに約400体のマネキンを設置し、660点のサンプルを展示。最新鋭の機種で編成した同社オリジナル製品のほか、オリジナルブランド「サマンドール」、「ジョン・スメドレー」「マックスマーラ」などの海外ブランド、オンワード樫山、ワールドなどの国内ブランド、国内外の専門学校生の作品などが紹介された。トータルデザインセンターの亀井孝典部長によると「今回は、セーター以外のアイテムやホールガーメントでしか表現できないデザインが増えている」という。

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2階フロアには、最新のニット技術を駆使して作られたサンプル660点が展示された

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一方、隣接会場ではコンピュータ横編機、デザインシステム、インクジェットプリンティングマシンが展示され、バーチャルサンプル作成や3Dシミュレーションのデモンストレーションが行われた。

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世界で最も繊維なウルトラファインゲージを実現した横編機「SWG-FIRST154 S21」。ニットの市場を布帛の領域まで広げる可能性に期待される。スムースリブの成型ジャケットは約30分で編みあがる


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高品質なホールガーメント製品を編むのに最適な横編機「MACH2X」。写真の機種はコンパクトタイプで輸送や設置が容易なうえ、小物から紳士服の生産まで対応。プリーツが特徴のホールガーメントブラウスの編成時間は約30分


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通称「SWG-Mini」シリーズ。手袋や靴下のほか、レッグウォーマー、スカーフ、帽子、ネクタイなどの小物、子供服まで対応する


 同社の3Dデザインシステム「SDS-ONE APEX3」は、デザイン仕様書の寸法数値を入力し、仮想モデルに柄や配色を着せ付けるだけでバーチャルサンプルの作成が可能だ。これにより企画時間の短縮とコスト削減ができ、トレンドの変化にもタイムリーに対応。実物と遜色ないリアルな質感や風合いも表現できる。データベースには1000種類以上の編地柄とパントーンを収録。画面上で簡単にシミュレーションでき、編成データをCADソフトに転送すれば、自動的にプログラミングも行える。

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超高精度なバーチャルサンプルでサンプル試作を大幅に軽減し、デザイナーと技術者のコミュニケーションがスムーズになるデザインシステム「SDS-ONE APEX3」。3Dシミュレーション、生地シミュレーション、リアルタイム3Dビュー、ニッティングビューワーなどの機能を装備する


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コンパクトなインクジェットプリンティングマシン「SIP-160F2」。アパレルデザインシステムで作成されたデータをもとに、従来よりも超高速で簡単にフルカラープリントをすることができる


 ニットの世界に革命をもたらしたホールガーメントが誕生して17年。同社のたゆまぬ技術革新のおかげでハード、ソフトともにめざましい進化を遂げた。ホールガーメントはまさに、日本が世界に誇るものづくりの真髄を伝えるテクノロジーといえる。その高度な技術を商品の付加価値としてどう生かしていくか。アパレルや小売りの本気度が今後問われることになるだろう。(文・写真 / 橋長初代)


橋長初代
同志社女子大学卒業後、サンケイリビング新聞社入社。1988年ファッション業界誌「チャネラー」に入転職、99年1月より月刊「チャネラー」副編集長。2002年退社し、以降フリーランスライターとして活動。現在、産経新聞、日経トレンディNET、「販売革新」「ファッション販売」、繊研新聞、WWDなどに執筆。

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