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桐生の名店エスティーカンパニー、移転後7年で売り上げ1.5倍に インバウンド不在でも集客増

エスティーカンパニーでのダブレットのイベント風景

Video by: FASHIONSNAP

 群馬・桐生のセレクトショップ「エスティーカンパニー(st company)」といえば、ファッション業界関係者の間では“名店”としてよく知られる存在だ。長らく人口減少が続いているのは、桐生も他の地方都市と同じ。インバウンドの恩恵も殆どない。そんな中でも「新規客が増え続けており、今秋は8、9月の売り上げが過去最高を記録した」と、同店を率いる環敏夫社長は話す。11月の3連休、同店が「ダブレット(doublet)」のイベントを開催するというので訪ねた。

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移転が転機
“体験”として成立する店作り

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エスティーカンパニーでのダブレットのイベント風景画像
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エスティーカンパニーでのダブレットのイベント風景画像
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Tシャツ作成イベントの様子。井野デザイナーは客と話しながらステッカーの配置を決めていく

Image by: FASHIONSNAP

 店があるのは、JR桐生駅から徒歩10分ほど。以前は線路を挟んで駅の反対側に店舗があったが、2018年に今の場所に移転した。これが、北関東はもちろん、首都圏や北陸などからも客を集める大きな転機になった。移転先は、和菓子の工場だった商店街沿いの古い建物。建築家の山本和豊の内装デザインでリノベーションしており、部屋ごとにガラリと雰囲気が異なる一軒家は、店そのものが“体験”として成立している。

 同店と井野将之デザイナーが手掛けるダブレットは、井野デザイナーが群馬出身ということもあって、2020年以来、年始にシャレの効いた限定Tシャツを販売している。ここ数年は、その限定Tシャツを目当てに1月2日の初売りに行列ができるようになっている。

 井野デザイナーの来店イベントは、昨秋に続き2回目。熱転写プリントで自分だけのダブレットTシャツ(2万3100円)を作成できるという内容で、井野デザイナーは群馬の郷土かるた「上毛かるた」をモチーフにしたプリント用ステッカーを描き起こした。高崎観音やはた織り機、「ぶんぶく茶釜」のタヌキなど、群馬ならではのモチーフに加え、環社長の顔写真ステッカーまである。

 井野デザイナーは客1人1人と交流し、ステッカーをどう配置するかの相談に乗る。Tシャツが完成したら、記念撮影タイムだ。夜は店内のカフェを「スナック多夢恋留(ダブレット)」仕様に装飾し、井野デザイナーやデザインチームと語らう企画も実施。これを目当てに、一泊で桐生を訪れる客もいた。

 「ファンサービスを行っているように見えるかもしれないけれど、実際は僕たちがお客さまから多くのエネルギーをもらっている」と井野デザイナー。「エスティーカンパニーは(店の雰囲気やスタッフが)自然体で、実家のようなムードが魅力」と続ける。

イベントで新規客増
地方セレクトの成功モデル

エスティーカンパニーの外観や内観画像
エスティーカンパニーの外観や内観画像
エスティーカンパニーの外観や内観画像
エスティーカンパニーの外観や内観画像
エスティーカンパニーの外観や内観画像
エスティーカンパニーの外観や内観画像
エスティーカンパニーの外観や内観画像
エスティーカンパニーの外観や内観画像
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エスティーカンパニーの外観

Image by: FASHIONSNAP

 企業としてのエスティーカンパニーは1978年の創業。以来45年超にわたって、群馬でアパレルの商売をしてきた。多くの古参地方セレクトショップにとって共通の課題が、新規客の取り込みだ。その点、エスティーカンパニーは特にコロナ禍以降、新規客の取り込みに成功している。今回のダブレットをはじめ、頻繁にイベントを企画していることがその理由の1つだ。新規客が定着する中で、「年間売り上げは移転後の7年超で1.5倍になった」と環社長。

 「昨年のダブレットのイベントをきっかけに通うようになった。実家が東京だから都内のセレクトショップにも行くけど、ここは都内の店とは違った空気感がある」と話すのは、桐生の隣、太田市在住の23歳の男性。埼玉の鴻巣市から来たというアラサーカップルも、「この店は服への愛や独自のセレクトの目線を感じる。スタッフさんとも仲が良く、月1回は来ている」と口を揃える。

 新規客といっても、若い世代だけではない点も興味深いところ。新潟から通う友人に薦められて、ここ1年ほどで通い始めたという47歳の男性はインフラ関連企業に勤務。これまではファッションにあまり縁がなかったという。「デザイナーの方と直接話せるイベントで、ファッションそのものに興味を持つようになった」と楽しそうに語る。

 同店は月に1〜2回、多いときは3回イベントを行う。地方の個店で、これほどの高頻度で独自性のあるイベントを継続できている例は少ない。ダブレットのイベント時も、別スペースでは群馬や栃木のベーカリー、オーガニック食材店などが出店するマルシェイベントを併催していた。

「一番大事なのは人」
コミュニティが生む好循環

エスティーカンパニーの店頭画像
エスティーカンパニーの店頭画像
エスティーカンパニーの店頭画像

井野デザイナー(右)と、エスティーカンパニーの環社長

Image by: FASHIONSNAP

 イベント運営の鍵を握るのが、EC担当やバックオフィスを含め約15人という、スタッフの組織力だ。イベントの企画や指揮は、環社長の娘である環里江さんや、甥の阿部高典さんらが中心となっている。「鮮度がなくなったら店は終わり。来る度に発見のある店にしないといけないと、社長はよく話す」と里江さん。「店もイベントも1人ではできない。スタッフが力を合わせたときに大きなパワーになる。私はスタッフを家族のように思っているし、その気持ちは必ずお客さまにも伝わると思う」。

 素敵なブランドや商品を扱うことは、魅力あるセレクトショップであるための大前提。でも、「一番大事なのはモノではなく人」と、環社長は取材する度に口にする。そういう価値観があるから、人材採用難の時代でも、他県から「ここで働きたい」とわざわざ移住してきたスタッフもいる。スタッフたちが醸し出す心地良いコミュニティに惹かれ、客や取引先も集まる。井野デザイナーや顧客が口にした「実家のようなムード」「他の店とは違った空気感」といったエスティーカンパニーの魅力は、まさにこういった好循環から生まれているものだ。

 ECで何でも買える時代でも、「あの人に会いたい、あの人から買いたい」と思わせて、地方にわざわざ人を呼ぶ。インバウンド客はほぼゼロという地方都市のファッションの個店でも、まだまだ成長していけることを同店が証明している。

FASHIONSNAP ディレクター

五十君花実

Hanami Isogimi

1983年愛知県出身、早稲田大学政治経済学部卒。繊研新聞記者、WWDJAPAN副編集長、編集委員を経て、25年10月から現職。山スキー、登山、ラン、SUPを愛するアウトドア派。ビジネスからクリエイション、ライフスタイルまで、多様な切り口でファッションを取材。音声、動画、コミュニティーなど、活字以外のアウトプットも模索中。

最終更新日:

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