1月2、3日の箱根駅伝でも、選手を支える鮮やかなグリーンのシューズが話題になったアシックス。着用者数は昨年に続きアディダスに次ぐ2位だったが、シェアは昨年より2.9ポイント伸ばし、28.5%まで高まった。こうした強みのランニングシューズと共に、近年はファッション文脈でも存在感が拡大。海外売上比率は全社の8割を占め、グローバルでの成長が好業績に繋がっている。2025年12月期は売上高8000億円、営業利益率17.5%を見込み、当面の目標としてきた売上高1兆円も目前だ。
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富永満之/アシックス社長COO

(とみなが みつゆき)1962年生まれ、兵庫県神戸市出身。米カリフォルニア・ポリテクニック州立大学を卒業後、1995年にパデュー大学でMBA取得。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本IBMなどを経て、2018年にアシックスに入社。2020年から常務執行役員を務め、2024年1月から現職。
◾️アシックス とは
1949年に鬼塚喜八郎が神戸で鬼塚商会を創業。1950年に初の競技用シューズとしてバスケットボールシューズを発売、1953年に「マラソンタビ」発売、その後レスリング、サッカー、バレーボール、野球シューズなどに領域を拡大。1990年、神戸にスポーツ工学研究所竣工。2002年に「オニツカタイガー」を復刻、2012年に同ブランドで表参道に旗艦店開業。2019年、トップアスリートが勝てるシューズを開発すべく「Cプロジェクト」発足、シューズ「メタスピードシリーズ」を2021年に発売。2024年、テニスをランニングに次ぐ柱へ育てるべく「Tプロジェクト」発足。

目次
「イヤー・オブ・ジャパン」でブランド力が向上
⎯⎯「イヤー・オブ・ジャパン」を掲げてきた2025年の振り返りからお願いします。9月に東京で開催された世界陸上でも、多数の契約アスリートが活躍しました。
イヤー・オブ・ジャパンには2つの意味を込めていました。アシックスは、海外ではランニングシューズに加え、ファッションスニーカーのスポーツスタイルカテゴリーや「オニツカタイガー(Onitsuka Tiger)」の認知が高まり、ブランドイメージが向上しています。一方で、日本では体育や部活のイメージが強く、“ダサい”といった印象を抱いていた方もいると思います。これまでのアシックスのイメージを変えていく年にしたい。それが、イヤー・オブ・ジャパンに込めた1つ目の意図でした。
もう1つは、日本のもの作りのクオリティの高さを改めてアピールするというものです。アシックスは日本発のブランドとして、海外のお客様から見た時に、“もの作りの匠”といった非常に良いイメージがある。こうした魅力を改めてしっかり認識していただきたいという考えがありました。
これら2つを伝えるために、若手社員を中心にディスカッションを重ねて形にしたものの1つが、6~10月にグランフロント大阪の店舗で実施したアクティビティ「ディスカバー バイ アシックス」です。また、世界陸上に合わせて海外の取引先やメディア関係者を日本に招き、神戸のスポーツ工学研究所やアーカイヴルームを見ていただいたり、京都にも足を延ばして書道や茶道の体験をしていただいたりと、アシックスと日本の魅力を伝えました。パフォーマンスシューズの取引先だけではなく、ファッションスニーカーの取引先にも我々の機能性の研究や歴史に深い興味を寄せていただだき、手応えを感じています。
⎯⎯成長ドライバーであるパフォーマンスラン、スポーツスタイル、オニツカタイガーの3カテゴリーについて、それぞれ好調要因をお願いします。

2026年の箱根駅伝往路スタート地点。アシックスのグリーンのシューズ「メタスピード」が目立った。
Image by: THE ASAHI SHIMBUN / GETTY IMAGES
パフォーマンスランは2024年12月期で売上全体の約48.2%を占め、ここでしっかり勝っていくことは引き続き非常に重要です。我々がスポンサーを務める東京マラソンやシドニーマラソン、パリマラソン、ムンバイマラソンなどの世界の主要大会で、アシックスは着用率ナンバーワン。また、当社がフォーカスする90米ドル(約1万4040円※1ドル=156円換算)以上の高価格帯ランニングシューズにおいて、日米欧の市場合算で初めてマーケットシェア1位を獲った(2025年9月末時点)ことは、大きな成果だと思っています。
スポーツスタイルについては、先ほど話したようにイヤー・オブ・ジャパンで日本に海外の取引先を招いて魅力を伝えたというのもありますが、やはり欧州でモメンタム(勢い、潮流)を作ることが重要。メンズのパリ・ファッションウィーク期間中に継続してイベントを行い、気鋭デザイナーとのコラボレーションもいくつも実施しています。それもあって、2025年1~9月で売上は前年同期比45.2%増と、非常に好調に推移しました。
オニツカタイガーもミラノでショーを続けています。欧州でのブランディングと日本発のもの作りという価値が合わさり、オニツカタイガーのシューズは訪日客が日本で買いたいお土産ランキングの上位になっています。カテゴリーとしての2025年1~9月期の売り上げは同45.7%増でした。



「メタスピード スカイ トウキョウ」(2万9700円)
Image by: ASICS
⎯⎯全社としての免税売上は2025年1~9月で前年同期の2倍と大きく伸びました。ただ、ここにきて日中の政治状況が変化しています。
確かに中国からのお客様は減っています。一方で、他国からのお客様は増えており、免税売上全体としては引き続き伸びている。アジア圏からのお客様だけではなく、米国や欧州からのお客様もかなり増えています。
シドニーマラソンで“ランニングエコシステム”奏功 平均単価1.6倍

アシックスが協賛するシドニーマラソン
Image by: ASICS
⎯⎯パフォーマンスランのカテゴリーは、ランナーの大会登録~トレーニングや準備~レース参加までを包括的にサポートする“ランニングエコシステム”が、成長戦略の1つになっています。
ランニングエコシステムは、2025年8月のシドニーマラソンで成功モデルを作ることができました。かつては大会に協賛しても、参加者がレース前日にゼッケンを取りにくるタイミングや、大会併催のエキスポに来場したタイミングぐらいしか製品に触れていただく機会がなかった。しかしシドニーモデルは違います。参加者がレースに登録し、準備を始める大会の9ヶ月〜半年ほど前から接点を持てています。
シドニーモデルでは、参加者にレース当日に向けてのトレーニングプログラムや新製品の情報を提供し、走るルートの紹介や当日の会場案内なども行っています。レース当日に、マッサージやレース中の写真撮影などのサービスを受けることもできる。このように、参加者にただシューズやTシャツを買っていただくだけではなく、「シドニーマラソンでアシックスと一緒にいい体験をした、次もまた参加したい」と思っていただけるような包括的なあり方を追求しています。
その結果、シドニーマラソンエキスポのアシックスブースの売上は前年の4倍になり、シドニーマラソン参加者のワンアシックス※会員一人あたりの売上は、同地域のワンアシックス会員平均の1.6倍となりました。体験価値と売上が結びついたシドニーモデルは、ランニングエコシステムのベストな実例です。これを、他国でのレースにも広げていきたいと考えています。
※ワンアシックス=アシックスの会員プログラムで、さまざまな特典と交換できるポイントサービスなどを実施
⎯⎯アシックスはさまざまな国でレースに協賛していますが、シドニーで先行して成功モデルを作ることができたのには、どんな理由がありますか。
我々は、2016年に運動記録アプリのランキーパーの運営会社を、2019年には北米のレース登録会社レースロースターを買収しました。その当時から、シドニーモデルのようなあり方は念頭にあったんですね。ただ、コロナ禍もありましたし、買収したレース登録システムとアシックスの会員システムを連携するのに想像以上に時間がかかりました。また、個人情報の取り扱いについてはさまざまな規制があります。レース登録情報について、当社が使用できるデータ、できないデータの線引きは国ごとに異なり、シドニーモデルを成り立たせるためにはそこをクリアしていく必要があります。
レースオーナーとの関係性も重要です。オーナーに(中立性が強く求められる)自治体が入っている大会は少なくないですし、アシックス以外にも多くのスポンサーが協賛しているケースは多い。そういった関係性の中で、オーナーにとってアシックスにデータ提供することがどんなメリットにつながるのか。オーナーと当社、双方にとってメリットがなければだめです。我々にデータ提供すると、大会がこんなに魅力的になって、リピート参加が増えるといったことを伝えなければいけない。
社内のスキルも欠かせません。レース登録者に対して、どんなタイミングでどんな情報を提供すればメリットを感じてもらえるか。そこは闇雲に進めてはダメで、デジタルに精通したスキルが必要となります。シドニーマラソンにおいてアシックスは、オーナーと非常にいい関係が築けていて、現地社員のデジタルスキルも非常に高い。結果、シドニーで先行して成功することができたということです。逆に言えば、ここまでやらなければ成功できないことも見えた。シドニーモデルを、2026年はパリマラソンや、他の国の大会にも横展開していきます。

アシックス決算資料から抜粋
⎯⎯3月1日には東京マラソンも控えています。東京でもシドニーモデルを目指しますか?
東京マラソンをはじめ、日本の協賛大会でも参加者とレースオーナー双方に価値提供を進めます。ただ、現時点では日本でのランニングエコシステムの成功例は、富士山マラソンですね。この大会はアシックス子会社のアールビーズが主催者の一角を担い、2025年は12月14日に開催されました。富士山が見えるコースで海外ランナーの支持が篤く、総参加者1万人超のうち、7割が海外ランナーです。彼らに満足度の高い情報やサービスを提供できている手応えがあります。大会参加に加え、送迎や宿泊などをパッケージにした100万円などのメニューも人気となっています。

Image by: FASHIONSNAP(Naoki Takamura)
⎯⎯世界でどれくらいの数の大会にシドニーモデルを導入していきますか。
アシックスが協賛している世界のメジャーマラソンや、富士山マラソンのようなティア2、ティア3の大会にも導入を目指していきます。我々はグローバルランナーをしっかりサポートしたい。ワンアシックスの会員プログラムは、どうしても国別で分かれており、日本の会員がシドニーマラソンに行った時にオーストラリアの会員と全く同じサービスが受けられるかというと、それは個人情報を含めてまだクリアにしなければならない部分がある。それができるようになれば、海外の大会に出たいという世界中のお客様をサポートできます。海外ランナーが増えることは、レースオーナーにとってもメリットです。
⎯⎯ランニングエコシステムのさらなる強化に向け、レース登録プラットフォームの買収は今後も進めますか。
まずは成功モデルを作ることに重きを置き、買収は一旦控えていました。ただ、成功モデルができたので、改めてアグレッシブにプラットフォームの買収を進めます。直近では、12月にタイとスペインのレース登録会社を買収しました。
アジアの経済成長を取り込む インドで工場建設


2025年にオープンしたアシックスのデリー直営店
Image by: ASICS
⎯⎯アシックスは海外売上比率が8割と、日本のスポーツメーカー各社の中でグローバル化が突出して進んでいます。今後の戦略エリアは?
2025年はイヤー・オブ・ジャパンでしたが、2026年は「イヤー・オブ・アジア」です。アジアの経済成長は目まぐるしく、ランニングやテニスなども非常に活発になっています。2026年はアジアにしっかり集中したい。インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムといった国々です。
インドは2025年12月期に売上高120億円を見込み、日本や中国を除くアジアでは最も規模が大きくなっています。2025年はデリーにインド1号店も出店しました。今後は現地に工場も作り、2027年にインド国内向けの生産を本格化させる。ゆくゆくは、インド以外のアジアや欧米に向けた製品も作っていきます。アシックスインド社長を1月1日付で執行役員に迎え、アジアの成長スピードを加速させます。
⎯⎯中国市場についてはどう見ていますか。
日中関係を受けて中国国内で当社の売上が下がっているといったことは現時点ではなく、前年比で見ても十分に成長しています。SNSなどの反応でも、ネガティブなコメントは特に見当たりません。中国は市場全体としては停滞感がありますが、スポーツ市場に関しては国を挙げて盛り上げようという動きも続いています。我々のようなスポーツブランドに関してはまだまだ成長余地があります。
中国での売上は、日本を除くグローバル市場で北米、欧州に次ぐ規模に育ってきました。そうは言っても、同国の中でのアシックスの売上ランキングはまだまだ下位。欧米のスポーツメーカーだけでなく、アンタやリーニンなどの中国メーカーの存在感も増していますが、アシックスとしてまだまだ成長余地は大きい。天津マラソンをはじめ、大会の協賛も続けていきますし、販売網としては今は上海、北京が中心ですが、さらに他の都市にも広げていきたいですね。
イノベーションをグローバル化 米国に加え、欧州にも研究拠点開設へ




神戸にあるアシックスのスポーツ工学研究所から
Image by: FASHIONSNAP
⎯⎯イノベーション(技術革新)においては、12月に米ミシガン大学との研究パートナーシップも発表しました。
今まで、当社の研究開発は神戸にあるスポーツ工学研究所が中心で、100人近い社員がアスリートと組んでデータを収集し、新機能や素材の開発を行ってきました。ただ、やはりランニング、テニス、バスケ、サッカーなど、スポーツの本場は欧州や米国。海外アスリートがわざわざ神戸に来るとなると、スケジュール的に難しいものがありました。でも、これからはミシガン大との研究拠点にランナーに来てもらう。将来的にはバスケットボール選手にも来てもらう。サッカーやテニスに関しては、研究拠点を本場である欧州に設ける。そんなふうに、選手が来やすいところに拠点を持っていきたいと思っています。
スポーツ工学研究所は、運動時の筋肉の動きなど、体の外側については研究の蓄積がありますが、ミシガン大は運動による血圧の変化など、体の内側、運動生理学分野の研究が進んでいます。共に取り組むことで新しい知見を取り入れることができますし、日本人だけではないダイバーシティのあるチームで研究を進めることで、発想も広がっていくはず。先日、ミシガン大の教授2人をスポーツ工学研究所にお招きしましたが、議論をする中でお互いのモチベーションが高まっていくのを強く感じました。ミシガン大とのパートナーシップは、研究のグローバル化の第一歩です。
⎯⎯かつて米国にテニス留学もされた富永社長に、テニス事業「Tプロジェクト」の進捗もお聞きしたいです。テニス事業の2025年1~9月の売上は前年同期比14.3%増でした。
メジャー大会、たとえばウィンブルドンや全米オープンで選手着用率1位を獲ることは非常に重要な指標です。実際、両大会の男子シングルスでは当社が1位、女子シングルスでは3位。また、ピックルボールやパデルといったテニスに類似するラケットスポーツも今欧米で非常に市場が拡大している。この分野での当社のシェアは非常に高く、これをどうやって維持していくか、どんな投資をすべきか今考えているところです。
日本のテニス市場では、残念ながらシェア1位は獲れていません。魅力的な選手と組み、大会のスポンサードを進めていきます。今後はジュニア選手に向けた取り組みも強化します。2025年から、ジュニアでは世界四大大会に次ぐレベルの大阪市長杯世界スーパージュニアテニス選手権のスポンサードも始めました。ジュニア選手に早くから我々の靴を履いてもらい、データを集め、有力選手はヨーロッパで育成していきます。
アパレルの絞り込みはひと段落 高機能ウェアに勝ち筋

アシックスがミラノ・コルティナ五輪の日本選手団に提供する公式ウェア
Image by: ASICS
⎯⎯シューズが主力であるアシックスにとって、アパレルは今後の大きな伸び代です。
アパレルはしばらく絞り込みを進めてきて、日本では2026年秋で体操服など学校指定用品の事業も終了します。絞り込みはひと段落し、ここからはいかに強みを出せるか。その道筋が徐々に見えてきました。たとえばランニングでは、高機能タイツなどにニーズがある。また、テニスでもグローバルで有力選手と契約が進んでいるので、彼らに似合うようなファッショナブルなウェアを用意することにも可能性が出てきています。
利益率でアパレル・エクィップメントカテゴリーは非常に苦戦してきましたが、2024年12月期のカテゴリー利益率は前期比8.6ポイント増の11.4%と、徐々に他カテゴリーに近づいてきています。また、スポーツスタイルやオニツカタイガーによって、ファッションを入り口にしたお客様も増えている。ファッション衣料を今後急激に伸ばすことは考えていませんが、伸び代はある。2月に開幕する、ミラノ・コルティナ冬季五輪でも日本選手団に公式ウェアを提供します。ブランド力が高まっていることで、アシックスのウェアを着たいと言ってくださる人が増えていることは非常に嬉しいことです。
⎯⎯人材採用や教育面で注力していることを教えてください。
今後の成長分野に対し、かなり優秀な人材が応募してきてくれています。もちろん給与水準も高めています。教育面では、入社3~5年目の社員を半年間海外の支社に派遣し、早いうちからグローバル環境に慣れてもらうというプログラムを立ち上げました。2025年に選考し、いよいよ派遣が始まります。2026年はグローバルで自身のポジションや今後の成長ステップが見える化するように、人事制度の整備も進めます。


富永社長が手にしているのは軽量反発モデルのランニングシューズ「ソニックブラスト」(2万2000円)
Image by: FASHIONSNAP(Naoki Takamura)
⎯⎯コロナ禍以降、世界中で健康意識が高まり「アシックスというブランドに風が吹いている」というコメントが決算会見で出たこともありました。この風は今後も続きますか?
デジタル化が進んで世の中はどんどん便利になっています。他方、気候変動の問題は深刻化し、便利になりすぎたが故に人は体を動かさなくなって、健康を損ねるケースも出てきている。健康であることの価値には、コロナ禍を通して世界中の方が気付きました。デジタル化が今後も進むが故に、体を動かす喜び、運動を通して人とつながる楽しさ、スポーツエンターテインメントで一丸になることの価値が今後はより高まっていくと思います。そういうニーズをしっかりサポートしながら、当社の成長につなげていきたい。
現在の勢いでの成長を、当然2026年も継続していきます。営業利益1300億円以上、営業利益率17%以上という、2026年12月期を最終年とする中期経営計画の財務指標は1年前倒しで達成見込みですが、中計で重点戦略に掲げてきたグローバル成長、ブランド体験価値向上、オペレーショナルエクセレンスは、今年しっかりやり遂げたいと思っています。
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