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「間違えてもいい」を肯定する、アンダーカバーのポストベーシック

Image by: UNDERCOVER

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 ここ数年、生活のあらゆる場面が「正しさ」に囲まれるようになった。AIは最適解を提示し、SNSではマナーや定義をめぐる指摘が珍しくなくなった。SDGsやサステナビリティも広く浸透し、「どの選択が適切なのか」を意識することが増えた。もちろん、これらはどれも重要な価値観だ。だが、日常の細部にまで広がると、人はいつの間にか「間違えてはいけない」という緊張を抱えはじめる。

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 服を選ぶときでさえ、この緊張は現れる。素材、環境負荷、作り手の背景、判断すべき要素は増えた。SNSでの言葉選びにも気を遣い、AIによる答えと自分の感覚のどちらを信じるべきか迷うこともある。そんな窮屈さを感じるとき、人間にはどんな服が必要とされるだろうか。ひとつの鍵になるのは、「ベーシックから逸脱したベーシック」だろう。

 注目したいのは「アンダーカバー(UNDECOVER)」だ。ファスナーで構築され、服の解体と交換を可能にした1998-99年秋冬「EXCHANGE」、双子のモデルたちが登場した1999-2000年秋冬「AMBIVALENCE」。東京で発表されたそれらのコレクションでは、コンセプチュアルな試みが実践された。

 パリに発表の場を移し、初の発表となった2003年春夏「SCAB」では、さまざまな生地の断片を縫いつけ、糸は無造作にぶら下がり、まさに「かさぶた」のように痛みの跡が重なった。 2020-21年秋冬「FALENMAN」は黒澤明の映画「蜘蛛の巣城」がインスピレーション源となり、「和」とアウトドアを結びつけた。

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アンダーカバー 2020-21年秋冬メンズ・ウィメンズコレクション

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 数々の異端のクリエイションを見せてきたアンダーカバーだが、近年は別の側面が現れ始めた。ボーダー、カーディガン、ジーンズなど、トラッドの要素を取り入れた「ベーシック」な服づくりが増えている。

 ここで冒頭の問いに戻ろう。人間は本来、間違えるし、変わっていく存在だ。環境や経験によって意見が変わるのは自然なことなのに、現代ではその変化を矛盾として責められることすらある。最適解のルールに合わせ続けることが、人々の心を徐々に締め付けている。

 そんな時代には、人々の間に3つのニーズが生まれてくるのではないか。それが「間違いが許されること」「矛盾が許されること」「ルールを壊すこと」の3つだ。

 これらの欲求に、現在のアンダーカバーなら応えてくれる可能性がある。トラッドを踏襲しながら、どこかで必ず揺らぎ、破れ、ズレていく。その「収まりきらなさ」こそ、現代社会に必要だ。ここからは、3つのニーズと響き合うアンダーカバーのコレクションを見ていきたい。(文:AFFECTUS)

間違いが許される:トラディショナルの半壊

 かつて「常識」「マナー」「正解」とされていたものが、ここ10年で劇的にアップデートされている。ジェンダー、言葉遣い、環境配慮。かつて当たり前だった感覚が、ある日ふと「もう古い」とされていたり、何気ない言葉が無自覚の偏りとして指摘されたりする。社会全体の空気が「最新の正しさ」を求めてくる。自分では気づかないうちに、何かを「間違えて」しまっているかもしれない。

 正しさのアップデートは終わらない。社会は複雑化し、関わる人や価値観は増え続けている。アップデートの止まらない世界で、常に「遅れていないか?」を気にし続けることは、心に負荷をもたらす。

 そこで「間違いが許されたい」というニーズが生まれるのは、自然なことではないだろうか。是正すべき間違いはある。だが、人間は意図せずに間違えることがある。そこにもう少し優しさが滲んでもいいのではないか。

 こうした「完璧でなくてもいい」という無意識の救いに、「トラディショナルの半壊」とも言うべきアンダーカバーの表現が、寄り添ってくれる。象徴的なシーズンは、2026年春夏ウィメンズコレクションだ。

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アンダーカバー 2026年春夏ウィメンズコレクション

Image by: UNDERCOVER

 ボートネックのボーダーに、ゆったりとしたブラックジーンズ。アイテム名だけを見ればアメリカの王道ブランドのルックだと思うだろう。そして、実際のルックを見ると、あまりにシンプルでカジュアルな装いに、本当にアンダーカバーなのかと疑いは強くなる。しかし、これはれっきとしたアンダーカバーのルックだ。

 これぞトラッドという服だが、細部を見てみるとほんのり違和感が浮かぶ。赤と白のボートネックは、身頃のパターンが標準的なカットソーと違う。アームホールから胸を通り、裾に向かってプリンセスラインのような切り替えが見られ、その切り替え線にはタグらしきものが挟み込まれている。ジーンズの右足は、素材が切り替えられているのが認識できる。これらの違和感は、バックスタイルに回るとより顕著になる。

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アンダーカバー 2026年春夏ウィメンズコレクション

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 ボーダーカットソーはベーシックであるはずの構造を崩していた。後ろ身頃には波打つ切り替え線が入り、裾で身頃はズレを起こす。その縫い目は、前身頃とは比べ物にならないほど大胆だ。見ていると、アメリカを代表するミニマリストの彫刻家、リチャード・セラの巨大な鉄の曲面を上空から眺めているような感覚に襲われる。

 ジーンズもヒップから大腿部までレザーらしき素材で作られ、その下にはフロントと同じフェード感のあるブラックデニムが採用されている。そのうえ、上半身のボートネックカットソーと同じく、ジーンズ本来の構造とは異なり、股下の切り替え線が斜めに傾いている。

 この2つのアイテムは、ベーシックの仮面を被った挑戦的な服として仕上がっている。

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アンダーカバー 2026年春夏ウィメンズコレクション

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アンダーカバー 2026年春夏ウィメンズコレクション

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 ネックラインが浅いカーディガンと、ゆるいシルエットのジーンズもトラッドとしか言えない服と組み合わせ。だが、このルックは正面から文字通り歪んでいる。カーディガンの前立ては波打ち、身頃に不規則な歪みを起こしている。ジーンズにも素材の切り替えが見られ、ベーシックな装いの中にある「ズレ」の痕跡を主張している。

 バックスタイルに目を向ければ、カーディガンの切り替え線は先ほどのボートネックカットソーよりもさらに大胆。ジーンズは切り替えた素材の存在感が大きく、またも股下の切り替え線が斜めに侵食している。これらの構造は断層という言葉を想起させ、トラディショナルな服を半壊させている。

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アンダーカバー 2026年春夏ウィメンズコレクション

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アンダーカバー 2026年春夏ウィメンズコレクション

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 先ほど、アンダーカバーのベーシックが「間違いが許されたい」というニーズに寄り添うと述べた。「寄り添う」という言葉から、優しげな服を思い浮かべたかもしれない。しかし実際は、優しげな服とは逆の、不安を煽り立てるコートやカーディガンだと言えよう。

 不安を癒すのは安心だけとは限らない。不安をわかってくれるのは、不安を知っている服だけ、という瞬間がある。アンダーカバーには、世の中からはみ出してしまう人たちを肯定する優しさがある。ベーシックから逸脱してもなおベーシックの枠にとどまる。その怪しさに手を伸ばし、着たくなる。

矛盾が許される:構造が曖昧になるベーシック

 人の考えや行動は、常に一貫しているわけではない。出会う人、環境、年齢、気分。ごく小さな条件の違いだけで、判断の軸は揺らぐ。ファッションはその揺れがもっともよく現れる領域だ。ミニマルを好んでいたのに、突然プリントが心地よく感じられたり、逆に斬新な素材を求めていた人が、あるときから伝統的な素材の重厚さに惹かれたりする。矛盾は、人間の自然な変化の形でもある。

 しかし現代では、矛盾=未熟、軽率、無責任と捉えられやすい。過去の発言と現在の発言が食い違うだけで、SNS上で矛盾を指摘される。責められるべき矛盾は確かにある。だが、生活の中で生まれる許容していい矛盾までが追及される空気は、私たちを息苦しくさせる。

 環境、体験、気分のわずかな変化で、人の判断軸は簡単に変わる。その当たり前の揺れが「許されない」状況のなかで、「変わってもいい」という小さな許しを求めても不思議ではない。

 この揺らぎに寄り添うのが、アンダーカバーの「曖昧なベーシック」だ。2024年秋冬ウィメンズコレクションでは、確立されたはずのベーシックの構造が、曖昧になった服が提示された。

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アンダーカバー 2024年秋冬ウィメンズコレクション

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

 ファーストルックに登場したのは、白いキャミソールと色褪せたジーンズ。究極のベーシックがショーの始まりを飾った。ここで「矛盾」を体現しているのはウエスト部分だ。

 一見、上下別の服に見えるキャミソールとジーンズは、実際には一つにつながっている。しかも、ウエストで境界を明確にする構造ではない。キャミソールがジーンズに、ジーンズがキャミソールに侵食し合う形式で仕立てられている。

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アンダーカバー 2024年秋冬ウィメンズコレクション

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

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アンダーカバー 2024年秋冬ウィメンズコレクション

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 続いて登場した二つのルックも、タンクトップ、チョークストライプのパンツ、ニット、ジーンズと、いずれもベーシックウェアで装いが構成。だが、ファーストルックと同様に侵食が起きており、侵食の度合いは高まっている。

 左のルックでは、タンクトップの素材がパンツの側面になだれ込み、溢れ落ちたようにぶら下がり、パンツの脇線がタックトップの素材で切り替えられている。その結果、側章が入ったタキシードパンツのような別のベーシックが現れた。フォーマルなパンツは側章の素材に、光沢のあるサテンなどを使うのが一般的。だが、アンダーカバーの擬似タキシードパンツは、カジュアルな素材であるカットソーを用いている。

 また、ウエストをよく見ると、茶色いカットソーの上にパンツのパーツをただ貼り付けように見える。コピー&ペーストしたワードファイルのように平面的だ。このフラットなウエスト部分は、右のニットルックではニットとブラウスらしきトップスの一体化に置き換わっている。ジーンズもタンクトップのルックと同じく、トップスの生地がパンツの脇線を大胆に侵食。ここでは、フォーマルな要素とカジュアルな要素、そして上下の服の境界がはっきりとせず、各アイテムの構造の「正しさ」が完全に曖昧化していた。

 このコレクションはベーシックが軸になっているが、その作りはベーシックの基本を踏襲しているわけではない。上下が一つになった服は「ツナギ」と定義されるが、アンダーカバーのツナギは、上下の繋ぎ目が溶けるようにぼやけていた。

 そしてラストで矛盾の構造が頂点を迎える。

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アンダーカバー 2024年秋冬ウィメンズコレクション

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 グレーのスウェットを上下で合わせて、フードを被ることでこれでもかとカジュアルを強調する。そんなスタイルに、花嫁のヴェールを思わせる頭部、裾が床を引きずるトレーン、煌びやかな黄金色の素材が衝突し、ベーシックと伝統の境界は完全に決壊した。

 本来、伝統はルールを守ることで価値が生まれるが、アンダーカバーはルールを壊した先に伝統の新しい形があることを見せた。一般的に矛盾は、喜ばしいものではない。だが、矛盾が新しい視点を切り拓くことがある。過去と現在に違いがあっても、その違いを一旦傍に置いてみる。矛盾をすぐに否定せず、少し距離を置いて眺めることで見えてくるものがある。

ルールを壊す:スタンダードから外れること

 2020年7月1日。日本中のレジ袋が一斉に有料へ切り替わった日だ。持続可能性の象徴として導入されたこのルールは、今では日常に完全に溶け込んだ。買い物のたびにマイバッグを使うのも、社会全体が少しずつ前に進んだ証だと思う。

 それでも、時と場合によっては袋が必要になる瞬間がある。「このままでよろしいでしょうか?」と店員に問われ、首を振りながらレジ袋を頼むとき、どこかで小さな引け目が生まれる。「本当は使わないべきなのに」と、誰に責められるわけでもないのに、責められているような気さえする。

 必要なルールだと理解していても、それでもふと「なかったらいいのに」と思ってしまう。その衝動は、ルールそのものを否定したいわけではない。社会が整っていくほど、心のどこかで「壊したい」という小さな欲望が芽生える。

 ルールやスタンダードは倣うべきもの。だが、ファッションの世界ではスタンダードに反抗することは、重要な選択肢の一つだ。アンダーカバーの2024年秋冬メンズコレクションでは、世の中の常識の中で、生きられない男たちが描かれていた。

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アンダーカバー 2024年秋冬メンズコレクション

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アンダーカバー 2024年秋冬メンズコレクション

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 ステンカラーコート、アワードジャケット、スウェットパンツ。コレクションには誰もが知る定番アイテムが並ぶ。ドレスからカジュアルまで幅広く構成され、男性の日常の装いを網羅する。シルエットに奇抜な点は見られない。極めてベーシックで、服の形は伝統を踏襲している。しかし、アンダーカバーがただシンプルな服を作ることはない。ひと匙の毒を盛る。

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アンダーカバー 2024年秋冬メンズコレクション

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アンダーカバー 2024年秋冬メンズコレクション

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 このコレクションには妖気をはらむグラフィックが度々登場する。これらは、デヴィッド・リンチ(David Lynch)監督によるアメリカのドラマ「ツイン・ピークス」から着想を得ている。アンダーカバーのデザイナー 高橋盾は同ドラマの愛好家として知られ、このシーズンも自身の愛するドラマの登場人物たちをグラフィックに用いた。

 主人公のFBI特別捜査官デイル・バーソロミュー・クーパーのポートレートが、大小さまざまなサイズで登場する。また、この物語の発端となる殺人事件の被害者、17歳の女子高校生ローラー・パーマーのポートレートもあしらわれた。ローラーに関しては、生前の姿だけでなく、死体として発見された時の表情をプリントしたグラフィックも使用されたのも特筆すべきだろう。

 服のスタンダードと名作ドラマが融合し、2024年秋冬メンズコレクションはシンプルなシルエットが、グラフィックの怪しさを際立たせていた。 だが、このコレクション最大の特徴は服ではない。ルックに写る男性モデルたちの表情こそ、アンダーカバーの視点を表している。

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アンダーカバー 2024年秋冬メンズコレクション

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 モデルたちの多くが、カメラと視線を合わせていない。顔が斜めを向いていたり、目が下を向いていたり、顔が正面を向いていても視線は横にずれている、もしくはサングラスを掛けて目元を隠すなど、人と目を合わすことができない男性たちが写し出されている。

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アンダーカバー 2024年秋冬メンズコレクション

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 顔が正面を向き、視線をカメラと合わせていても、体の向きが微妙にずれており、正体していない。その姿は、他人と対峙することを恐れているかのようだ。いや、恐れと言うほどの強い感情ではない。もっと繊細な感情だろう。

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アンダーカバー 2024年秋冬メンズコレクション

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 無意識に体が正面を向くことを拒否してしまう、そんな人物に見えてくる。アンダーカバーの男性たちには、世の中に生きづらさを感じながら生きる儚さが漂う。世の中の常識の中で「生きたくない」というパンクな人物ではない。世の中の常識の中では「生きられない」という男性たちだ。

 不穏な空気の背後にあったもの。それは温かさだ。レジ袋一枚申し出るのに引け目を感じる心に、アンダーカバーは優しく寄り添ってくれる。

 シルエット自体はベーシックでありながら、影のあるグラフィックが佇まいをスタンダードの外側へ静かにズラす。その服は、「正しい社会」のルールの中で、間違え、矛盾し、そして微細に反抗し続けることを静かに肯定している。アンダーカバーが仕立てるベーシックは、窮屈な時代を生き抜くための、現代のスタンダードなのだ。

アンダーカバーのベーシックは“救済”

 社会が求める「正しさ」や「効率性」がピークに達しているこの時代。AIは最適解を示し、あらゆる行為はデータ化され、私たちは常に正解を選ぶよう無言の圧力をかけられている。しかし、人間は本来、間違えるし、矛盾するし、ルールから少しだけ外れたいと願う存在だ。

 アンダーカバーが提示した「トラディショナルの半壊」は、この完璧な社会と、不完全な私たちとの間に設けられた緩衝地帯だ。それは、服という日常の「スタンダード」の中で、「間違えてもいい」「矛盾していい」「微細な抵抗を続けていい」という、三つの自己肯定の権利を私たちに与えている。

 実験的で挑戦的なブランドがつくるベーシックは、多くの人が直面する日常の緊張を和らげる。アンダーカバーのベーシックは、社会のルールではなく、個人の心の揺らぎを標準(スタンダード)として定めた、新しい時代のユニフォームと言えるかもしれない。

 「アンダーカバーのポストベーシック」とは、窮屈な時代を生き抜くための、最も穏やかで、最もラディカルな救いの形である。あなたの日常の服は、あなた自身の不完全さを受け止めているだろうか。

AFFECTUS

AFFECTUS

2016年より新井茂晃が「ファッションを読む」をコンセプトにスタート。ウェブサイト「アフェクトゥス(AFFECTUS)」を中心に、モードファッションをテーマにした文章を発表する。複数のメディアでデザイナーへのインタビューや記事を執筆し、ファッションブランドのコンテンツ、カナダ・モントリオールのオンラインセレクトストア「エッセンス(SSENSE)」の日本語コンテンツなど、様々なコピーライティングも行う。“affectus”とはラテン語で「感情」を意味する。

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