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渋谷パルコの一角に、予約客だけが足を踏み入れることを許されたショップ、「VCM COLLECTION STORE(以下、コレクションストア)」がある。ヴィンテージ総合プラットフォーム「VCM(Vintage Collection Market)」が運営する実店舗で、主に取り扱うのはラグジュアリーブランド「エルメス(HERMÈS)」のヴィンテージジュエリーだ。このほかに類を見ないショップはどのように生まれたのか。VCM代表 十倍直昭氏に話を聞いた。
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2008年よりヴィンテージショップを運営。その後2021年には、ヴィンテージ総合プラットフォーム VCM(@vcm_vintagecollectionmall)を立ち上げ、来場者を1万人以上を動員する、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。
また渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」、エルメスジュエリーを専門に取り扱う予約制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLERY」を運営。
2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、全国のヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。
美容師から古着屋オーナーに
VCMの原点となったのは、ヴィンテージに対する愛着だ。1980年生まれの十倍氏がヴィンテージの世界に初めて触れたのは、中学生の頃。折しも1990年代の古着ブームの真っ只中だった。最初に惹かれたのはオーソドックスなアメカジだったが、ファッションのテイストミックスが盛んで流行りのスタイルが頻繁に移り変わっていた当時のファッションシーンの影響を受け、ストリートやデザイナーズ、ラグジュアリーといった多彩なファッションに興味を持つようになったという。

十倍直昭 VCM代表
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1998年に高校を卒業した十倍氏は、服飾専門学校に進学することも検討したものの、美容専門学校を選んだ。美容室を経営する親戚がおり、幼い頃から美容師という職業が身近だったことと、当時の雑誌のストリートスナップに古着をファッショナブルに着こなす美容師が多く登場していたことが理由だったというが、十倍氏の古着熱はその後も冷めなかった。専門学校を卒業後、美容師として働く合間にバックパッカーとして訪れるようになった世界各地で足を運んだのが、フリーマーケットや蚤の市だ。国内とは桁違いの圧倒的な古着の数々に魅せられた十倍氏は、当初は自分が着る古着だけを購入していたものの、買い物の量が徐々に増えていった。十倍氏曰く「バイヤーのマネごと」のように、余った古着をフリーマーケットやインターネットオークションで販売するうちに、「やはり古着の仕事をしてみたい」という思いが高まっていった。十倍氏は「自分がどこかの古着屋で働くというイメージが持てず、『まだ誰もやっていないこと』に挑戦してみたいという気持ちも強かった」ため、起業という手段を選んだとしている。1年間アルバイトを続けて貯めた資金を元手に、2008年に渋谷の雑居ビルに古着屋「グリモワール(GRIMOIRE)」をオープンした。
ウィメンズを主に扱うグリモワールで十倍氏が提案したのは、ヨーロッパとアメリカの古着をミックスしたドレッシーで高級感のあるヴィンテージスタイルだ。1970年代サンフランシスコのヒッピードレス、ヨーロッパの民族衣装、100年前のアンティーク。それぞれの服が持つカルチャーや歴史を、ファッションとして提案した。十倍氏は 「僕は当時から、『誰から買うか、どこで買うか』という付加価値を重視していました。だから、お店の世界観やディスプレイには徹底的にこだわりました」と語る。

Image by: VCM COLLECTION STORE
アフターコロナで生まれたヴィンテージラグジュアリー需要
グリモワールは店舗を増やし、ウェディングサービスを始めるなど順調にビジネスを拡大していたが、起業して約10年が経過した頃から十倍氏は「ウィメンズの古着ビジネスはやりきった」と感じるようになり、新たなビジネスの模索を始めた。それに対する答えを導くきっかけとなったのが、コロナ禍だった。多くの古着屋が店舗の休業を余儀なくされたうえ、生命線である海外買い付けもできない状況を見て、古着屋を集めたイベントを開催するというアイデアを思いつく。「あそこまで古着業界が追い詰められなければ、VCMという発想は生まれていなかったんじゃないかと思います。結果的に、自分のやりたいことがはっきり見えた」と言う彼は、2019年に「VCM」をECサイトとしてスタート。そして2020年、まだリアルイベントの開催が危ぶまれる中、渋谷PARCOの屋上で初の「VCM MARKET」を開催した。35店舗のヴィンテージショップが集結したこのイベントは大きな反響を呼び、確かな手応えを感じさせた。VCMが予想以上の速さで軌道に乗ったことで、十倍氏は事業をVCMに一本化することを決意し、グリモワールを2021年に閉店。同年に常設のリアル店舗として渋谷PARCO内にコレクションストアをオープンした。

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当初、コレクションストアには様々なヴィンテージショップが出店し、ヴィンテージのウェアやブランドのジュエリー、バッグなどを販売していたが、そのなかで十倍氏自身も愛用していたエルメスのジュエリーの人気が一際高かった。エルメスのジュエリーは高価なため、丁寧な接客が必要となる。客がゆっくりと商品を見られる環境が必要だと感じた十倍氏は、コレクションストアの一角にエルメスに特化したエリアを設け、自身が接客することを決断。それが、現在の予約制ショップの原型となった。

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価値のあるものを残していくことが使命
現在VCMが渋谷PARCOに構える常設エリアは、3つのショップで構成されている。1つ目は、複数のヴィンテージショップが入れ替わりで出店する「マーケットブース」。洋服のエリアと、ラグジュアリーブランドのバッグやジュエリーを扱うエリアに分かれている。








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2つ目は、週・月単位で企画が変わる「VCMギャラリー」。古着屋だけでなく、ヴィンテージにまつわるブランドやアーティストとのコラボレーションなど、クリエイティブな発信を行うスペースだ。








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そして3つ目が、このショップの中核と言える「コレクションストア」だ。今や、同店で取り扱う商品の9割以上がヴィンテージのエルメスジュエリーで占められている。ここに並ぶアイテムは、国内外のディーラーやコレクターといったパートナーから集められる。そもそも、ヴィンテージエルメスジュエリーはその価格や希少性の高さ故、一般的な古着のようにアメリカやヨーロッパに買い付けに行っても、すぐに集められるものではない。現在のコレクションストアの品揃えは、十倍氏が構築したネットワークによって支えられている。商品として選定する基準は極めて明確だ。「ファッションとして格好良いかどうかです。エルメスだから全ていい、というわけではありませんし、古ければそれだけで価値が高いということでもありません」。値付けは、現在の相場をベースにしつつ、需要と供給のバランス、希少性、年代、そしてサイズ感を総合的に判断するという。特にブレスレットは、大きいサイズの方がメンズにも対応できるため価値が高くなる傾向にある。その考え方は、ヴィンテージデニムのプライシングにも通じるものがある。







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店内では、Tシャツやデニム、ミリタリーウェアなどの、ヴィンテージエルメスジュエリーとのコーディネートにお勧めのヴィンテージ古着も取り扱う。事前予約をして来店した顧客に対し、1組あたり1時間の枠を設け、ゆっくり時間をかけて接客する。「目が肥えたお客様、経験豊富なお客様がたくさんいらっしゃいます。お客様が求めるものと、本当に似合うものは違うこともある。年齢や職業など、失礼にならない範囲でお話を伺いながら、より長く使える、その方に合った一点をお勧めします。金額の高い安いではなく、気づきを与えられるような接客でありたいですね」と、十倍氏は語る。
















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VCMが自信を持って勧めるヴィンテージエルメスジュエリー
ここで、コレクションストアで扱うヴィンテージエルメスジュエリーのなかから、人気の高い商品やお勧めの商品をピックアップしてもらった。コレクションストアで最も人気が高いのは、ヴィンテージエルメスジュエリーの代名詞とも言えるモデルであるシェーヌダンクル。特に、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)がエルメスのウィメンズプレタポルテのデザイナーを務めていた1990年代から2000年初頭、通称「マルジェラ期」のモデルは、随一の人気を誇る。十倍氏によると、その頃のシェーヌダンクルは現行品よりもコマがわずかに横長で、ヴィンテージとモダンが両立した雰囲気に仕上がっているという。


シェーヌダンクル
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初心者には、現行のシェーヌダンクルや、馬具のベルトをモチーフにしたブックルセリエを勧める。ブックルセリエは60万円台からと、他のチェーンブレスレットと比較するとまだ買いやすい価格帯なので、最初の一点として選びやすいそうだ。また、バングルは30万円台からでも購入可能なものがあるという。








シェーヌダンクル
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そして、十倍氏が数あるヴィンテージエルメスジュエリーのなかでも特別な存在として挙げるのが、シェーヌダンクルや、ヴィンテージエルメスの人気を不動のものにした傑作アクロバットなどの、ゴールド素材を用いたアイテムだ。これらは上顧客からのオーダー品なので、市場での流通量は圧倒的に少ない。今や資産ともいえる価値を持つ逸品だ。





シェーヌダンクル(ゴールド)
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モノとヒトとを繋ぐ場所として
最後に、十倍氏の今後の展望を聞いた。「多くのお客様は、いいものが欲しい、長く使えるものが欲しいと思っています。僕らの使命は、価値のあるものをどう残していくかということ。大量に仕入れて大量に売るのではなく、本当にいいものを求める方々に対して、情報をしっかり発信し、丁寧な接客でその価値を伝えていきたい。VCMは、いいお店、いいコレクター、そしていいお客様を繋ぐ場でありたい。狭くてもいいので、より濃く、やりたいことを突き詰めていきたいです」。
イベントも、リアル店舗も、どちらも妥協しない。VCMが提案するのは、単なるモノではない。時代を超えて受け継がれる価値と、それを見出す喜びだ。渋谷の一室で、ヴィンテージの新たな物語が紡がれ続けている。

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最終更新日:
■VCM COLLECTION STORE
所在地:東京都渋谷区宇田川町15−1 渋谷PARCO 4F
営業時間:11:00〜21:00
公式インスタグラム
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