パリでインタビューに応じたクレイグ・ウィリアムズ(Craig Williams)
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スニーカー市場の低迷、新興企業が台頭し始めるランニング市場......近年はこういった報道が目立つようになった。これらの市場を牽引してきたのは「ナイキ(NIKE)」だ。成長鈍化も指摘される中で、ナイキはいま何を考え、どこを目指しているのか。ジョン・ドナホーCEOやコンシューマー プロダクト&ブランド プレジデントのハイディ・オニールらとともに、ナイキ社のビジネスを牽引しているクレイグ・ウィリアムズ(Craig Williams)氏に、パリのプレスツアーで単独インタビューを行った。
クレイグ・ウィリアムズ(Craig Williams)
ノースウェスタン大学でMBAを、ベネディクト・カレッジで物理学の学士号を取得。2019年1月にザ・コカ・コーラ・カンパニーからナイキに入社。ジョーダン ブランドの社長を経て、現在は地域&マーケットプレイス担当プレジデントを務めている。過去には米海軍で原子力将校として5年間勤務した経験も。
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―直近の業績を踏まえた上で、ナイキ社が今抱える課題感について教えてください。
いくつかの調整を行う必要があると捉えています。一つは消費者を巻き込むイノベーションの流れを増やすこと、もう一つは「エア フォース 1(AIR FORCE 1)」や「ダンク(Dunk)」、「エア ジョーダン 1(AIR JORDAN 1)」といった非常に強力なフランチャイズをより頻繁に新しいイノベーションで補強することが挙げられます。
これに加えて、ここ数年で非常に好調なD2Cビジネスの継続、さらに、我々のイノベーションが一貫して消費者の手に届くようにするために卸売業者とのより強力な関係を築き上げること。我々はこの2つを前進するチャンスだと考えています。今後数年間で、本当に大きなイノベーションサイクルの局面を迎えるにあたり、マーケットを盛り上げる中で、消費者のニーズに対してよりインパクトのある方法で提供するチャンスがあると信じています。
―「イノベーション」というワードが多く出てきたのが印象的です。イノベーションの重要性は市場が変化したことに起因しているのでしょうか?
市場はとても早く動いていて、それに合わせて消費者のニーズもとても早く変化しています。ナイキは市場拡大の大きな役割を担っており、イノベーションの限界を押し広げ、消費者に何が可能かを示してきました。この2つの理由から生まれたイノベーションサイクルが、今後もストーリーテリングや体験とイノベーションを組み合わせることができる最高の機会を与えてくれると信じています。
―市場の競争力は年々激化している?
フットウェアとアパレル市場は常に競争的だとおもいます。ナイキは50年以上ビジネスを続けていますが、毎年競争の場に立ってきました。今日もそれは変わっていません。この競争が我々を強くしていると思っています。それは、消費者を満足させるだけではなく、ナイキにしかできない方法でイノベーションを起こし、そこから利益を得るための方法を競争によって見つけることができるからです。
―イノベーションの取り組みの一つには「ナイキ エア」プラットフォームの革新があると思います。それは、ナイキの今後の成長にどのような影響を与えると考えていますか?
ナイキ エアの好きなところは、ナイキ独自のイノベーションであり、かつ、私たちが一貫して革新し続けている分野であることです。私たちは、ナイキ エアをこれまで以上に優れたものにするため、過去に導入したものを改善することに対して執拗に取り組んできました。そして今回、過去にないほど多くのエネルギーを消費者に還元するエア プラットフォームを作り上げました。これは、私たちの研究とイノベーション・チームのリーダーたちがこれまでいかにこのプラットフォームに取り組んできたかを考えると、驚くべき成果だと言えます。このプラットフォームから、我々独自のストーリーテリングと差別化された市場体験を組み合わせることで、今日の消費者にとって、これまでと同じようにパーソナルで共感できるナイキ エアを提供できるようになると信じています。
―スニーカー市場の勢いは以前よりも落ち着き、ランニングの分野では新興企業の台頭が見られます。ナイキが競争に勝ち続け、スポーツスニーカー企業を牽引するための計画、また、小売におけるイノベーションについても、共有できる戦略があれば教えてください。
ナイキが素晴らしいのは、実際に市場全体を成長させていること。それは責任を果たすという意味でも、私たちの役割だと思っています。特にランニング分野においては、長年にわたってナイキ以上に貢献してきた企業はありません。そして、私たちが持っているプラットフォームと消費者に提供するイノベーションから、ナイキはランナーの能力を高めることができると信じています。もちろん、私たちはこれからもD2Cビジネスを活用していきますが、世界中の市場、特に日本の市場においてはランナーのシューズ選びの際に、私たちの最新イノベーションを届けられるよう、ランニング専門店でも結果を残していきます。
―日本市場のポテンシャルは?
日本に限って言えば、ナイキにとって何年も前から特別な市場です。私たちは日本で大きな成功を収めてきました。例えば駅伝を見ても、10区間中7区間でナイキのシューズを履いたランナーが区間賞を獲得していました。そして実は、そのランナーの多くは、私たちが実際に製品を発売する前に、最新作「ナイキ アルファフライ 3」のプロトタイプを履いていたのです。このことからも分かるように、私たちは日本で大きなチャンスがあり、製品のイノベーションだけではなく、東京にあるナイキ銀座店のような小売店での経験によって、このチャンスを生かすことができると信じています。
ナイキ銀座店は、ナイキ製品全般を展示するショーケースですが、ランナーのために特別に作られたユニークなアパレルとフットウェアがあるので、ランナーには特に楽しんでいただける場所です。また、ランナーが新しくインパクトのある形でコミュニティと関わることができる場所でもあります。
NIKE GINZA
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―一時はD2Cにフォーカスするために卸売ビジネスを縮小していましたが、近年は再び注力し始めたと聞きました。
D2C事業については大きな手応えを感じています。ここ数年、非常に大きな成長を遂げていて、事実として、デジタルの方では2023年は2020年比で30%以上の成長を遂げました。これは、消費者ニーズに合わせてD2C事業に注力した結果であり、ブランドがD2Cをチャネルとしてより強力に展開することができたということも表しています。私たちは、直売における現在の強みと、卸売パートナーシップへのさらなる注力を組み合わせることで、市場を成長させることができると確信しています。
―一部モデルは製造数を減らしたり、価格の値上げを検討しているという報道もありましたが。
ここ数年、ナイキは人気商品を消費者に紹介したり、コンスタントに登場させたりして、本当に良い結果を残してきました。私たちは、これらのフランチャイズが長期にわたって生き残っていくために、効果的に管理し、長期的な健全性を確保したいと考えています。
同時に、ナイキが提供するおなじみの人気商品のパフォーマンスを向上させ、新たな一面を提示するようなイノベーションアイテムとして、消費者が享受できるような形で、新しいイノベーションを世に送り出していきます。それを実現することで、新しく魅力的な方法で市場に貢献できると信じています。
―パリのプレスツアーではこれまでにない新しい取り組みも発表されました。そういったチャレンジングな取り組みを今後も増やしていく?
ええ。実際、イノベーションに関して私たちが今お見せしているのは氷山の一角だと思います。そして、私たちは数年にわたるプロセスや段階によるイノベーション開発を行っており、そのほとんどは今はまだ皆さんにお見せすることができません。しかし、この先何年にもわたって、消費者のため、アスリートのため、そしてスポーツのために、この会社が何を用意しているのかを考えると、私たちも本当にわくわくしています。
―ナイキの未来は明るい?
未来は明るいと思います。ナイキが素晴らしいのは、その人のパフォーマンスを向上させるような、市場を刺激するような新しいイノベーションを提供することができることです。ここ数日間で皆さんに見ていただいた製品からも分かるように、私たちは素晴らしいイノベーション・プラットフォームを持っていますし、そしてそれは、これから市場に導入する数年にわたるプラットフォームの始まりに過ぎません。私たちは、それが今後数年間のナイキの成長を牽引すると信じています。私たちだけがこの革新に興奮するのではなく、より重要なことは、私たちが提供する製品に消費者も興奮するということです。
(聞き手:伊藤真帆)
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