Mitsuhiro Minami

価格破壊はどこから始まったのか

南 充浩

繊維業界記者・ライター兼広報アドバイザー

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 ユニクロをはじめとする国内外の低価格SPAがアパレル・ファッション業界の価格破壊を引き起こしたと、一般的には目されているが、別にアパレルの価格破壊は今に始まったことではない。
かつて、青山商事やはるやま商事、AOKIなどの紳士服チェーン店が急速に拡大したのも「価格破壊」の結果である。
安売りカジュアルというジャンルはユニクロの台頭以前にもさまざまな業態があった。
鈴屋、鈴丹しかり、リオチェーンしかり、マルトミしかりである。

仮にユニクロが現在ほど台頭しなくても、別のブランドが価格破壊を行ったであろうことは容易に想像できる。

安売りというとどうしても大手チェーン店に目が向く。
大量生産大量販売に基づいて1品あたりの販売価格を安くするという手法は洋服に限らず、家電・自動車・精密機器など工業製品すべてに当てはまるからだ。

大手資本の安売り攻勢に押される小規模事業者

これが一般に広く認知されている社会の構図ではないだろうか。

しかし、安売りによる価格破壊を引き起こしているのは大手チェーン店だけではない。
小規模な手工業者も価格破壊を引き起こしている場合もある。
とくにファッション業界においては。

先日、ファッションスナップドットコムに台東デザイナーズビレッジの鈴木淳村長のロングインタビューが掲載された。


【インタビュー】デザビレ村長 鈴木淳「趣味でモノを作る人にデザイナーが負けてしまう時代が来る」
https://www.fashionsnap.com/inside/jun-suzuki-interview14/

筆者が今回言わんとしていることはタイトルだけで十分伝わると思うのだが、しばらく我慢してお付き合い願いたい。

その中にこういう一節がある。


いわゆるデザビレに居るような小規模のクリエイターの領域を手作り作家さんが侵食し始めているということです。手作り作家さんはパートナーが養ってくれるからこれで稼がなくてもいいという趣味志向の方が多いため、破格な値付けをしていて、商品を購入すると1点1点お手紙を書いてくれて、綺麗なパッケージに包んでくれてというサービスを提供する方もいます。気軽にC to Cで取引ができるということは画期的ではありますが、一方で若手クリエイターの商品を買う必然性はなくなってしまう。

とのことである。

昨今、手作り作家の数は増えており、彼・彼女らが消費者に直接販売できるインターネット通販サイトが増えてきた。また阪急百貨店うめだ本店の10階ではこういう手作り作家を集めた期間限定の販売会を年間何度も開催している。


手作り作家さんは既婚女性である場合が多い。
彼女らの夫は通常の会社員や公務員であり、月々の生活費は夫が稼ぎ出してくれている。
その結果、彼女らは損をしない程度で売れれば良いというスタンスで物作りができるため、相場をはるかに下回る販売価格を設定することができる。

商品の販売によって自身の生活費までを稼ぎ出さねばならない小規模デザイナーや手作り作家では、その価格設定に対抗することはできない。

よほどのブランド力があれば別だが、そうでなければ大概の人は安い方で買う。
しかも価格は安いが多くの既婚手作り作家さんは、プロとして活動していた経験も持っているし、手作りを始めてからのキャリアも長いから品質もそれなりに高い。
高品質低価格ならそちらの方が売れるのは当然といえる。

価格破壊は大手からだけではなく、超小規模業者からも起きている。
これが現実である。


この現状を踏まえて議論しないと、ファッション業界はいつまでもユニクロ・しまむらと外資ファストファッションへの恨み言を繰り返すのみであり、新たな一歩を踏み出すことはできないのではないか。


そして小規模独立系のデザイナーたちは、自分たちの嫌う価格破壊を起こしているのは、手作り作家でもあるという認識を持つことも重要であろう。


欧米諸国では小規模独立系デザイナーに対してパトロン・パトロネージが付くという。
しかし、我が国にはそういう文化はない。
ないものをあてにして待っていても仕方がないから、自分たちでやりくりせねばならない。

最早、手作りであろうが小規模であろうが、価格競争には巻き込まれるということを理解した上でビジネススキームを構築する必要がある。

南 充浩

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