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スタイリストとして生き残るには?

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クリエイティブディレクター

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 先週のファッション業界はある雑誌のタイトルに注目が集まった。紙媒体の日経ビジネス10月3日号「買いたい服がない アパレル"散弾銃商法"の終焉」である。

 売上げ不振にあえぐ業界を取り上げ、その苦境を招いた病巣を冷静に分析し、解説。またリストラ策しか打ち出せず、浮上のきっかけをつかめないメーカーや百貨店、逆に他社の不振を尻目に新たなビジネスに進出するイノベーターも取り上げている。

 連動するネット版(日経ビジネスオンライン)では、業界にとっての打開策とも言うべき事例を上げている。一つが「ブランドディスラプター」(旧来型のブランドを破壊する者/disruptとは分裂させるの意)、もう一つが「オンライン接客」である。

 ブランドディスラプターという新しいビジネスモデルについては、いろんな方々がコメントされているので、改めて論評するのは控えたい。ただ、オンライン接客については、日経BOLが「誰がアパレルを殺すのか。アパレル「店舗の価値は店員」論のもろい前提」http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/092900020/100300005/の記事中で、新しい販売員像をわざわざ「スタイリスト」と呼んでいるので、このコラムで取り上げることにする。

スタイリストという虚像

 日本ではスタイリストと言えば、ファッションを主体に衣装や小道具を借りて来て、雑誌やCMの撮影セッティング、タレントの支援などを行う仕事と解釈されている。服やアクセサリーが扱え、メディアの仕事にも携われる。若者に人気の職業であるため、ファッション専門学校では販売員教育とごちゃ混ぜにして定員を埋めようとするところも少なくない。

 しかし、実態は外見の華やかさとは大きく乖離するものだ。デザイナーやパタンナーのような技術や資格を必要とするものではなく、正社員という雇用の安定性もない。多くがフリーランスで、法人化されているスタイリスト事務所でも、新人採用は非正規雇用のアシスタントに過ぎない。売上げという収入は、出版社やCM制作会社、タレント事務所などから「撮影費」や「衣装代」の範囲内で支払われるギャラで、アシスタントレベルでは月に数万円なのが実情だ。

 こうした実態を知らない地方の若者は、メディア露出する派手さのみに憧れ、自分にもできると進学や上京に走るが、職業として社会的な信用を得るにはほど遠い。多くの若者が誤解しているが、ファッション業界がギャラを支払うのではない。出版社や広告代理店、子飼いのプロダクションなどから仕事を受けるのだ。一流大学出のエリートがゾロ揃うメディア界の仕事であると、専門学校側がきちんと教育していないこともあり、大半が挫折して転職していかざる得ないのが正直なところだ。

 筆者が仕事をしたマンションアパレルでは、メディア露出のためにリースに応じていたし、プレスプロモーションの仕事では数々のスタイリストに接した。地方出身者の若者では多くがスタイリストをよく理解していない反面、東京出身者になると小さい頃からメディア慣れしているせいか、非常に使いやすかった印象を持っている。

 スタイリストの仕事とは制作予算、発行やオンエアまでのスケジュール期限の中でベストなスタイリングを作り出すもの。自分で自由にコーディネートできる機会はほとんどないと言って良い。あくまで主導権を握るのは出版社の編集者や代理店のディレクターだ。だから、仕事に必要な能力とは感性、センスなどという漠然、抽象的なものではない。

 編集テーマやCMコンセプト、タレントのキャラに沿って、どこのメーカーならこんな色柄、素材、デザインの商品を作っている。どこのショップに行けば、こんなイメージの商品が見つけられ借りられる。見つからなければ、自分で衣装を手配する。有名ブランドのプレスルーム以外も含めてファッションの情報収集の能力に長け、編集者やディレクターに逆提案できるのが、スタイリストの役割なのである。

 この間、東京に出張した時、地下鉄の表参道駅で両肩に商品が詰まった大きなバッグをかけたスタイリストらしき人物とすれ違った。向かった出口が表参道交差点側だったので、南青山あたりのブランドショップに借りた商品を返しに行くのだろう。この光景は筆者が業界に入った頃から30年以上、変わっていない。

 しかし、実際の現場はどうか。メディア界といっても出版社、ファッション雑誌は販売不振で休刊や廃刊が相次ぎ、青息吐息状態だ。CMとて制作費が潤沢でスタイリストに多額のギャラを支払うことができるものは限られている。そんなメディアもネット媒体が主力になり、制作費は下落傾向が続いている。撮影内容は同じでも、雑誌のようなギャラはもらえなくなっている。まあ雑誌の撮影程度ではもともとギャラは安いのだが。

 地方になると、さらに深刻だ。もともとローカルテレビの自主制作番組で、女子アナの衣装を百貨店辺りから借りるくらいの仕事しかなかった。しかも、ご多分に漏れずローカル局も番組制作費は削られている。下請けのスタッフ他、スタイリストのギャラにしわ寄せが来るのは当然だ。福岡の場合、おばさんが居座って、若手に仕事が来ないとの嘆きも聞こえて来る。

 もともと地方にはプレス機能を持つアパレル、高感度なブランドメーカーなどほとんどない。リースに応じるのは小売りをしているショップくらいだ。それも販売する「商品」なので、ファンデーションなどで汚されては困る。だから、どうしても貸りたい商品は自腹で購入するしかない。で、結局、撮影に使わなかったものを返品するとなると、ショップに対する信用もがた落ちになる。

 代理店が制作するローカルCMとて、すべてにトレンドファッションが必要ではない。温泉県おおいたのCMなんかは典型だろう。テーマはシンフロナイズドスイミング。用意するのは頭に巻くタオル、ビスチェとアンダーウエアで十分だ。紙媒体とてファッションビルのフリーペーパーで置撮り写真のセッティングが関の山。それさえ元請けの代理店が取り合いなのだから、スタイリストの仕事どころの騒ぎではない。日本ではスタイリスト受難の時代に入ったと言っても過言ではないだろう。

ファッション専門職として復権

 そこで日経BOLの記事である。スタイリストの概念は日本と大きく違うことを伝えている。というか、本来のスタイリストとは「ファッション業界の仕事」で、米国ではIT、インターネットが関わる革新性をもつ職業として見直されていることを紹介している。それは顧客に求めに応じてあらゆるアイテムを見つけ、商品の仕入れからコーディネート、販売まで行うパーソナルなスタイリスト。最先端のファッションビジネスを担うスペシャリストと言うべきものだ。

 記事のサブタイトル 「オンライン接客」が当たり前の米国EC最前線では、以下のようにスタイリストを伝えている。

「黒いラムレザーのジャケットがほしい。ラウンドネックで、ジップアップ、予算は5万円程度」。

なんとなくこんな感じ――。洋服を購入する際に、ある程度のイメージはあるものの、具体的な商品に絞り込むことが難しかったり、時間がなくて探せなかったりすることは誰にでもあるだろう。「Amazon.co.jp(アマゾン)」「楽天市場」「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」といったファッションを扱うサイトは多くある。一方で、情報が多すぎるため、その中で自分の好みのものを見つけるには、時間や検索のコツが必要になってくる。そうした「インターネットの大海」から顧客を救い出すためのサービスが、米国で登場している。

PSDept(ピーエスデプト)が展開するのは、衣料品や服飾雑貨のパーソナルショッパーサービス。冒頭のような要望をメッセンジャー形式のアプリに入力すると、スタイリストから回答を得られるサービスだ。イメージする商品の写真を送ることでも要望を伝えられる。

スタイリストは、110の提携企業(ブランド数は数千)から顧客の好みの商品を探し出して提案する。商品は、必ずしもウェブ上ですでに売られているものとは限らない。ラグジュアリーブランドの商品やヴィンテージ商品など、ウェブで販売されていないものは多い。そうした場合でも、メーカーやブランドに直接問い合わせ、自社で仕入れ、提供する。ウェブの在庫情報だけを探して提案するのではなく、直接ブランドに問い合わせるなどして顧客に商品を届けるといった、きめ細かな対応を実施していることも強みの一つだ。

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 しかも、ピーエスデプトはたった6人のスタイリストで、月間7000人のアクティブユーザーに対応している。AI(人工知能)を生かし、顧客の要望の4割はボットと呼ばれるロボットが相手にする。大まかな要望はボット、細かなものは人間という具合に分けて、顧客は求めるド・ストライクのスタイリングや着こなしを提案していくのだ。まさにスタイリストはファッションの情報収集の能力に長け、データをきめ細かく管理しているからこそ、それができるのである。

 日本の店頭接客では、自ブランドや自店の在庫商品を把握して、会社側の重点販売アイテムや消化指示などに従って販売を行っている。当然、販売員には予算達成のノルマが課せられるため、最近の若者の販売職離れにつながっていると見る向きもある。ビジネスだから販売職はもちろん、技術職にも数字という目標は課されるのが当然という意見はわかる。

 ピーエスデプトのようにITとオンラインの力を借りて、スタイリスト自らがあらゆるブランド、テイスト、オケージョン、コーディネートを提案し、「自ら仕入れて売りにつなげていく」立場なら、接客販売という概念や価値、仕事の魅力も変わっていく。当然のことながら、売上げは自分の能力の尺度であり、顧客の信頼を勝ち取るほどに「ギャラ」は増えていくことになる。あくまでビジネスは自己責任で行うという米国らしい仕組みと言える。こうしたシステムが日本にも導入されれば、スタイリストという本来の意味をファッション業界が取り戻せるのかもしれない。

情報収集と管理、統計の能力

 大手小売業やアパレル直営店の店頭では、昔から「顧客管理」が行われてきた。お客の氏名や住所、スリーサイズ、生年月日、勤務先などと、商品の購入日、内容、接客時の印象などを書き込む複写式の帳票、またはオリジナルノートがあった。基本的には販売スタッフが管理するものだが、定期的に本部が控えを回収して仕入れや商品開発の参考にしたり、スタッフが退職の折りには後任が引き継ぐ態勢も整えられていた。もちろん、社外秘、持ち出し厳禁だったが、個人情報保護法が施行されて以降は、管理もより厳密になり、ポイントカード化で管理精度も上がったかに見える。

 しかし、実際には「リピーター」「フィードバック」という言葉のみが一人歩きして、顧客情報がどれほど仕入れや開発に生かされてきたかは疑わしい。店頭レベルでもルーティンに商品の入荷やセール案内くらいしか活用されていないように感じる。それ以上にブランドの盛衰やトレンド変化が激しいことからお客は成熟して、固定客として居残る率はかなり減って来ているのではないか。昔はデータ顧客の3割が新陳代謝していくと言われたが、今では半数が固定化するまでにいってないように感じる。

 お客が全く服やアクセサリーを買わないわけではない。買いたいものがなく、あったとしも探しづらく見つけにくいのだ。そのため、ピーエスデプトのようなシステムが構築されると、お客からの色柄、デザイン、価格などの要求に対し即座に対応できる。極論すれば生地見本一つをスキャンしてデータ化しておけば、同じ生地を使った商品をブランドやメーカーがコレクションや展示会で発表した時に顧客に提案することが可能になる。人間の頭脳で記憶できない部分はAIという人工知能がフォローし、「この質感の生地なら、◯◯さんが好むと思うよ」と、指示してくれることになるのだ。

 実店舗のようなバイイング、納品、売場編集といったタイムラグがなく、オンライン上で接客がリアルタイムで行われるのである。販売ロスや機会ロスは格段に下がり、購買率はより上がっていく。そうしたITを駆使する販売スタッフがワールドワイドなスタイリストとして活躍できるフィールドができ上がりつつある。

 筆者がニューヨークで見聞きしたパーソナルスタイリストは、お客さんをいかに魅力的にするかを徹底していた。ドレスコードが厳しい米国だけに着こなし提案はオン、オフといった単純なものではない。ハリウッドのレッドカーペットを歩く時のドレスやブラックタイスタイルから、パーティ開けのリラックス、世界中を飛び回るために衣服をコンパクト化するジェットセット、そして完全なリゾートなどまでと多岐にわたる提案をこなす。

 もちろん、ジーンズがカジュアルウエアの定番だから、アクセサリーといった小物使いも見逃せない。そうした基本的な知識技術をベースにIT、AIを取り入れたのがピーエスデプトということだろうか。

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 ファッションビジネスが不振にあえぐ中、「ECやオムニチャンネルが期待される」「若者がなぜファッション業界を目指さなくなったのか」くらいの論調がもてはやされる日本とは、雲泥の差である。

 「このままショップスタイリストを続けていても将来が不安」「予算が削られて仕事がなくなったので、何かないですか」。そんな弱音や寝言を吐いたところで、自らが今のままなら座して死を待つしかない。それが変化の激しいビジネスの常識なのである。米国がここまでになってきたのは、スタイリストとして生き残るには進化しなければならないことの証左とも言える。

 日本でもおそかれ早かれ、販売の現場は大きく変わっていく。教育する専門学校もそれが世界標準となることを伝えて行くべきなのだが、それを理解できる学校、学生は限られるだろう。繰り返すが、これからのスタイリストには高度な情報収集能力に加え、卓越したITの知識が求められる。企業化していくなら顧客データから統計学のノウハウを用い、数値上の性質や規則性を割り出すことも重要になる。

 日経ビジネスのインタビューで、オンワードHDの保元道宣社長は、「極端に言えば、顧客と対話しながら(商品を)作れれば、在庫ロスがなくセールをしなくてもいい。そんなモデルが理想です」と締めくくっている。オンライン接客で、スタイリストと顧客が会話をしていく中で、ほしい商品のアウトラインができ上がれば、それが全ストックデータにない場合にメーカーにフィードバックして、即時に生産する。そうした新しいビジネスにも発展する予感がする。

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