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「ギンザシックス」にみる、百貨店の未来のかたちとは?

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Jフロントリテイリングが森ビルなどと共同開発する松坂屋銀座跡地の再開発事業。このほどその詳細が発表された。プロジェクト概要はオフィスと商業施設が一体化した複合ビルということだが、商業機能は百貨店ではなく、SC/ショッピングセンター(ファッションビルという正式な業態名はない)という形をとることになった。

施設名は銀座6丁目にちなんで「GINZA SIX」と付けられ、241のテナントがリーシングされる。松坂屋は激戦区銀座における百貨店運営の厳しさから、これまでにもForever21やラオックスといったテナントを誘致し、何とか凌いできた。その到達目標が「脱・百貨店」と言えばカッコ良くも聞こえるが、本店以外は成り立たなくなっている業態を脱したところに何があるのか。明確な答えを見いだしたとは思えない。

なぜかと言えば、銀座は日本の一等地というだけでなく、消費が最も成熟した東京の中心だからである。脱百貨店と言っても、それは委託販売、消化仕入れといった契約形態から、定期借家契約を含めたテナント誘致による歩率家賃収入に変わっただけ。自主運営の売場を充実させたわけでも、 新たな需要を喚起するオリジナル商品を企画するわけでもない。リーシングされるテナントの顔ぶれを見る限りでは、すでにあるブランドばかりで、手当り次第に集めた感は否めない。これらが成熟した日本のマーケットを活性化し、新たな市場を掘り起こせるかについては、疑問符を付けざるを得ないのである。

では、具体的に見ていこう。まず銀座通りに面して2から5層に渡って海外のラグジュアリーブランドが配置される。一応、各ブランドは「旗艦店」という形が取られ、売場面積は百貨店よりは幾分かは割かれるようである。しかし、たとえ旗艦店であっても、ビルインである以上、百貨店のインショップと大して変わらない。どこまでブランドの世界観を訴えることができるかである。

銀座は並木通りのサンモトヤマを皮切りにルイ・ヴィトンが店舗を構えるなど、徐々にブランドストリート化した経緯がある。その傾向はグッチやシャネル、カルティエなどの進出で、中央通り、晴海通りまで広がった。90年代に入り、バブルが崩壊した後も、ラグジュアリーブランドは業績不振で閉鎖や移転した金融機関の跡地に路面出店。代表格と言えば、96年に中央通りに出店したティファニーと、2001年に晴海通りにオープンしたエルメスだろう。

この頃からラグジュアリーブランドはファッションコングロマリットに変貌し、革製品や宝飾品に留まることなく、プレタポルテやアクセサリーまで手掛けるようになった。なおかつ株式上場で調達した莫大な資金を背景にしてそのロイヤルティとイメージを浸透させるため、世界中の一等地での旗艦店展開を加速化した。ブランド消費大国の日本でも銀座を始め、表参道や青山、心斎橋がその候補地になったのは言うまでもない。

一方、旗艦店の展開にはもう一つ理由があった。それは販売効率の問題だ。通常の百貨店インショップでは売場面積が限られ、どうしても商品点数は絞り込まざるを得ない。しかし、お客が本国の旗艦店で見た商品を望んだ時、「当店では扱っておりません」では、みすみす売り逃すことになる。客注に対応する場合でも物流コストがかかり、その分の粗利益が下がってしまう。百貨店展開では非常に効率が悪くなってきたのである。

ラグジュアリーブランドが上場企業である以上、短期に収益を上げなくては投資家は黙っていない。百貨店テナントでちまちま商品を売るよりも、都心の旗艦店にフルアイテムでラインナップし、抜群な集客力にかけた方が効率はいい。経営者ならそう判断するはずだ。現にエルメスは銀座に出店し、売上げが格段に伸びたと言われている。

だからこそ、Jフロントリテイリングとしては受け皿として少しでも旗艦店の様相を整えたかったのではないか。 ハード面で中央通りに面した全長約115メートルに6ブランドを2〜5層のメゾネット型にしたのも、その狙いと思われる。

ただ、そこに出店するブランドはディオール、セリーヌ、サンローラン、 ヴァン クリーフ&アーペル、 ヴァレンティノ、 フェンディ。ディオールは「ザ ハウス オブ ディオール」は世界最大級というから旗艦店の面目は保てるだろうが、ブランドそのものは他を含め目新しくはない。特に日本ではラグジュアリーブランドを好む客層は、それぞれ御用達がある。回遊して気に入ったものがあれば購入するということにはならないだろう。

現在、ラグジュアリーブランドが置かれる立場はビジネス優先だ。短期に利益を追求し続けるには量産と拡販のサイクルが不可欠で、創業の精神やクオリティの追求は希薄になっている。いくら資本力をもつ上場企業と言えど、利益の追求と価値やクオリティの維持は両立しない。GINZA SIXに並ぶブランドは、そうした矛盾を抱えているのだ。当然、成熟した顧客はそれには気づいているはずだが、Jフロントリテイリングがこうした課題をどこまで想定しているかである。

一方、晴海側の1〜2階にはジュエリーや時計、バッグ、靴を主体として、ロレックスやシチズン、ディスコード・ヨウジヤマモト、アニヤ・ハインドマーチ、マノロ・ブラニクなどを集積。3〜5階にウエアをもつアレキサンダー・マックイーン、 3.1フィリップ リム、 アンダーカバーなどクリエーター系、 ビームスハウスウィメン、ドレステリアといったセレクト、エイケイエム、アタッチメントなどのストリート&モード系と、こちらにも国内外のブランドがてんこ盛りされる。

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「ここに来ればラグジュアリーからインターナショナルなクリエーター、はてはストリートまでのブランドすべて手に入りますよ」との思いは感じるが、ここでも成熟した日本人をどこまで惹き付けられるかは懐疑的だ。銀座でコムデギャルソンが売れているのだから、「アタッチメント」や「Nハリウッド」も買いに来てもらえる。果たして本当にそうなのだろうか。GINZA SIXの正面に立つユニクロ銀座店の裏手にはドーバーストリートマーケットがある。ここではレギュラー店にない商品を扱い、コムデギャルソンがキュレーターとなって他ブランドもセレクティングしている。だから、集客力をもつのだ。

各ブランドの新業態がレギュラー店にはない限定商品を扱うどうかは、現時点ではわからない。ただ、施設面積約4万7,000平方メートルだが、店舗中央部は1階から5階が吹き抜けで中空状態。それ以外には240以上の店舗を詰め込むのだから、1店舗あたりの面積やMDには自ずと限界があると思う。第一、地方の若者が自分が好きな「ジュンハシモト」や「エイケイエム」をわざわざ銀座まで買いに行くだろうか。その分の旅費があれば購入費にまわし、通販サイトで買うはずである。

確かに委託販売、消化仕入れを止め、テナント誘致による歩率収入に切り替えたことは、脱百貨店に違いない。ただ、海外を主体にブランドを集めるだけ集めただけで、それが百貨店を脱した最良の業態という答えかは、現時点では何とも言えない。でも、本当に国内外の高級ブランドが売れるのなら、百貨店はそれほど苦戦はしていないはずだ。高コスト構造の百貨店から脱したと言っても、賃貸借契約は利幅がそれほど厚くないから、百貨店より収益が好転する保証もない。その意味で脱百貨店は言う易しだが、やるは難しなのである。

日本の消費者は確実に成熟しているし、商品を通じてもラグジュアリーブランドの利益追求と品質低下を感じとっていると思う。それゆえ、GINZA SIXは計画時点では成熟した日本人より、ブランド消費に旺盛で購買力をもつ中国人旅行客に照準を当てていたような気がしてならない。経営陣としての誤算は、こうも早くインバウンド消費が減退したことではないのか。

長年、百貨店経営に与して来たアパレルメーカーは業績不振のどん底にある。Jフロントリテイリングはその責任は自分たちにはないかのように、GINZA SIXではジョゼフ、ポール・スミス、ドレステリアのみ残し、他の百貨店系アパレルはバッサリ切っている。それも脱百貨店と言えばそうなのだが、小売業にとってブランド頼みは諸刃の剣であり、必ず功罪がある。それがかえって脱百貨店の答えを見えにくくするかもしれない。

どちらにしても、日本でいちばん成熟度が高い銀座だからこそ、マーケットは劇的なスピードで変化していく。MDに完成型などなく、二の手、三の手を考えておかなければならない。百貨店の他にパルコくらいしか持たないJフロントリテイリングに、はたしてそれが出来るかどうかである。

筆者にとっての銀座は小学生の時に初めて訪れ、大人になるにつれてだんだん好きになった街だ。松屋銀座地下のベーカリーは御用達だったし、伊東屋の会員は継続し、今年もイタリア製のダイアリーを注文した。福岡に住む現在も、年数回の出張では必ず訪れ、街の変化を見届けている。

GINZA SIXが開業すれば、ディオールの売場で接客を受けながら、窓越しにはユニクロのロゴマークと兵馬俑ばりのマネキンが見えるシーンも想起される。もはやともに消費されるのが目的のブランドで、銀座で買い物する感動は呼び起こさない。それが本当に理想的なことなのだろうか。老舗が集まる銀座だからこそ、収益よりもじっくり高品質なもの作りに向き合う。お客はそうした商品に出会えるからこそ、なんとなく行きたくなる街になる。そんな大人を裏切らない街、銀座であってほしいのだが。

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