Mitsuhiro Minami

AIに職を奪われない店長や販売員になるために必要なこと

南 充浩

繊維産業ブログ

フォローする:

 

大学卒業後すぐにイズミヤの子会社である安物の洋服販売チェーン店で働いた。
その時、商品の入れ替え時期やら新店舗オープンの手伝いやらという貴重な体験をさせてもらった。
今の知識でそれらができていればどれほど勉強になったかわからないが、当時はその作業の意味さえわからなかった。
わからなかったが、什器の配置やら商品の配置などの店作りの様子を見ていて、どうやってこれらを決めているのだろうと思ったが、その企業の場合は、店長やバイヤーやえらいさんが集まってああでもないこうでもないと言いながら、何時間も何度も並べ替えをして「まあ、こんなもんやろう」という感じで終わっていた。

おそらく、そこには確固とした理論やフォーマットはなく、店長やバイヤーやえらいさんの長年の経験と勘によるものだったと、横で見ていた当時の若造は思う。

その後、展示会の仕事をしたとき、産地展の手伝いをしたとき、BtoBが目的の展示会ブース作りでも同じだと思った。
展示会ブースは小売店ほど広くないことが多いが、あらかじめ施工業者から完成モデル図が作られる。
コンセントの位置やら什器の数やらそれはそれはミリ単位まで指示されている図である。

しかし、現場で並べて見ると意外に見にくかったり、便利が悪かったりするから、結局は現場で工夫して独自に修正するということになる。

コンビニやドラッグストアなんかの配置を見ていると、ほぼフォーマット化されていて、それにカセットをはめ込むだけである。
悪名高いワールドの「たこ焼き」もこれの延長線上に位置しているといえる。
こちらのシステムは、きわめて画一化したフォーマットが確立されており、あとはそこに商品をはめ込むだけとなり、店舗を平準化しやすい。どの店舗も差がないようにできる。

90年代後半から2005年まで隆盛を極めていたワールドを筆頭とする国内大手アパレルの百貨店内・ファッションビル内店舗はこの「たこ焼き」で平準化されたため、店作りが極めて効率的になった反面、極めて画一化してしまったともいえる。
これがアパレルの出店を容易にした功績があると同時に画一化した元凶でもある。

当方が就職した90年代前半のチェーン店は、そういう理論はあったのだろうが、社内にそういう理論を体得した人もいなかったことから、大勢でああでもないこうでもないと言いながら店作りをしていたのだろうと思う。

なんで店作りの話を延々としてきたかというと、先日遅ればせながら「安売り王一代 私のドン・キホーテ人生」(文春新書)を読んだからだ。
これは2015年発売の本で、ドン・キホーテ創業者の安田隆夫氏が著書だが、構成は月泉博氏となっているから相当に月泉氏が手直ししていると推察される。

かつての大手アパレルの店舗は90年代後半から極めて画一化し、それは店舗作りが素人である当方にだって見ればわかった。
それこそ、いくつかの店舗、いくつかのブランドを見比べればそこに何らかのフォーマットが介在していることは普通の頭脳を持っていればすぐにわかる。

以前から、ずっと気になっていたのだが、通常の小売店のフォーマットとかけ離れた「圧縮陳列」「密林陳列」のドン・キホーテの店作りには一体どんなフォーマットがあるのだろうかと。

少なくともこの本が書かれた2015年時点までは「そんなフォーマットは存在しない」ということがわかった。

この本はけっこうおもしろくて一読をお勧めするが、当初の「圧縮陳列」が生まれた背景には、狭い店舗で在庫ストックがなかったため、苦し紛れに商品を積み上げたとある。
こう書くと単なる偶然の産物かと思ってしまうが、そうなるまでには本によると相当に安田氏は苦しみ考え抜いた。
それが好評となり、長年かけて工夫を凝らして精度を高めていくうちに、現在の「圧縮陳列」が生まれた。

ここまでは、いろいろな分野で良くある話だ。
創業者が工夫を凝らして独自のフォーマットや商品を完成させる。
アパレルに限らずモノヅクリ系でも多い話だ。

しかし、問題はそれが他人には受け継がれずに企業や工場が成長できないということであり、そういうケースはこれまでいくつもあった。
開業当初、評価が高かったセレクトショップも多店舗化するうちに陳腐になり下がるというのは、現在の国内大手セレクトショップ各社を見てみれば一目でわかることだ。

じゃあ、結局、ドン・キホーテはどのようにして「圧縮陳列」のノウハウをスタッフ全員に伝えたかというと、安田氏はいくら口で説明しても資料を作ってもだれも体得できなかったと書いている。
要は権限委譲をし、その売り場を完全に任せることで創業当時の自身とほぼ同じ状況にスタッフ全員を置いて、独自に体得させたと書いてある。
たしかにあの雑然とした陳列はフォーマット化しにくいしマニュアル化もしにくい。
アパレルなら売る物は「ほぼ、服」と決まっているがドンキの場合は違う。今まで扱ったことのない商品も入荷することも珍しくない。そんなときにフォーマットやマニュアルは役に立たない。
ましてやいわく言い難い「圧縮陳列」なんて文書化できない。

2018年の現在はどのようにしてそれが伝授されているのかはわからないが、小売店舗というのは、フォーマット化・マニュアル化は必要だが、最終的な部分は極めて属人的だということである。

同じ接客マニュアルに沿っていても、売る販売員と売れない販売員が出てくるのもその一例といえる。

今後の小売店舗の課題は自動化・機械化できる部分とできない属人的な部分をいかにうまく組み合わせるかが課題だろう。
そしてその組み合わせの塩梅を決めるには、これまた機械や今流行りのAIではなく、極めて属人的な感性が必要ということになる。

そんなわけで、この「属人的な部分」をきっちりと認識し実行できている販売員や店長は、AIや自動販売機に職を奪われることはないだろう。逆に「たこ焼き」しか指導できないコンサルタントはAIに職を奪われることになるだろう。

最後にどうでも良い話だが、この本をAmazonのマーケットプレイスの古本屋で買ったところ、なんと2015年の初版だった。
しかも本には「寄贈 廃棄」のスタンプが押してある。恐らくどこかの図書館に初版が寄贈されてそれが廃棄され古本屋に流れたのだろう。(笑)

南 充浩

最新の関連記事

おすすめ記事

Realtime

現在の人気記事

    Ranking Top 10

    アクセスランキング