洋服や生地・原料の製造や輸出入に関わっている人ならとっくにご存知のことだが、今年に入ってウール、ダウン(羽毛)、カシミヤの原料価格が高騰している。
同じ繊維・衣料品業界でも販売員やインターネット通販関係の人は、この情報をご存知なかったり、知っていてもどういう影響がいつ頃顕現するのかわからないという人が多いのではないかと思う。
今回はそういう人たちに向けて影響をまとめてみたいと思う。そんなもんとっくに知っているという製造業・輸出入業の方は読み飛ばしていただきたい。
例えば、繊維ニュースにこんな記事が今年夏に掲載された。地味だが原材料系については繊維ニュースの報道は価値があるものが多い。
豪州羊毛相場/新年度は踊り場スタート/中国の"様子見"が影響
記録的な高値圏が続く豪州羊毛相場。市場関係者の間では2100豪セント突破も間近と見られていたが、羊毛新年度となる7月の第1週、第2週の東部市場価格(EMI)は2027豪セントから1981豪セントまで下げ踊り場を迎えた。相場に詳しい専門家はこの意外な動きの背景について「中国系バイヤーが様子見をしている影響」とし、「彼らの暴落体験から来る心理的な"相場の壁"が買いをとどまらせている」と分析する。
とある。ウールの原料価格は「記録的な高値」である。
下げて踊り場とあるが1981豪セントでも例年よりも高値なのである。
これと足並みをそろえてカシミヤの価格も高騰している。
先日お邪魔した、糸商社の丸安毛糸の2019秋冬展示会でも担当者は「ウールも値上がりが酷いですが、カシミヤも酷くてこのままの価格が続くならよほどの高級ブランドでないとカシミヤは扱えなくなります」と話していた。
またダウンの価格も高騰していて、カジュアルアパレルの展示会に行くと担当者はそろって「このままだとダウンジャケット類は相当値上げしなくてはならなくなります」という。
じゃあ、この結果、どうなるかというと、もう投入が始まっている今年秋冬物の値上げはない。
なぜなら今年秋冬に投入しているウール、カシミヤ、ダウン類は昨年までの原料を使っている場合が多いからだ。一部の低価格ブランドは、去年原料を使えなかったのか、含有量を減らしているところもあるがそれほど目立つほどのブランド数ではない。
ユニクロをはじめとして、ほぼ昨年並みの価格の商品がすでに店頭投入されている。
商品価格が上がるとすると、来年の秋冬で、遅いところは2020年秋冬からになる。
もっとも2019年になって材料価格が下落すれば2020年からの値上げは避けられるので、原材料価格がどうなるかはちょっと注目したいと思う。
原材料はある程度備蓄されている。今年採集したもので今年すぐに使うという場合はあまり多くない。しかし、その備蓄はだいたい1年、長くて2年で尽きる。
ユニクロのような世界的巨大ブランドになれば2年間分は手配できていると思われるが、それ以外の国内ブランドではそこまでのパワーがないから、来年秋冬商品は今年採集した原料を使うことになる。
だから来年秋冬から商品価格は上昇する。もしくは商品価格を抑えるために含有量を減らすかである。そのどちらかの選択肢しかない。
対象となる商品は、ウールセーター、カシミヤセーター、ウール地のジャケット・コート、ダウンジャケット、ダウンベストなどになる。
何が言いたいのかというと消費者としての立場でいうなら、これらの商品は今年秋冬に買ってしまう方が良いということである。来年秋冬物は値段が上がるか、値段は変わらないが素材クオリティが落ちるか、のどちらかだからだ。
2020年秋冬の商品価格がどうなるのかはわからないが、今のままの高値が来年も続くなら値上げか品質低下は確実である。ユニクロでさえ素材品質は低下するだろう。
原材料高騰というと2011年を思い出す。
ウール・カシミヤ・ダウンのみならず綿花相場も高騰した。史上最高値を付けたのは2011年のことだ。この結果どうなったかというと2012年後半くらいから各ブランドが綿の配合率を下げた商品を販売した。
綿100%のTシャツは生地が薄くなった、もしくはポリエステルが20~40%くらい混じるようになった。
ユニクロでさえ、Tシャツは生地が薄くなったし、スウェット(トレーナーね)はポリエステルが30%くらい配合されるようになった。2014年の終わりまでその傾向が続いたと記憶している。
結局、綿花相場も元に戻って2015年以降はユニクロのスウェットも元に戻ったのだが、ウールのセーター類、ジャケット類もTシャツやスウェットと同じで、ポリエステルやナイロンの混率が高まった。
ただ、ウールの価格も綿花同様に鎮静化して今に至っている。先に挙げた繊維ニュースの記事にはこう書いてある。
現在と似た相場の高騰は11年6月にもあった。当時の高騰の要因はリーマン・ショックから中国経済が回復してきたことによるウール製品市況の好転。上がり方も今と似ており、EMIは米ドル換算で11年6月15日に1528米セントと最高値に達し、「さらに上がるのではないかという状態だった」(前述の羊毛相場専門家)。ところが、そこから4カ月ほどで1109米セントまで一気に暴落した。
とのことで、この結果、2015年以降ウール製品はまた2010年以前の水準に戻って今に至っている。
繊維ニュースの記事も「2011年同様今後値下がりする可能性もある」と指摘するものの、中国人富裕層の消費動向よっては「さらに値上がりする可能性もある」と締めくくっている。
そんなわけで買い物客には、ウールのセーター、カシミヤのセーター、ダウンアウター類は来年2月の冬物売り切りまでに買うことと、来年秋冬商品には手を出さないことをお勧めしたい。
また、販売員やEC関連の人は、来年秋冬は相当売りにくくなるからその心づもりが必要になる。
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