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雑誌ペンのオリジナルドラマ「東京古着日和」がヒットした理由とは?

雑誌ペンのオリジナルドラマ「東京古着日和」がヒットした理由とは?

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【センケンコミュニティー】 雑誌『ペン』のオリジナルドラマ「東京古着日和」 ヒットした理由は? 近藤智之副編集長兼ディレクターに聞く

 昨年末からユーチューブで配信が始まった雑誌『ペン』のオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」がSNSを中心に話題だ。俳優の光石研さんが都内の古着屋を訪れ、買い物をするという内容だが、光石さんの古着に対する思い入れや何を買うかで揺れ動く心理がうまく表現されていて、見ているこちらも一緒に買い物しているような気分になれる。このドラマの発起人でありディレクターを務める近藤智之『ペン』副編集長に配信の経緯や狙い、ヒットした理由を聞いた。

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 ――配信のきっかけは。

 元々は19年春に古着の特集を掲載する予定で、それが頓挫してしまったのが始まりです。情報を伝える手段は多様化していますし、それならば雑誌がまだ力を入れ切れていないユーチューブというフォーマットに挑戦してみようと思いました。ペンのユーチューブチャンネルは約2年前から存在していたのですが、配信内容は雑誌の販促が中心で、再生回数が伸び悩んでいたんです。誰もまねができないコンテンツを作りたいと考えました。

7月1日発売の『ペン』では、このドラマと連動した古着特集として都内27の有力古着店を紹介

今の価値観に合う

 ――題材に古着を、主演に光石さんを選んだのは。

 古着というニッチなコンテンツがマスに広がっていくのではという期待感がありました。ペンではファッション特集の担当もしていますが、ここ数年でサステイナビリティー(持続可能性)やSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれるようになりました。個人的に古着が好きなのもありますが、古着は循環するものだし、時流に合っていると思いました。今の消費者の価値観は、一つの物を太く長く使うのがリアル。この価値観に古着がはまると思いました。加えて、ファッションの新しいスタイルを提案したかったのもあります。昨今は古着も新品もあまり関係がない。ベーシックな服に個性的な古着を合わせることで、各人の個性にあった着方ができますし、その人の特徴を演出してくれます。古着に焦点を当てることで、そんなスタイリングの幅を見せたかったのです。

 古着屋をドラマ仕立てで紹介するという手法は、某グルメ漫画原作のテレビドラマを参考にしています。コミカルでありながら、雑誌のように学べる要素も含んだコンテンツを、紙ではなく映像でやれたら面白いだろうと考えていました。

英国海軍のコットンブルゾンを試着する光石さん(第1話「アーチ・トウキョウ」)

 ただ、主演選びには頭を悩ませました。誰が良いのか決めきれないなか、19年春に放送されていた光石さん初の単独主演テレビドラマを目にし、私が描いていたキャラクター像に合致したんです。しかし、ペンとしては光石さんと全くご縁がなく、連絡を取る手立てがなかったのです。偶然が重なり、何とか事務所経由で企画書を読んでもらえることになったのですが、翌日には出演OKをいただけました。光石さんの起用が決まったことが、東京古着日和がうまくいった最大のポイントだと思っています。

 光石さんはファッションだけでなく、レコードや家具、車など本当に物がお好きな方で、東京古着日和で演じられている姿とほとんど変わりません。本当にハマり役です。

最近、買っていない人に

 ――ドラマを制作するうえでの心掛けや苦労は。

 古着というと、男性的で武骨な世界をイメージされるかもしれませんが、古着マニアの方々を主対象にしたわけではありません。50~60代の最近古着を買っていない人、10~20代の物にこだわりを持ち、大切にする大人に憧れを持つ若者たちを目掛けています。

 単純に古着屋を紹介する以外の面白さも大切にしています。ファッションに詳しい方や雑誌をよく読んでいる方からすれば、次回はあの店なんだとか、あの人が出演するんだと驚いてもらえるように意識しています。ドラマ内で光石さんが何を購入するか決断する前に、一度店を出て、喫茶店や書店で時間を過ごしながら悩むシーンがあるのですが、そこでは古着屋のある街の歩き方を描きたいと考えました。

 我々は編集こそ得意ですが、映像に関しては全くの素人でした。このドラマはペンの編集部と外部の力を借りて、7、8人の少数精鋭のチームで制作しています。雑誌作りとはまったく勝手が違うので、戸惑うことも多いですが、スタッフ一同が良い物を作ろう、ユーチューブで日本で一番の古着配信コンテンツになろうという気概や目標を持っています。

心の声とともに店内を物色するコミカルな演技がチャーミング(第4話「ウィークエンド」)

中心から外れた店を

 ――ドラマで取り上げる古着屋選びの基準は。

 私自身が古着屋を巡るのが好きで、光石さんが訪れる店は、すべて私が足を運び、接客を受け、商品を購入したことがあるところに決めています。加えて、ドラマの裏テーマとして、〝東京のはぐれ方〟を意識しています。僻地(へきち)に名店ありというか、東京の中心から外れた立地にある店を選ぶようにしていますね。

 ファーストシーズンと言いますか、ひとまず年内までに全6回の配信と決めています。マニアの人だけでなく、ハイエンドなファッションが好きな人、古着に興味がなかった人など、より多くの人に古着のエンターテインメント性を伝えられえるように、毎回店のテイストは変えるようにしています。出演していただく店主の方々の個性が似ないようにというのも注意しています。見る人によって、今回は好みじゃないなという回があっても良いと思っています。そのなかで、好みの古着屋を見つけてもらえたら幸いです。

 ――手応えや成果は。

 ペンのユーチューブチャンネルの登録者数は9月末時点で約4万3000~4万4000。東京古着日和の配信を始めてから約4万増えました。単純計算で1話につき1万増加していることになります。今までお付き合いのなかった企業にペンに興味を持っていただけたり、協業の声かけをいただけたりするようにもなりました。

 コンテンツを作る上でマネタナイズは大事ですが、そこだけに走るのはダメだと思っています。やはり重要なのは熱狂的なファンをどれだけ作れるか。目先の数字にとらわれていてはブランディングが伴いませんし、ペンが面白いことをやっているというイメージは持ってもらえません。

 ペン自体もウェブやオンラインに強かったわけではなく、オンラインの看板企画が一つもありませんでした。東京古着日和は、それを作る前提で始めたということもあります。もうすぐ初回配信から1年が経ちますが、ドラマの製作費を賄えるだけの収益は確保できるようになっています。

買い物を仮想体験

 ――話題になった要因は。

 まずは光石さんの好感度力だと思います。コメントを見ていてもそうなんですが、老若男女問わずこれだけ好かれている方は珍しいと思います。雑誌はうんちくを語ってしまい、どこか上から目線になってしまうのですが、光石さんの人柄もあって、視聴者にそう感じさせないところがすてきです。

 あとは今までのユーチューブの古着コンテンツにはなかった高いクオリティーでしょうか。売り場のどこに何が置いてあるのかを伝える店内マップなど、雑誌を読んでいる感覚で映像を見られるという新しい体験を提供できているんではないでしょうか。

 新型コロナウイルスの影響も大きいと思います。外へ買い物に行きにくい状況のなか、仮想体験ができると言いますか。外出の時間の貴重さや店主と会話を交わすことの楽しさ、財布と相談しながら何を買うか悩むなど、服を買う際の本質的な部分を消費者目線で描けたので、消費者も入り込みやすかったのだと思います。緊急事態宣言解除後に番組で紹介した店に足を運んでくださった方々は非常に多いと聞いています。

 ――今後の計画は。

 5回目の配信では、古着のジーンズとのコーディネートということで、光石さんが愛好しているファッションブランドと協業します。古着日和の看板はそのままにしますが、今後は新品の店まで幅を広げるのもありだと考えています。オリジナル商品の製作なども良いですね。

 ユーチューブのコメントは一つひとつに目を通していますが、「○○に来て欲しい」という声もいただいてますので、地方編や海外編も良いなと考えています。21年以降は、ファンの方々とともにコンテンツをパワーアップさせていきたいと思っています。地方活性化というとおこがましいですが、ドラマ仕立てで街を紹介することで地方に人が訪れるきっかけを作れたらうれしいなとも思っています。地場のファッション小売店やアパレルメーカーと協業していけたらうれしいですね。

■見どころは?
 俳優・光石研さんが主役を務める19年12月に配信を開始したオリジナルドラマ。中年のオジサンが古着屋巡りを通して出会う新たな発見にトキメキながら、少年のような心で休日を楽しむ姿や商品を眺めながらこぼれる心の声、個性的な古着屋の店主と光石さんの絡みなどが見どころ。

■『ペン』
 CCCメディアハウスが発行する男性向けカルチャー・ライフスタイル誌。98年創刊。毎月1、15日発行。ファッションだけでなく、アートやデザイン、映画、音楽など様々なカルチャーを対象とする。購読者層は30~50歳の首都圏在住の未婚男性が中心。1冊当たりの平均販売部数は約7万部。

こんどう・ともゆき 82年、三重県生まれ。大学進学を機に上京し、高円寺の古着屋でアルバイト。編集プロダクション、日之出出版『サファリ』を経て、14年4月にCCCメディアハウスに入社。ファッションや時計を中心にカルチャー全般を担当。20年4月から第一編集局ペン編集部副編集長に就任。趣味は休日の古着巡り。

(繊研新聞本紙20年10月14日付)

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