人間は服と共に生きている。先史から現代までの人間の活動を総合すると、「人間は衣服を着る動物だ」とも言えるかもしれない。
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科学技術が発達した現代もそれは同じ。そして、人間の可能性を拡大する様々な機能を搭載したウェアラブルデバイスやスマートテキスタイルも、今や身近な存在になってきている。
一方、「衣服は人間によって着られるものだ」という前提は揺らいでいる。今やペットにも家族や仲間としての親しみを込めて、服を着せることも一般化してきたからだ。それなら、私たち人間と同じように、彼らの体調を管理できる動物用の服があってもいいかもしれない。今回はそんな便利を実現する、動物にも使用可能なスマートテキスタイルをご紹介したい。
東洋紡株式会社が開発した「COCOMI®」を使用した牛用スマートテキスタイルは、牛の体調を効率的に管理し、畜産業従事者の方々の負担も減らすことが期待できる。
「COCOMI®」とは何なのか?動物用に開発する利点は何なのか?そんな疑問に答えてくれたのが、東洋紡株式会社の生活・環境生産技術部、表雄一郞さんだ。
スマート衣料向けフィルム状導電素材「COCOMI®」とは?
「COCOMI®」は、心拍数・呼吸・筋肉活動量の計測が可能なフィルム状導電素材だ。薄く伸縮性を持ち、体の動きに追従し、電極と配線の継ぎ目をなくして一体化させることが可能。さらに、電気抵抗値が低いため、より精度の高い生体情報の収集も実現可能になる。
着るだけ、つけるだけで、生体情報のデータ活用ができる「COCOMI®」は、Tシャツやインナー感覚で扱える手軽さが強みだ。肌に触れても異物感の少ない肌触りで、衣服を着たままでも無線でデータの転送が可能。タブレット端末などで数値の確認ができる。
その活用フィールドは、作業現場や介護の見守り、アスリート支援に加え、妊婦さんの健康管理や運転中の眠気探知など、日常の生活まで幅広い。
動物用スマート衣料開発の変遷
人間の生活を豊かにすることを助けてくれる「COCOMI®」のスマート衣料展開だが、動物への使用が始まったのは2016年にさかのぼる。はじめにその対象となったのが競走馬だ。
2016年7月、競走馬の心拍数測定用腹帯カバーとして株式会社Anicallが展開する、競走馬専用心拍・速度・加速度測定システム「Horsecall™」に「COCOMI®」が採用された。腹帯カバーに「COCOMI®」を使い、電気抵抗値が低く伸縮性に優れた配線を形成することで、全力疾走中の競走馬(最大時速70キロメートル)の心拍が安定して計測できるようになったという。
当時、馬用のウェアラブルデバイスはすでに市販されていたが、全力疾走する競走馬の心拍を安定して計測できるものではなかった。そこに、伸縮性があり競走馬の激しい動きに対応できる「COCOMI®」が採用され、「Horsecall™」が開発されたそうだ。
このような動物に対する心拍測定の実績をもとに、今回牛の心拍測定用ベルトの開発に至ったという。
動物用・畜産用スマート衣料の研究開発
競走馬、牛、共に比較的大型の動物だが、人間用の製品開発とはどのような部分が違うのだろうか。
表さんによると、動物の場合、人間と違い体毛が多くあり、発汗の状態が違うなどの特徴があるという。また、体型も大きく違うため、行動時(歩行など)の体の各場所の動きも違ってくる。そのため、各動物の体型、動きにあわせた衣服(装着具)が必要であり、電極位置、電極の密着方法も体毛や発汗の状態により変わってくるそうだ。
心拍計測に関しては、大学や動物病院等などの獣医師が関わる分野では一部行われているものの、行動時の連続的な心拍測定については、あまり先行例はないという。研究開発においても、これらからの分野となるとのこと。
現在、畜産の現場でも、市場でのIT化による疾患の予防や分娩のサポートなどが期待されているそうで、「COCOMI®」の心拍計測により、より早く、より正確にそれらのサービスが提供できるようになる事を期待している、と表さんは話してくれた。
動物と共に、そして寄り添うために
「COCOMI®」はその可塑性から、人間のみではなく、人間とは違った運動をする動物の活動に寄り添うことのできる、まだまだ発展していく大きな可能性を秘めたスマートテキスタイルだ。
今回取材した牛用ベルト型スマートテキスタイルも、牛の健康管理に役立つため、牛自身、そして畜産従事者の方々にも優しく、利便性が高いものだった。
もう少し私たちの身近な動物で考えてみて、ペット向け商品というのはどうだろうか?表さんは「心拍等の生体情報の計測技術が、動物とのコミュニケーションの手段の一つとして応用できるようになれば、ペット向け商品へのサービス展開も可能性が、と期待をしています」と話してくれた。
はじめに人間は服と共に生きていると書いた。しかしながら、ペットなどの愛玩動物も私たちの生活と共に生き、私たちに寄り添ってきてくれた歴史は長い。このような技術でもっと彼らを知りながら、共に生きていける未来が待ち遠しく思う。
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