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在庫削減から粗利最大化へ FULL KAITENがAIで描くサプライチェーンの未来

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アパレル業界の構造的な課題である在庫問題に対して、独自のAIソリューションで挑むフルカイテン株式会社。3年前に取材したとき、同社は在庫分析システム「FULL KAITEN」単独で、企業の在庫削減を支援していた。しかし現在、その姿は大きく変貌を遂げている。個社が抱える課題解決から、サプライチェーン全体の最適化へ。フルカイテン株式会社でCPOを務める田中大介さんへの取材から、同社のコンセプトがいかに発展し、それを具現化するマルチプロダクト戦略とはどういうものなのか、そしてAI活用の最前線を紐解いていく。

PROFILE|プロフィール

田中 大介(たなか だいすけ)

新卒でアクセンチュア株式会社に入社。大手アパレル企業を中心にMD、DB、店舗運営の領域にてさまざまな業務改革/DX推進プロジェクトに従事。その後、ロクシタンジャポン株式会社にて店舗運営統括責任者、株式会社カインズにて経営戦略室マネージャーを経て、小売業の在庫を利益に変える分析システム「FULL KAITEN」を開発・提供するフルカイテン株式会社にジョイン。幅広い業界知識とプロジェクト経験を生かして、多くの顧客を支援。カスタマーサクセス責任者、プロダクト戦略部部長を経て、2024年10月より執行役員としてプロダクトの責任者に就任。2025年3月、取締役CPOに就任。Xアカウント:https://x.com/dtanakax

在庫削減から、売上・粗利最大化への転換

「FULL KAITEN」の原点は、創業者である瀬川直寛CEOが過去に営んでいたBtoC事業で、在庫が原因の倒産危機に3度直面したという強烈な実体験にあった。その際、在庫の一つひとつを数値化し、「在庫を科学する」という独自の手法で危機を乗り越えた経験が、これまでの事業の礎となっていた。

FULL KAITEN事業の開始当初、同社は「在庫削減」を主なテーマに掲げていた。しかし、在庫を減らすだけでは事業は縮小均衡に陥り、成長は望めない。売上を伸ばすには在庫を増やす必要があり、そうすれば売れ残りのリスクが高まる。この小売業が抱えるトレードオフに対し、田中さんはコンセプト転換の背景を次のように語った。

「在庫削減という対応だけでは、我慢の期間が続くだけです。それでは株主も従業員も納得しません。2023年頃から、在庫のポテンシャルを最大限に引き出しながら、売上と粗利益を最大化するという商売の在り方が強く求められるようになっていきました」

コロナ禍を経て、多くの企業が仕入れを抑制し、手持ちの在庫でいかにして売上と利益を最大化するかに注力し始めた。この市場の変化を捉え、「FULL KAITEN」は単なる在庫削減ツールから、企業の成長を能動的に支援する「売上・粗利最大化」ソリューションへと舵を切った。

在庫問題をITで解決し、粗利の最大化を目指す

マルチプロダクト化の全貌

そこで生まれたもっとも大きなアップデートが「マルチプロダクト化」である。アパレルビジネスのバリューチェーンは、企画、生産、初回配分、店間移動、販促、売価変更、そして最終的な評価減や廃棄に至るまで、複数の段階を経て構成される。そして、その各段階に粗利を毀損するリスクが潜んでいる。

「以前は在庫に対して1つのプロダクトでアプローチしていましたが、オペレーションの各段階で発生する粗利益の毀損ポイントそれぞれに、適切なアクションを促すプロダクトが必要だと考えました」と田中さんは語る。

この思想のもと、2023年から本格的に展開したのが、各オペレーションに特化したプロダクト群だ。田中さんは、その中核機能について解説する。

「たとえば『倉庫出荷』は、店舗ごとの日別・SKU別の販売予測に基づき、未来の需要を見越して在庫を最適配分します。単に売れた分を補充するのではなく、販売機会の損失を防ぐのが特徴です。

また『店間移動』は、ある店舗では余剰だが別の店舗では不足している、という在庫の偏在をAIが自動で検知し、店舗間の最適な在庫移動を指示します」

ブランド全体ではなく、店舗ごとに細分化され、それぞれの特徴を浮かび上がらせる

さらに、シーズン終盤の売上を最大化する「売価変更」機能もある。これは、設定した期日までに商品を売り切るために必要な値引き率を、SKUごとに算出された価格弾力性を基にシミュレーションし、推奨するものだ。粗利の毀損を最小限に抑えながら、消化率を高めることを目的としている。これらアクション系のプロダクト群が、粗利を守るための具体的な打ち手となっている。

全体を俯瞰し課題を特定する在庫ドックの役割

一連のプロダクト群の中で、少し毛色の違う役割を担うのが「在庫ドック」だ。これは特定のアクションを実行するツールではなく、組織全体の在庫状況を診断し、課題を可視化するための分析プロダクトである。

田中さんはこの在庫ドックを「アクションの起点となる司令塔」と位置づける。「全社、事業部、店舗、エリアといったさまざまなスケールで、現在の在庫が持つ売上ポテンシャルや在庫リスクをAIが分析・可視化します。これにより、どこに課題があり、次にどのようなアクションを取るべきかが明確になります」

在庫が持つポテンシャルを最大限に引き出す「在庫ドック」

この「在庫ドック」が原因を特定し、その情報に基づいて「倉庫出荷」や「店間移動」といったアクション系プロダクトが具体的な対処を提案する。この連携により、企業はデータに基づいた網羅的かつ効率的な在庫コントロールが可能になる。

AIが店舗スタッフを導くストアエージェント

そして2026年4月、フルカイテンは新たなプロダクト「ストアエージェント」をリリースした。これは、多忙な店舗スタッフの業務を支援するために開発された店舗特化型のSaaSだという。

「店舗スタッフがその日の売上を向上させるために何をすべきか。そのアクションを、AIがタブレット上に分かりやすく指示してくれるエージェントのようなサービスです」

一人ひとりの日々のデータを読み込むため、正確な指示が可能

店長やスタッフは出勤後にログインするだけで、「今日注力すべき商品」や「全店・エリア・近隣他店舗での売れ筋商品」といった、売上に直結する情報を即座に把握できる。複雑なデータ分析は不要で、AIの推奨に従うだけで効果的なアクションが実行できるため、スタッフは接客やVMDの改善といった本来の業務に集中できる。

すでに導入を決めた企業からは大きな反響があり、ある企業では約150店舗への展開が予定されているという。現場の負担を軽減しつつ、店舗単位での売上・粗利向上を実現し得る、同社のAI活用の現在地を示す象徴的なプロダクトだろう。

伴走型支援で顧客の業務フローをアップデート

高機能なシステムを導入しても、それが現場の業務に定着しなければ成果は生まれない。「FULL KAITEN」が特に重視しているのが、この導入後のプロセスだ。

「システムを渡して『どうぞ使ってください』では絶対に定着しません。お客様の既存業務をどう切り替え、新しいフローをどう構築するか。膝を突き合わせて一緒に業務フローを刷新していく、ハイタッチな支援が不可欠です」

導入決定からデータ連携に2、3ヶ月、そこから実際の業務フローを構築し、効果を測定するのにさらに数ヶ月を要する。業務プロセスと成果が形になるまでには半年から1年という期間を見込むが、その過程では、長年の経験や勘を頼りにしてきた担当者からの反発も起こり得る。

その壁を乗り越える鍵は「定量成果で示す」ことだという。「AIの推奨通りにアクションした担当者と、自身の感覚に近い形で調整を加えた担当者とでは、成果に明確な差が生まれる。この事実を客観的なデータとして示すことで、AI活用の有効性に納得してもらうというわけだ。

「そうした事例を積み重ね、導入初期の段階から『システムが成果を出すのではなく、自分たちがシステムを使って成果を出す』というマインドセットを共有することが重要です」と田中さんは語ってくれた。

業界全体の在庫適正化に向けたデータ基盤の野望

「FULL KAITEN」は今後、サプライチェーンをさらに上流へとさかのぼり、生産計画の領域にまでソリューションを拡充していく計画だ。しかし、田中さんが語る真の狙いは、その先にある。

「我々のもっとも価値ある資産は、複数社の販売・在庫データを綺麗なフォーマットに整備した状態で格納している『データベース』そのものです。このデータベースが進化することで、個社の課題解決を超えた価値を提供できると考えています」

このデータベースを基盤とすることで、自社の販売トレンドや在庫回転率が業界内でどのような水準にあるのか、客観的な比較が可能になる。これまで自社内のデータしか見ることができなかった企業にとって、自らの現在地を知ることは、次なる戦略を立てる上で極めて重要な意味を持つはずだ。

そして、この構想が業界全体に広がったとき、「FULL KAITEN」が目指す世界観が見えてくる。

「業界全体のデータベースが構築できれば、業界としての需要予測が回せるため、メーカーの生産量最適化に貢献できますし、今ある在庫についても、企業間で在庫を融通し合う、いわば『業界内での店間移動』が実現できるかもしれません。企業の垣根を越えて、企業ごとの余剰・不足の状況を把握し、生産調整・在庫配置ができれば、業界全体としての在庫が最適化され、構造的な課題である大量廃棄問題の解決に大きく貢献できるはずです」

個社の利益最大化にとどまらず、業界全体の在庫最適化へ。「FULL KAITEN」が描くビジョンは、アパレルのサプライチェーンそのものを変える可能性を秘めている。

最終更新日:

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