アパレル産業にはDX化の波がやってきている。
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以前当メディアでも紹介したように、それはコロナ禍の影響によって加速し始め、加えてかねてからアパレル産業が頭を悩ませてきた環境負荷、労働問題に対処する方法の一つとして今後も発展していくだろう。
昨年12月、株式会社FMB(ファッションメタデータバンク)は、高精緻なファッション3D モデリングを中心としたアパレル業界向けテクノロジーサービスを提供するために設立された。FMBは、既存の「川上から川下」と言われるファッション産業構造から、3DCGを中心とした情報統合生産による産業への変革を促進し、新しいサプライチェーンモデルを構築する「ファッション製造・流通の再創造」の実現を目指している。
今回は株式会社FMB代表取締役CEO市川雄司さんに、FMBが目指すアパレル産業の変革、そして「人」を中心にしたネットワークで実現している3Dモデリングを用いたファッションビジネスの内容について伺うべくインタビューを行った。
3Dモデリングによるファッション革命
アパレル産業には構造的な課題が多数あるが、特に環境負荷が大きく増大していて世界的な衣服需要に耐えられなくなっている。その中でも大きな課題が大量の「見込み生産」と呼ばれるもので、第4次産業革命と言われるデジタル・ロボット技術による変革をさらに根本的に見直すために3Dモデリングのデジタル技術を活用していくべきだと市川さんは語る。
「3Dモデリングによる『コンピュータ統合生産・流通』は、何度も繰り返されるサンプル制作のロスを軽減するだけでなく、3DCGによる先行受注を可能にし量産前のテストマーケティングを生産数量に反映できる可能性をもっており(先行受注など)、見込み生産による在庫ロスを軽減させ、前述のような積み重なった課題の根本解決策になると考えています。」
3Dモデリングを中心に据えることで、情報が共有・公開される情報統合生産が可能になる。それによって、機会ロス・在庫ロスの軽減につながり、情報格差のない新たな産業構造を創出することができるのだ。
この3Dモデリングを中心としたシステムの構築背景も独自のネットワークにより実現している。FMBの親会社である株式会社TFLが運営する日本初のファッションテックスクール「Tokyo Fashion technology Lab(TFL)」の卒業生・受講生が運営する研究会の一つ「バーチャルファッション研究会」では、精緻なファション3DCGを制作するノウハウ研究と、3Dモデリング技術の産業活用を産学共同で研究してきたそうだ。
そこに産業側の協力企業の1社として株式会社ヤギが加わった。
「TFLが3Dモデリングのノウハウと人材(3Dモデリスト)、バーチャルな企画力を提供して、ヤギの持つ産業ネットワークと情報、ファイナンス力、フィジカルな生産力を産業変革のために集結したことが協業の目的です。協業に至った両者の想いは『オープンイノベーション』であり、産業革命を牽引する新しいノウハウである3Dモデリング技術を、産業全体のために広く提供、活用していくことです。この想いがひとつになり共同創業に至りました。」
2020年11月の創業から2ヶ月時点でのメンバー(役員含む)の平均年齢は49.5歳と、経験豊富で多様な専門領域のトップランナーが集まっており、教育業界、ファッション業界(経営、パタンナー、デザイナー)、IT業界、CG業界など多様なメンバーが3Dモデリストとして構成されているという。
高い専門知識に支えられる「FMBメソッド」
3Dモデリングによる産業構造の変革を目指すFMBを支える3DCGメソッドが「FMBメソッド」であり、上述の「バーチャルファッション研究会」によって研究が続けられている。「バーチャルファッション研究会」のメンバーは、ファッションデザイナー、パタンナーを中心にグラフィックデザイナー、CGクリエイター、エンジニアなど多様な業界経験者がTFLの専門授業を受けたのちに参画しているそうだ。
その背景には、島精機製作所の「APEX」や韓国で創業された「CLO」、シンガポールBrowzwear社の「Vstitcher」などの3Dモデリングソフトだけではリアルで精緻な3DCG表現ができず、これ以外のソフトを併用した3DCG制作が必要だったことがあるという。
「高度なオペレーション技術とパターンと縫製専門知識にあわせてCG領域、映像領域、糸や織物、編物の高い専門知識が必要です。『バーチャルファッション研究会』では、このような複数ソフトの連携や、高度なオペレーション技術の研究を続けてきました。」
「また、これらソフトや技術のノウハウだけでなく、お互いに連携させることもメソッドです。また、これらのソフトや技術は日進月歩で進化しアップデートします。このアップデートに対応するために教育や研究会と連携することもメソッドの一部の機能になります。」
前述のように精緻な3DCG制作には、多様な技術者とソフトの活用が必要になる。そのため、3Dモデリングを社内で内製化しようとするアパレル企業や商社、OEM、ODM企業などにおいて、それがなかなかできないという状況があるそうだ。FMBでは内製化を進める企業とも連携して、企業で制作した3DCGのクオリティーをアップする作業の請負も実施している。
「バーチャルファクトリー」の実現に向けて
FMBの立ち位置を表現する言葉は「バーチャルファクトリー」だと市川さんは語る。
「縫製工場には『サンプル工場』と『量産工場』がありますが、我々が目指す『バーチャルファクトリー』は『量産工場』です。高度な技術者が、それぞれの専門領域の能力を発揮するためにチームを組んでラインを作り、効率的な3DCG制作を行います。これにより、精緻な3DCGを安く提供することが可能になります。」
そして、この「バーチャルファクトリー」には多くの人材が必要になる。日進月歩で進化するソフトのアップデートに対応するのは「人」であり、人に対する教育との連携も必要になるという。
「人」を中心にしたファッションのDX化
グループ企業のTFLでは2校のファッション専門学校との教育連携が実現し、高校卒業生から3Dモデリストの育成が始まった。提携の専門学校内に「バーチャルファッション研究会」を運営して、FMBから専門学校生への3Dモデリングの業務依頼も始まるという。
「FMBを有するTFLグループは『ファッション革命』というビジョンを掲げ、ファッション産業の変革だけでなく、ファッション業界を目指す若者にも場所を選ばずリモートで新しい働き方ができる職能を育成することも産業変革の重要な要素として位置付けてファッション教育の変革も推し進めていきます。」
3社目のグループ企業の一般社団法人ファッションデザインエンジニアリング協会では、3Dモデリストの資格検定制度を実施して、新しい職種である「3Dモデリスト」の価値向上と産業での人材活用を進めるとともに、TFLの教育ノウハウを本として広く公開をし、人材育成の底上げを実施していくそうだ。
また、TFLのもう一つの研究会「AI研究会」の成果である「AIによるファッション感性の数値評価」を3Dモデリングと連携したサービス開発でさらなる産業の効率化に貢献していきたいと市川さんは語ってくれた。
「FMBではさらなる3Dモデリングの活用を念頭にデータストックを進めていきます。また、精緻な3DCG制作に欠かせないテクスチャリングを効率化するための物性データの自動取得化を進めていきます。」
今回の取材を通して、アパレル産業を支える「人」を育成するというFMBの強い志が感じられた。ファッションは「人」のためにあり、「人」を通じて世の中に広まっていく。FMBの人材教育まで視野に入れたアパレル産業の構造変革の構想は合理的であり、また持続可能なもののように思われる。デジタルネイティブな新しい世代の活躍にも期待していきたい。
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