商業施設で、AR(拡張現実)などデジタル技術を活用して館の利便性を高めたり、来店動機につなげたりする動きが広がっている。コロナ禍による外出自粛でリアル店の存在意義や価値が改めて問われる中、いかに館に来てもらうか、新たな体験価値の創出を狙った動きだ。デジタル技術を使うことでより非接触での安心・安全な館づくりも目指している。(海藤新大)
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玉川高島屋SCはこのほど、モバイル通信機器のレンタルなどをしているテレコムスクエアが提供するARナビゲーションアプリ「PinnAR」(ピナー)を活用した館内案内を導入した。ピナーによる館内案内のSCへの導入は全国でも初めて。まずは百貨店ゾーンを含む本館と南館で使えるようにした。
ピナーの大きな特徴は、館内での細かい位置測定と階数の変化に対応している点だ。屋内での位置測定は非常に精度が求められ、技術的に難しかった。しかし、GPS(全地球測位システム)やビーコンなど様々な技術を組み合わせ「最大でも誤差3メートル以内を実現できた」(西村和也テレコムスクエアデジタルメディア事業部門統括マネージャー)ことで、本格的な案内を可能とした。また、「階数の変化にもリアルタイムに対応し、道案内できる技術を実用化したのは他にはない」という。
より直感的に目的地へ
従来のような平面マップでの利用もできるが、より視認性に優れたARマップモードも搭載。スマートフォンのカメラを目の前にかざすことで行きたい場所への最短ルートが矢印で表示され、より直感的に目的地へと移動することができる。各ショップのほかインフォメーションやATM、授乳室、トイレ、ロッカーなど様々な場所へ道案内ができる。
ほかにもショップの紹介動画やクーポン情報などもアプリを介して見ることができ、玉川高島屋SCとしては様々な販促施策にも今後生かしていく狙いだ。詳細な位置測定ができるため、どのような場所で迷うことが多いか、どんな買い回りをしているかなど、これまで見えなかった館内のニーズを情報として可視化することができる。そのため、よりその人のニーズにあったパーソナル化された情報発信や接客にも生かすことができる。
玉川高島屋SCは自社アプリでも簡易的な案内サービスを導入しており、館内に既に600ものビーコンが設置してあったため、ピナーの導入はスムーズだった。館内が多少複雑な構造のため、かねてより店の場所を聞かれることが多いなどの課題があった。「初めて来店するお客様にも分かりやすいような利便性の向上、従業員との接触機会を減らす感染症対策を実現したかった」(中澤英昭東神開発営業本部営業企画部営業推進グループ担当部長)ことが今回の導入の背景だ。
「すぐに何か業績につながるようなものではないが、リアル店の価値が問われる中、来店前から接点をもって館内ではストレスなく快適に過ごしてもらうことは重要で、できるところからデジタル技術を駆使し、改善を進めている」と中澤さん。今後も西館やマロニエコートなどにも拡大していき、周辺エリアとの連動も進めながら町全体での価値向上を目指していく。
ARとVRで同時に体験
森ビルも、施設での様々なデジタル活用を模索している。同社が管理・運営するヴィーナスフォートでNTTドコモと協業し、XR(仮想現実、拡張現実などの総称)技術を駆使した新たな体験の実証実験を7月18日まで実施した。
施設内にARで様々な情報を表示する取り組みで、タブレットのカメラをかざすことで、トイレの使用状況や道案内、館内の混雑状況の確認などができる。また広告も表示でき、バーチャルで表示することで客の興味関心に合わせた広告アプローチを実現できる。ほかにも、ビーコンデバイスをもった子供の位置確認もでき、館内での迷子を防ぐような取り組みにもつなげたい考えだ。
さらに、館内を高精度センサーで読み取り、VR(仮想現実)空間にリアルなヴィーナスフォートを再現し、VR空間でも現実と変わらない買い物体験ができるような取り組みも進めている。また館内を使ったゲームコンテンツも実験。ARとVRを連動させ、館内を移動しながら様々なミッションをクリアしていく。現実世界でもVRから参加している人がARを通してリアルタイムで確認することができ、VR空間にいる人と協力プレーをしながらゲームをクリアすることができる。
森ビルは「ヒルズアプリ」なども提供しており、デジタル技術を活用しながら街の価値や利便性の向上を進めている。今回の取り組みも今後、「商業施設内だけでなく、虎ノ門エリアや六本木エリアなど町全体での生活や買い物に新たな体験価値を生み出す」(杉山央森ビルタウンマネジメント事業部新領域企画部課長)ことにつなげていく考えだ。
来店動機高め利便性向上を
アマゾンの台頭など、コロナ禍によってECサイトは急速に拡大している。スマートフォンなどのデバイスも、もはや体の一部といえるほどに日常の中に溶け込み、消費者からすればECとリアル店での購買行動の垣根はなくなってきている。そうした中で、リアル店の存在意義や役割も従来とは大きく異なっていくだろう。
ショールーミングとしての役割を強める店もあれば、体験にフォーカスして、よりリアルでしか味わえないサービスを強める店もある。商業施設は来館してもらわなけば始まらない。デジタル技術も駆使しながら、いかに新たな来店動機やデジタルと差異のない利便性を生み出していけるかが求められている。
(繊研新聞本紙21年7月30日付)
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