Mitsuhiro Minami

アパレル業界「AIによる需要予測で在庫削減」ブームは消え去った?

南 充浩

繊維業界記者・ライター兼広報アドバイザー

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新型コロナ禍とサステナブル関連で最近すっかり消えてしまったのが「AI(人工知能)による需要予測で在庫削減」というフレーズである。

2019年末を最後に消え去ったように感じる。

需要予測を謳って三陽商会などに入り込んだベンチャー企業も今では異なるAIサービスを展開しており、そういう嗅覚だけは鋭いのだと感心させられてしまう。

コロナ禍による商況の激変は大きな要因の一つだとは思うが、それを差し引いても、ことアパレルに限って言えば「AIによる需要予測」はあまり役にも立たなかったのだろうと思う。

もし何らかの効果があるなら、「コロナ禍での需要予測」も可能だっただろうし、その効果は業界内で伝わってきたはずだが、2021年10月現在それはない。

このブログでは以前から「AIによる需要予測はアパレルにはあまり効果がない」と書いてきたが、その通りの結果になったといえるのではないだろうか。

ではなぜ効果がないと思ったのか、以前からの繰り返しになるがその理由を再度まとめてみたいと思う。

もし、何らかの役に立つと思われたのなら、今後の研究や開発の参考にしてもらえると幸いである。

1、洋服は衝動買いが多いのではないか

肌着や靴下、パジャマ、作業着などと言った必需品に比べるとアウター用途の衣料は嗜好品としての要素が強い。そして「フラっと店に入ったら何となく目について買ってしまった」とか「目的の物を買いに行って店に入ったらほかの商品を買っていた」とかそういう比率は結構高いと感じる。

もちろん、根拠は自分である。「代打オレ」ならぬ「根拠オレ」であるので、参考にならないと思ったら飛ばしてほしい。

自分はそういう買い方をする場合が結構ある。

例えば、ユニクロでも何となく値引きワゴンを漁っていたら、今まで買う気もなかったが、良いように見えてしまって買ってしまったなんてことが結構ある。

ジーユーでもライトオンでも。

ということは、この需要は過去の買い物データの蓄積では予測できにくいということになる。

また、知人でも「今日は〇〇(ブランド名)のアレを買おう」と思って出かけたら「違うブランドのコレを買ってしまった」なんてことは結構ある。

ということはこの衝動の変化も過去の買い物データの蓄積では予測できにくいということになる。

また、ほんの数日前にテレビや雑誌、インスタグラムで見かけたアイテムが突然欲しくなることもあるし、数日前に会った知人が着用していたから急に欲しくなるということも珍しくない。

この手の衝動買いが洋服に関していえば、どれくらいの確率なのか自分の手元にデータはないが、以前読んだブログだと「8割くらい」と指摘していたが、それが事実に近いとすると8割前後の需要は予測できないということになる。

2、決め打ちの場合は代替品は買わない

これは人にもよるし、商品にもよると思うのだが、強く「〇〇ブランドのアレが欲しい」と思っている場合、そのブランドのアレ以外は買わないということも多い。

オンリーショップやブランドの直営店だとそういう客を拾いやすいが、品揃え型の店だと、様々なブランドを置いているうちの一つなので、これを需要予測したところで、展開数量を大幅に増やすことは不可能であるケースが多い。(そんな急に品揃えは大幅変更できないという企業が多いし、供給量の関係もある。急には増やせない)

となると、この需要を予測できたところで、品揃え型にはあまり効果がない。

逆に売り切れてしまって、他のブランドを勧めても購買には至りにくい。

ナイキのアレが欲しいのに、品切れになっていたからといって、代わりにアディダスのコレを買う人はまずいない。

3、トレンドによる需要予測でそれを揃えても全ブランドが売れるわけではない

季節ごとにせよ、何年間かにせよ、確実にファッショントレンドというものはあって、それに沿った商品を提案する必要はある。(もちろん例外のブランドはある)

仮にオーバーサイズの黒のロングコートがマスのトレンドアイテムだったとして、全ブランドがこれを提案した場合、どうなるかというと、店頭はさらに同質化してしまう。

そして、これを全ブランドが揃えたところで、1人の消費者がそれを買うのは、1ブランドから1枚だけである。最大限の数量を買ったとしても1ブランドで2枚(デザイン違いや素材違い)か、2ブランドで1枚ずつ、だろう。

残りの数多くのブランドの黒のオーバーサイズロングコートは売れないということである。

となると、需要予測で在庫削減どころか、業界全体の滞留在庫は増えるということになる。

また、ブランド名にこだわらない人なら、最安値のブランドから買うことになる。例えばジーユー、ユニクロである。

そうなると、大手低価格ブランドの販売効率は上がるが、それ以外のブランド(中価格帯や百貨店ブランド)では売れなくなるから、それらのブランドでも在庫増になる可能性が極めて高いと考えられる。

これら3つの理由を考えると「AIによる需要予測で在庫削減」という謳い文句自体がいかにフワっとした雰囲気だけだったかということがわかるのではないか。

もちろん、AIによる需要予測自体を全否定するつもりもないし、MDのための資料の一つとして用いることには異論はない。

だが、AIによる需要予測で、販売不振や過剰在庫が一挙に解決できてしまうというような売り込みは過大広告に近いと思うし、それに全依存するようなアパレル企業は経営陣が浅はかだと思う。

アパレルの経営陣は自分や家族、知人、親戚などがどのような考えで洋服の購入をするのかを考え直すべきだろう。業務としてしか消費者の購買行動を考えていないから、「うちのブランドは例外」とか「デジタルの可能性は無限」と、自社の販売に限っては思ってしまうのではないか。

業務上で思い描いているような購買行動を、自分はプライベートで取っているのかどうかを考えてみればすぐにわかるはずである。

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