“無人の古着屋”が全国に増加中!?
ブームの先駆けとなった野方の「ムジンノフクヤ」とは
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「無人販売」と聞いてまず思い浮かぶのは、地方の道路沿いにある無人野菜販売所だろう。無人店舗にある料金箱に代金を入れて品物を持ち帰るもので、購入者の良心で成り立っていることから「良心市」、英語では「honesty box」とも呼ばれている。
無人=接客なしの非接触店舗は、昨今のコロナ禍で改めて脚光を浴びていることは言うまでもない。数年前から、米国ではアマゾンの「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」、国内ではファミリーマートの無人決済コンビニ「TOUCH TO GO(タッチトゥーゴー)」ほか、AIなどのテクノロジーを使った最先端の非接触店舗が注目されているが、コロナ以降には日本各地で餃子店や焼肉店、豆腐店など飲食店や、リサイクル家電店など小売の無人販売も見られるようになるなど話題が豊富だ。
そんななか、24時間営業の”無人古着店”として早くから話題を集めていたのが、2020年8月に中野区にオープンした「ムジンノフクヤ」である。西武新宿線の野方駅から徒歩5分、商店街の奥というアクセス良好とは言えない立地ながら、ユニークな店作りが地元客ほか各種メディアにも大いに注目され、開店1カ月目から黒字を達成。オープン1年目にして、東長崎店、椎名町店(フランチャイズ)、新宿アルタ店の計4店舗に拡大するなど勢いづいている。
老若男女が行き交う昔ながらの商店街に面した約8坪の店舗には、色分けされたスウェットやTシャツ、ワンピース、ジーンズなど約500〜600着の商品が並び、店内にはレジも店員もなし。気になる服を人目を気にせず選び、試着も自由にできる。初めての人は戸惑うかもしれないが、手書きの買い物案内を見れば買い物もスムーズ。商品は7色のハンガーで価格(1480~4980円)ごとに色分けされており、購入時には券売機で色ごとのチケットを購入し、ハンガーを専用BOXに戻せば購入完了だ。
「コンセプトは”日本一ゆっくり買い物ができるお店”。わくわくするような、品質の良いアイテムをリーズナブルに提供したいと考えて、無人店舗にしました」と話すのは、同店のほか、マッサージ店などを経営するdharman代表の平野泰敬さん。オープン後から予想以上の反響があり、現在は月に300-400人程度が来店。「ゆっくり見られる」と好意的な反応が多いという。
アイテムはユニセックスがメインで、季節ごとにワンピースやアウターなどのアイテムも取り扱う。オリジナルのリメイク古着もあり、制作は文化服装学園卒で韓国留学経験もあるSENAさんが担当。野方店では入荷して数日で売り切れる人気商品だという。価格帯はTシャツ類、スウェット類など1000〜2000円代が中心で、客単価は2000円代程度。
24時間営業で仕事帰りや飲み会帰りの客の取り込みも。実は需要が高い夜間~深夜帯
「セレクトは、昨今の若者の古着ブームをふまえて、女性でもオーバーサイズで着られるユニセックスなアイテムを中心にしています。実はオープン当初は幅広い年代が着られる国内ブランドの古着をメインに揃えていましたが、仕入れ先からの情報や、お客さんからのリクエスト、トレンドなどを踏まえて海外ものに変えました。開店当初より少し価格は高くなりましたが、相場よりも安価に提供しており、お客さんからの評判も良いですね。海外ものは一点ものが多いので、盗難や転売防止のメリットもあるんです」(平野さん)。
客層は20~30代が中心で、女性が6割程度と少し多め。幅広い年代の地元客のほか、テレビやwebなどのメディアを見て遠方から訪れる客など幅広い。同店の位置する野方商店街は、昔から続く飲食店や衣料店、食料品店、古着店や古道具点など、個性的な300店舗以上が集まるエリア。”古着の街”高円寺も近く、「高円寺よりも安く買える」と足を運ぶ近隣客も多いようだ。
実は、売り上げが高いのは20時以降の夜間。コロナ以降は減ったものの、飲んだ後にふらっと立ち寄ったり、コインランドリーで洗濯を待つ間に来る人もいるとか。
コロナ禍が後押しした非接触接ニーズ。気になる防犯対策は?
もともと知人の紹介で古着の仕入れ元と知り合い、2年ほど前からフリマサイトで古着販売を行なっていたという平野さん。実店舗オープンの背景について、「誰でも手軽に参入できるネット販売は、どうしても低価格競争になりやすく、手数料や送料、発送などの手間を考えると利益も多くありません。また、一点物も多い古着はサイズ感も難しく、『実際に商品を手にしたい、試着したい』というお客さんのニーズも感じていました」(平野さん)。
そのころ、米国で話題になったのが「Amazon Go」。今後は国内でも無人店舗が拡大すると考えた平野さんは、「24時間の無人店舗なら人件費なども抑えられて、良いものをリーズナブルに提供できる」と無人古着屋の構想をスタート。さらに昨年は新型コロナウイルスが流行し、非接触接客のニーズの高まりが出店を後押ししたのだという。
とはいえ、無人古着屋で心配されるのは、盗難や犯罪のリスクだ。初めての試みに「正直、最初は不安しかなかった」という平野さん。防犯対策として、一面ガラス張りの店内に複数の防犯カメラとモニターを設置した。「商店街の人の目があることは大きいですね。実際に月に数件盗難はあるのですが、今のところ犯人は特定できています」(平野さん)。
全く土地勘のなかった野方商店街という立地を選んだ理由も、防犯面と価格面を考えた結果だ。 「低コスト型の店舗にしてリスクを最低限に抑えるために、物件選びの絶対条件は”商店街の1階ガラス張り、24時間営業可”。都内で探したところ、ここ野方に物件が見つかり即決しました」と平野さん。当初はスマホ決済も考えたが、ランニングコストを考えて自販機を導入したのだそうだ。
SNS世代には逆にアナログ感が新鮮。「連絡帳」が繋ぐ顧客とのコミュニケーション
出店のヒントになったのが、三鷹で8年ほど続く無人古本店「BOOK ROAD(ブックロード)」だ。IT業界出身の店主が始めた2坪ほどの小さな店舗で、こだわりのセレクトや遊び心のある店作りが地元客や本好きの間で評判に。「ガチャガチャで値段分のカプセルを購入する決済システム、人通りのある商店街という立地やガラス張りの店の作りなどを参考にさせて頂きました。ジャンルは違いますが、成功事例があることに励まされました」(平野さん)。
同店ならではの取り組みとして「お客さんの声が聞こえづらい」という無人販売のデメリットを解消するために、全店舗に意見や要望が書ける「連絡帳」を設置。ノートには「○○が良かった」「こんな服が欲しい」といった意見やリクエストがたくさん書き込まれ、なかには進路相談や雑談も。直営店は3日に1回ほど平野さん自身が商品の補充や清掃に訪れており、その際に一つひとつ返事を書いているという。「要望や意見はできるだけ取りれていて、例えば(人が入ってきたと分かるように)入口にドアベルをつけたり、試着室にフェイスカバーを導入するなど、その都度改善しています」(平野さん)。
ランドリーチェーンとの協業により、コインランドリーでの"ショップインショップ"展開も進行中
さらに同店では、子供服やベビー服の無料リユースも実施。回収箱で着られなくなった服を引き取り、クリーニングして必要な人に再配布している。リユースやリメイク古着の販売を通して、衣料品廃棄の問題にも取り組みたいという平野さんの考えからだ。無人ではあるものの、アナログの温もりを感じる同店。こうした小さなコミュニケーションの工夫や顧客目線の取り組みによって、店と客の間に信頼関係が生まれ、集客に繋がっているように感じた。
「ムジンノフクヤはお客さんの良心で成り立っていると感じます」と平野さん。今後もお客さんに楽しんでもらえるような店づくりを続けるなかで、無人古着屋のしくみを浸透させていきたいそうで、“無人形態が成り立つような世の中を作っていく”のが理想だという。
現在は問い合わせが多いというFC店舗を拡大中で、次は埼玉にオープン予定。さらに、全国展開しているランドリーチェーンと協働して、無人のコインランドリーに"ショップインショップ"で「ムジンノフクヤ」を併設する構想も進行している。「24時間営業のランドリーは防犯対策もなされていて、ターゲットである若者層も多いため相乗効果を期待しています」(平野さん)。
一方で、FC店舗が増えるとともに顧客とのコミュニケーションや防犯面での課題もあるが、多くのお客さんの声を拾えるように各店舗オーナーやスタッフと連携し、連絡帳などのコミュニケーションツールを継続していくという。さらに最近ではYouTubeを使ったオンライン販売ライブ、着こなしやアレンジの紹介、リメイク古着の製作現場配信などもスタート。こうした「ムジンノフクヤ」独自の取り組みを続けるなかで、他店との差別化も図っていくという。
可能性が広がる非接触型=無人店舗ビジネス
実は、今年に入り無人の古着屋が次々とオープンしている。以前幣サイトで取材したリサイクルショップ「イッテンストア」は無人の古着屋「古着神社 by イッテンストア」として8月リスタート。商品はなんと300円均一で、支払は店内の賽銭箱へというユニークな方式で話題に。スピンズなどを運営する古着大手の株式会社ヒューマンフォーラムは、実験店舗として香川県高松市にオール500円の無人古着屋「The FCLC Supermarket(エフシーエルシー スーパーマーケット)」を期間限定オープン。さらに同社は10月より、全国の学生マンションの企画開発~運営管理まで行うジェイ・エス・ビーと提携し、拓殖大学八王子国際キャンパス構内の学生寮の一角で古着の無人販売をスタートしている。また、マネキン店員のさくらちゃんが店頭に立つ「秘密のさくらちゃん」は東京、埼玉、岩手に5店舗を出店、長崎県長崎市には千葉県の現役大学生が手掛ける「感情七号線」がオープンしており、自由な発想の無人古着店が地方にも拡がっているのだ。
背景には無人店舗は人件費がかからないため参入しやすいことや、日本ならではの治安の良さがあるのはもちろんのこと、コロナ禍で海外に輸出できない国内古着が溢れているという供給過多な市場の状況や、飲食店など閉店が相次ぎ各地に空き店舗が増えていることなどが後押しになっているとみられる。直近では、ファミリーマートと日本郵政グループがタッグを組み、全国の郵便局内に無人店コンビニエンスストアを設置するとの発表もあったが、コロナ禍により勢いづく非接触型=無人店舗ビジネスにはまだまだ可能性が秘められているといえそうだ。
【取材・文=フリーライター・エディター/渡辺満樹子】
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