1893年創業の老舗繊維商社である株式会社ヤギ。原料としての糸やテキスタイル、繊維製品の取り扱いを行っているが、昨今では長い歴史のなかで培われた技術や知見を活かし、様々なデジタルへの取り組みを行っている。そのなかで注目したのがデジタル化・DXプロジェクト推進だ。上記のように業界の基盤となる事業を手掛ける企業だからこそ、その取り組みの意義は大きいと考えられる。今回はこちらの取り組みについて、株式会社ヤギのアパレル第二事業本部第一事業部長代理の樺島智史さんに話を聞いていく。
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デジタル化の推進
株式会社ヤギは125年以上の歴史のなかでデジタル化を各方面で検討・推進してきた。そのようななかDXの推進を明確に掲げたのは2020年4月からスタートした新中期経営計画からだ。関連事業への出資、自社開発のデジタルプラットフォームのローンチなど多岐にわたるデジタル化に関連する取り組みのなかでも、特に3つの事業に注力している。
ひとつめが「Fably(ファブリー)」だ。「Fably」は“生地に関するプロツール”をコンセプトに2020年1月にスタートしたテキスタイルECサイトで、現在約30社がサプライヤーとして参加している。ここでは自社製品だけではなく他社にプラットフォームも提供をしており、日本全国にある各産地の様々な企業が活用。2022年3月には海外販売の対応も開始予定で、「Fably」を利用すれば国内でも海外でも同じ感覚でビジネスができるという。
ふたつめは、衣服生産のクラウドサービスを提供するシタテル株式会社との協業だ。シタテルはアパレルのサプライチェーンをデジタル化する「sitateru CLOUD」というプラットフォームを提供している。株式会社ヤギでは「sitateru CLOUD」に対して、アパレルOEMでの活用に加え、営業以外の部門との連動にも注目。具体的には物流と連携することで業務の効率化を図るという。生産から物流までの一連の状況を集約して“見える化”することで、属人的な業務の効率化が可能だ。既にヤギ社内では複数部門でアパレル生産プラットフォームとして導入している事例もある。
最後は株式会社ヤギと株式会社TFLが共同で設立した、株式会社FMBで取り組んでいる3DCGの制作だ。ここでは高精緻なファッション3Dモデリングを中心としたテクノロジーサービスを提供している。テクノロジーによる業務改革や意思決定の迅速化、機会ロスや在庫ロス低減を実現させ、新しいサプライチェーンモデルを構築し“ファッション製造・流通の再創造”を実現するものだという。ヤギでは、実際に通販業態にて3DCGを用いて価値訴求を行ったり、取引先のアパレル企業でも企画段階で3DCGを活用。直近ではスポーツアパレルブランドの展示会において3DCG活用によるサンプルの削減、販売促進の取り組みに伴走している。
このようなデジタル化の推進に際しては、ヤギの業務フローに合っていて、かつ共感してもらえるパートナーとともにできる範囲から着実に取り組んできた。最初から明確なロードマップを描けていたわけではなく仕組み作りからのスタートで、まずはトライしてみよう、という考えのもとデジタル化の推進を始めたという。
コロナ禍における課題
株式会社ヤギが行っているデジタル化の展開は、アパレル産業全体に波及効果のあるものといえるだろう。そんな同社からみて、日本のアパレル生産におけるデジタル化の現状はどのように映っているのだろうか。
「日本のアパレル生産におけるデジタル化は現状においてあまり進んでいないように感じます。原因としては構造上の特徴である属人性、現物至上主義が未だ強いことがあげられるのではないかと思います。しかし、今後デジタル化が進んでいけば様々なサプライチェーンの商流が簡素化されるなかで、時間の効率化やロスの削減によるコスト改善効果、精緻なMDによるモノづくりの適量化などが望めるのではないかと考えています。」
このような潮流はコロナ禍によって変化したところもあった。ファッション産業は企画や生産など各段階において、それぞれの職能者が高い技術を持っており、分散して存在している特性がある。ところがコロナ禍においては対面による情報収集に制限があるなかで、新しいコミュニケーションツールを使って、それをいかにカバーするかが喫緊の課題として浮上していた。コロナ禍を通じてODM・OEMでは以前にも増してQR・多品種小ロット対応が求められているという。
「これに加えて円安とコスト高、物流費高が追い打ちを掛けています。そのなかで私たちはサプライチェーンに携わる多くの職能者の能力を最大限引き出しながら、最少人数で最大の効果を発揮することが求められています。そのためにはDXによる事業の効率化を図ることが不可欠です。今、業界全体として『変えなきゃいけない』とする前向きな機運が盛り上がっていると思います。」
現在のファッション産業のプレイヤーは、ファッションが持つワクワク感や自信を感じにくい状況にあるのではないかと樺島さんは話す。それに対し同社は、ファッション産業を持続可能な形にすることで、もう一度感動し自信を持てるような環境を作ろう、と前を向いている。商社は業界のイノベーションの一翼を担う責任を持ち、その責任を全うするためこれからもDXに向けて踏み込んでいく構えだ。
最後に今後の展望についても教えてもらった。
「業務改善や効率化だけではなく、弊社のFablyのようにビジネスにつながる事業をさらに展開していかなければならないと考えています。また、Fablyは自社だけでなく他社様も参加できるプラットフォームとなっていますが、このように業界全体に貢献できるDXに取り組んでいかなければならないと考えています。現在進めているシタテル社との物流に対するDXも他社様に参加していただけるようなオープンな仕組みを考えています。」
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