あらゆる事物が見た目を裏切る。ファンタジーこそがルールであり、きらめき、汗ばむその印象の奥に、必ず物語を秘めている。
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By Arielle Richards
Translated By Ai Nakayama TOKYO, JP
最初に現れるのは、緑色の光に照らされてしゃがみこむ、悪魔のような妖精。冷たさをたたえた金属のピアスが、光を反射しながら怪物のように突き出た眉骨を飾る。全身には、よくある白の延長コードが絡みついている。
次は地元のラッパー、ムラーロ。ボロボロに裂かれたリトルブラックドレスをまとい、堂々と立つ。ドレスの裂け目から覗く全身の肌は、タイヤが走った跡で汚れている。
3つめはさらに奇妙だ。3人のゴブリンが、蛍光色に光る深海の底に横たわる。前景には巨大な硫黄の泡が浮かび、そのテカテカと光る表面は、ネオンの珊瑚や大きなキノコ、雄大な草木の風景を反射している。
これは明晰夢ではない。スタイリスト/フォトグラファー/デザイナーのローズ・ピュアが創り出す世界のなかだ。
ローズ・ピュアとして活動するキャサリン・ローズは、慣例を超えたところまで限界を押し広げ、驚きに満ち、淫靡でセクシーな、目もくらむような世界へといざなう天才だ。ローズ・ピュアの世界では、あらゆる事物が見た目を裏切る。ファンタジーこそがルールであり、きらめき、汗ばむその印象の奥に、必ず物語を秘めている。
ゴールドコーストに近い、クイーンズランド州の「後背地」にある、住民は少なく草木は茂る指定保護地区で育ったキャサリンは22歳のとき、故郷に息苦しさを感じた数多くのクリエイティブな先人たち同様、メルボルンに移り住んだ。それは低予算MVのスタイリングの仕事のためだったが、仕事は仕事だ。これは彼女にとって、故郷を出る口実となった。彼女は行動を起こし、知り合いのいない街に移住した。しかし悪趣味で、パフォーマティブで、日に焼けた肌とネオンにあふれる太陽の街、ゴールドコーストのライフスタイルは彼女の心から消えることはなく、想像力の源となっている。
「間違いなくインスパイアされてる。ゴールドコーストはグラマラスもどきでダサい、サーフィンの街だね」とキャサリンはVICEに語る。
「サーフコアの撮影を始めたとき、現地のひとたちが『サーフィンこそがカルチャーだ』と信じているのがおかしくて。ほんと面白いと思うし、その感覚を通してユーモアを表現するのが好き」
キャサリンの幻想の世界は、デジタルからハイパーリアルまでさまざまなリファレンスにあふれており、オーストラリアを象徴するような小さな〈イースターエッグ〉が随所に散りばめられている。その結果、驚きとノスタルジーに満ちた、少しばかり奇妙な作品が生まれている。ミュージシャンのサヴェージ・ザ・ガールとの撮影では、BDSMスタイルのベルトに、オーストラリアらしいプラスチックキーホルダーがいくつもぶら下がっている。シドニーのフォトグラファー、スライ・モリカワがフィルムカメラで撮影したムラーロとのエディトリアルでは、ムラーロにダーティーブロンドの尻尾をつけた。
「ほんとおかしかった」とキャサリンは回想する。
「撮影のちょっと前に、ちょうどドラマ『Kath and Kim』のとあるエピソードを観たの。結婚式でキムが超酔っ払って、ヘアピースを落としちゃうの。でもそれがちょうど彼女のお尻にくっついちゃって。そこに馬がいて、キムが地面を這うの」
「『ムラーロのお尻にヘアピースを飾らないと、理由は説明できないけど』って言った。ケモノへのオマージュっていう意味もあった」
キャサリンは独学で才能を開花させた。彼女は幼い頃、惜しまずサポートしてくれた両親の勧めもあり、独学で裁縫を学んだ。そしてリサイクルショップ巡りをして、掘り出し物のアップサイクルを始めた。実のところ、写真もPhotoshopもファッションデザインも、すべて独学で習得した。彼女は自宅やリサイクルショップで見つけた物を別の物に生まれ変わらせ、適当な物が見つからないときは自分の手で道具を創っている。
「ある撮影で、モデルにケーキシッティング(ケーキの上に座ること)をしてもらおうとした」とキャサリンはとんでもないアイデアを試して失敗したときのことを説明する。
「私はスポンジケーキを買って、午前中丸々かけてクレイジーなデコレーションを完成させ、ろうそくもたくさん刺した。下手くそな誕生日ケーキみたいな感じにしたくて。私が視聴してたケーキシッティングの動画(もちろんポルノ)では、いつだってケーキがあちこちに散らばるように見えた。そういう画を撮りたかったの。だけどアイシングが固すぎて、モデルが座ったらケーキがそのまま沈み込んじゃったんだよね」と彼女は笑う。
「ほんとショックだった。何ならモデルのお尻にもつかなかった。写真のためにケーキをお尻に塗ったよ」
がっかりした写真家がモデルのお尻に固いケーキを塗るのを複数のアシスタントが手伝う、というのは倒錯的な光景だが、ローズ・ピュアの幻想の世界ではいつものことだ。
〈Virtual Nymph Play(バーチャル・ニンフ・プレイ)〉というサイバーセックスRPGのプロットを借用した撮影では、彼女は共同作業者のジョアンにふたりのビジョンを実現させた。そのビジョンに必要だったのはタコ丸々1匹。クイーン・ヴィクトリア市場で調達し、撮影はキャサリンの寝室で行われた。
「めちゃめちゃ内蔵感があって、何というか……ジューシーだった。床一面に垂れちゃって」とキャサリンは撮影の思い出に身を震わせた。
「モデルのひとりが怖がっちゃったんだけど、もうひとりが『私の上に乗せて。私は平気だから』って。だから彼女の裸体に乗せたの。彼女がタコ好きで助かった」
このような性的な題材を扱うため、彼女の作品においては同意が極めて重要だ。アーティストやクリエイターたちをスタイリングするときは、お互いのビジョンを実現するため、被写体とのコラボレーションが可能であることが大事だ、と彼女は言う。
「大体、ビジュアル的にしたいことがあるかどうかを訊く。あとは、私の作品をすでに知ってくれているひとたちが、『あなたがクールだと思うことをやって』と言ってくれることもよくある。私を信用してくれているとすごく楽しいなと思う」とキャサリンは語る。
彼女が好きなのは、ミュージシャンのスタイリング。なぜなら音楽を聴いて、『それに合うビジュアルを考える』ことができるからだそうだ。これまででいちばん大きな仕事は、Alldayの「Stolen Cars」のMVと全国ツアーのスタイリングだ。
「ショーが始まるまで、こんなに規模が大きいとは知らなかった」と彼女は語る。
「ソールドアウトの会場で、観客全員が彼の歌詞を一緒に歌ってる。ステージの上では彼が私のスタイリングした衣装を着ている……。まるで夢みたいだった。すごく興奮したし、絶対覚えておくべき瞬間だと思う。自分のしていることにこんな価値があるんだってことをね」
キャサリンは最近、自らのファッションブランドPure Obsession(Instagramでは〈shop-ure-obsession〉という表記でpureとyourをかけている)を立ち上げた。「あなたのビジネスは私たちの娯楽」というキャッチフレーズは、ノリが軽く、楽しいブランドの精神をまさに表している。
Pure Obsessionの出発点はリサイクルショップだ。古いビジネス用ネクタイやシャツ、パンツ、ノベルティTシャツをアップサイクルし、21世紀のビジネスと娯楽のための全く新しい衣服に生まれ変わらせる。アイテムはすべてキャサリンのハンドメイド。彼女はブランドを立ち上げる前にパターン制作の教室にいくつか通い、あらゆるサイズに合わせたパターンを引くことを学んだ。同ブランドが「誕生以来」大切にしている重要な課題は、リサイクルと幅広いサイズ展開だ。
「幅広いサイズ展開ができないなら、何も発表したくなかった。だって、身体は十人十色だから。欲しいものを買える権利は誰にでもあると思う」
「アクセシビリティは、私がずっと取り組んでいくべき課題だと思ってる。できれば、真の意味で誰にでも届くところまで到達したい」
多くのクリエイターの若者たち同様、キャサリンの世界は移り気で、人間の存在を脅かす不幸の元凶であるInstagramで展開されている。
Instagramは彼女にとって「ムードボードで、ポートフォリオで、ギャラリー」であり、ここにはこれまで彼女が手がけてきたすべての作品が収められ、魅力的な体験を提供している。彼女はいつか、自身がアイコンと崇めるEartheaterやShygirl、キャロライン・ポラチェックのスタイリングをしてみたい、と語る。
「もし実現したら、Balenciagaとかハイブランドと、リサイクルショップのアイテムや地元のデザイナーのアイテムを混ぜたい。今やってることと似てるけど、もっとめちゃくちゃにするの」
どんなにローズ・ピュアがビッグになっても、キャサリンは自らの心に従い続けるだろう。それは間違いない。
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