ブラックプールFCに所属するジェイク・ダニエルズは、カミングアウトして「心からホッとした」と語る。英国の男子プロサッカー選手が同性愛者であることを公表するのは32年ぶりだ。

By Ben Hunte　Translated By Nozomi Otaki

17歳の青年の勇敢な行為に、祝福と称賛の声が集まっている。

政治家、スポーツ界のスター、LGBTQの活動家が、あらゆるSNSで支持を表明し、ブラックプールFCのジェイク・ダニエルズ（Jake Daniels）選手に祝辞を述べるとともに、この歴史的な瞬間を祝福した。

ダニエルズは英メディア〈Sky Sports News〉に対し、チャンピオンシップ（2部リーグ）のチームメイトがいかにこの大きな決断を後押ししてくれたかを語り、他の人びとのロールモデルになりたい、と語った。

「プロのサッカー選手を目指し、その夢を叶えた僕は、ずっと本当の自分を隠さなければいけないと思ってきました。引退までカミングアウトを待つべきか迷っていました。ここでプロの試合に出場する選手にカミングアウトしているひとは一人もいなかったので」と彼は説明する。

「でも、ずっとウソをついて自分を偽り続けるのか、それとも自分の生きたい人生を生きるのか、その二択だと気づいたのです」

彼はこう付け加えた。「母と妹に伝えた翌日、アクリントン・スタンリーFC（U18チーム）と試合をして4ゴールを決めたので、どれだけ肩の荷が下りたのか、僕が心からホッとしたことがわかってもらえるはずです」

現在のイングランドのプロサッカーのトップリーグに、オープンリーゲイの現役選手はひとりもいない。かつてはひとりいたが、彼の人生は悲劇的な結末を迎えた。

その最初のひとりとは、ノリッジ・シティFCでキャリアをスタートさせたゲイの黒人選手、ジャスティン・ファシャヌだ。彼は並外れた才能に恵まれた選手だった。黒人サッカー選手として初めて100万ポンド（約5億円）もの移籍金を獲得し、彼のゴールは今もノリッジ史上最高との呼び声が高い。

しかし、1990年に『The Sun』紙のインタビューでカミングアウトした後、ファシャヌは家族から縁を切られ、セクシュアリティを公表したことで同僚から辱めを受け、英国の報道陣に追い回されることになる。

カミングアウトから10年も経たないうちに、ファシャヌは自ら命を絶った。彼は遺書にこう書き残した。「ゲイであり有名人であるということは、とても大変だ」

同じくプロサッカー選手だったファシャヌの弟ジョンは、カミングアウトを思い留まらせるためにジャスティンに7万5000ポンド（約1300万円）支払ったことを『Daily Mirror』紙に明かしている。「僕は兄に懇願し、脅迫し、あらゆる手を尽くしてカミングアウトを阻止しようとしました」

「もし兄が今カミングアウトしていたら、状況はまったく違ったでしょう。今なら問題になることはありませんが、あの頃はそういう時代でした。今は何もかもが変わりました。彼はヒーローとして讃えられていたはずです」

LGBTQのファンと活動家は、英国メディア、サッカー関係者、サッカーファンが今回は同じ過ちを繰り返さないように目を光らせるだろう。

「男子サッカーの世界でゲイやバイセクシュアル、クィアであることはいまだにタブーです」とダニエルズは Sky Sports Newsのインタビューで語った。「結局は、男らしいイメージで有名になりたい選手が多数派なのだと思います」

「ゲイは軟弱とみなされ、フィールドでいじめの標的にされることもあります。もちろん、今回の発表に対してはスタジアムでもSNSでもさまざまな反響があり、なかにはホモフォビックなものもあるかもしれません」

「僕がプレー中に誰かに罵倒されても、その人たちはお金を払って僕のサッカーを観ているわけですし、僕はそのお金で生活しています。だから好きなことを叫んでもらってかまいません。大した影響はないので」

昨年、筆者はリバプールのキャプテンでイングランドのサッカー選手のジョーダン・ヘンダーソン（Jordan Henderson）にインタビューを敢行し、ゲイであることをカミングアウトして国際的なニュースになったオーストラリア人サッカー選手のジョシュア・カヴァッロについて尋ねた。

「選手の誰かがカミングアウトしたとしても、更衣室でその選手を見る目が変わるとかそういうことはありません」とヘンダーソンは明言した。

彼は、英国のプロサッカー選手はあらゆるLGBTQの同僚を支持する心構えができていると語った。カヴァッロについて、彼はこのように述べた。「みんな確実に勇気をもらったはず。彼の後に続くかどうかはまた別の話かもしれませんが、僕たちはできる限りそれを応援します。とにかく僕に言えるのは、僕個人と僕のチームメイトはみんな100%そうするだろう、ということです」