国内外でも先進的な試みとなる「せとうちシルクファクトリー」
新しいシルク産業の創出を目指し、蚕の飼育から原料抽出まで行う一貫工場「せとうちシルクファクトリー」(愛媛県今治市)が5月30日に開所した。7月中旬までは稼働開始後の技術的な指導を大学、機械メーカーなどから受けて本格稼働の準備を進めている。「愛媛シルク」の商品開発を進めるユナイテッドシルク(松山市)の河合崇社長は「従来の繊維製品以外にもフードテック、ヘルステックから、我々が考える新たな〝シルクテック〟へ昇華させたい」と強調する。
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同工場はユナイテッドシルクと社会福祉法人来島会(愛媛県今治市)が連携し、新しいシルク産業と障害者の就業機会の創出に向け、蚕大量飼育装置「マユファクチャー」とシルク原料加工設備を持つ工場として5月16日から稼働した。蚕からの一貫工場は国内外でも先進的な取り組みだという。
工場は来島会の所有する土地・建物を利用し、工場の中核となるマユファクチャーでは年間50万頭の蚕を飼育する。マユファクチャーは新菱冷熱工業(東京)が開発したスマート養蚕システムで、5~10月に限られていた蚕の飼育を年間を通して行い、クリーンな環境による飼育で病気発生のリスクも抑えられる。繭ベースでは年間1トンの生産が可能となる。
シルク原料加工設備では繭からシルクの18種のアミノ酸で構成される「フィブロイン」というたんぱく質成分を独自の加工技術で抽出し、「シルク水溶液」と「シルクパウダー」に精製する。精製物は繊維以外にも機能性研究が進んでおり、食品や化粧品、バイオ医薬の原材料として活用する。
シルクは〝繊維の女王〟とも呼ばれ、日本の経済成長をけん引してきた基幹産業だったが、この四半世紀で最盛期の生産量の約95%減と、このままでは国内から養蚕業が失われてしまうかもしれない危機に直面している。一方で、昨今の技術進歩により、多分野を横断したバイオマテリアルと捉えた研究が進み、多くの期待が寄せられている。
ユナイテッドシルクは16年の創業から愛媛県で伝統ある養蚕地である西予市、大洲市の養蚕農家はじめ、野村シルク博物館とも連携して、愛媛県の地域資源であるシルクを取り扱う地域共創プロジェクトを推進してきた。18年には愛媛県、えひめ産業振興財団の指導の下、約30団体で愛媛シルク協議会を立ち上げ、愛媛シルクの情報発信、産学官連携を開始した。19年には全国シルクビジネス協議会が立ち上がり、農林水産省、大日本蚕糸会の支援で、全国の養蚕農家との交流が始まった。20年には愛媛県に地域経済牽引事業計画を提出し、承認を受け、同工場の計画がスタートした。今回は経済産業省の「ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金」、事業再構築補助金も活用した。将来的には海外販売、特に北米をターゲットにしたシルク原料の輸出も構想している。
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