ファッション関連産業のスタートアップをサポート
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日暮里の生地問屋街に誕生した荒川区のインキュベーション施設
90軒以上の生地問屋が軒を連ねる日暮里の繊維街の中央に、ファッション関連産業で起業したい人をサポートしようとオープンした「iDETACHi tokyo(イデタチ東京)」。2021年2月のオープンから約1年半が過ぎ、COVID -19禍もひと段落した今、本格的に始動している。
10月8日、改めて同施設の入居者説明会と「デザイナーズトーク」として、YOHEI OHNOのデザイナーの大野陽平さんとライター・エディターの佐藤亜都さんの鼎談が開催されるというので、足を運んでみた。
「イデタチ東京」はJRと舎人ライナーの「日暮里」駅から徒歩約8分。2021年1月にオープンした荒川区立日暮里地域活性化施設「ふらっとにっぽり」の5階にある。大きな窓が気持ちいい約22㎡の個室オフィスが4室とシェアオフィススペース(5席)、打ち合わせスペースの他、オンライン会議用のブース、宅配ロッカー、複合コピー機などが配備されており、現在以下の7つの事業主が入居している。
・EBRU Inc.
・Beast Barracks
・ARMK
・HOUGA
・senitonamu
・FavorKnits
・SOUBI BY TAKASHI TESHIMA
「子どもが来年から小学生になるので、アトリエ兼自宅では手狭になり、先日までシェアオフィスを利用していたのですが、この10月から個室に入居することにしました」と話すのは、先日楽天ファッションウィークで2023年春夏の新作をランウェイスタイルで披露し、展示会を終えたばかりのブランド「HOUGA(ホウガ)」のデザイナー、石田萌さん。
「ちょっとした時にでもメンターに相談できるのが心強いですね」(石田さん)。弁護士や税理士の先生はもちろんのこと、大手アパレルやECを運営する企業の代表、さらに自身もファッションブランドを手がけているというデザイナーなど、下町ならではの親密なサポートを行ってくれるメンターは、現在以下の通り。
https://idetachi.com/about/
*メンターの方々:
・株式会社THEAR代表取締役「SEENOWTOKYO」運営する内田裕也さん
・株式会社オージュ・コンサルティング代表取締役「Cherry et Cacao」ブランドオーナー大森渚さん
・株式会社B's INTERNATIONAL海外事業部営業/通訳貿易物流部加藤麗紀さん
・株式会社ペンフォーツー代表取締役クリエイティブディレクター鈴木聡史さん
・「ANALOG LIGHTING」デザイナーで「目黒マルシェ」を主宰する山本威史さん
・株式会社TSIホールディングスIT戦略部担当部長松井崇さん
ますます広がるインキュベーション・サポート
東京都産業労働局東京都創業NETというプラットフォーム
さらに、「ふらっとにっぽり」の2Fと5Fには老舗家庭用ロックミシンメーカーのベビーロック社が運営するプロ向けの機材をそろえたシェア工房「ベビーロック・スタジオ日暮里」が出店。一般のお客さんはもちろんのこと、「イデタチ東京」の入居者は特別割引で利用することができるというのも嬉しい。
プロ用機材と人的サポートが揃っているという意味では、台東区にある若手デザイナーの支援施設としては先駆的な存在の「台東デザイナーズビレッジ」に、明治神宮前原宿駅からほど近いところにある、ファッションに特化したコワーキングスペース「coromoza(コロモザ)」を足して2で割った(?)かのようなファッションのインキュベーション施設ともいえそうだ。
「まさに、先人であるデザビレさん(デザイナーズビレッジの略)を仰ぎ見ながら、どのようにイデタチ色を出せるかがひとつの大きな課題でした」と言うのは、本施設の統括マネージャーの児玉あゆこさん。
「あちら(デザビレ)は鈴木村長という圧倒的なプロフェッショナルがいらっしゃっる施設として圧倒的な実績と信頼を積み重ねていらっしゃいます。イデタチでは、さまざまな知見を持つ方々をネットワークすることで、起業支援から経営等に関するアドバイスなど、多角分散型でていねいにサポートできる体制を特徴としました」(児玉さん)。
ちなみに、同じ同じ建物の3階には、荒川区によるコワーキングスペース「ツムギバ」がローンチ。こちらはファッションに限らず、起業したい人なら幅広く一般の人でも平日無料で使用でき、希望するとスタートアップの相談にも乗ってもらえるそうだ。
実は、本「イデタチ東京」や先述した台東デザイナーズビレッジは、東京都が2015年より開始している「インキュベーション施設運営計画認定事業」に基づく民間事業者を対象とした認定インキュベーション施設として承認されている。他には、DMM.make AKIBAや、ビジネスエアポート、スタートアップしもきたなど合計80以上の施設が認定されており、2021年度も新たに8事業者が加わるなど、東京都が起業を後押しする態勢基盤を整え、その気運が広がっている。
現在、コワーキングオフィスを含み、都内80以上の施設が認定インキュベーション施設となっている。
https://www.tokyo-sogyo-net.metro.tokyo.lg.jp/incu_office/nintei/
さらに、先日ローンチした港区立産業振興センターでは、「クリエイティブを味方に」というキャッチフレーズで、コワーキングスペースのほか、フルカラーの3Dプリンタ、スキャナ、高精度なCADを組み合わせた機材や、「ファッションテック」ということで、のアパレル用CADや3D着想シミュレーションソフトCLOなどのデジタルツールや、ミシン、昇華転写プレス機、プリンタ、パターンスキャナ、カッティングプロッタから、AI開発環境、VR、動画撮影機材、印刷・試作づくりなどが可能な「ビジネスサポートファクトリー」もサービスを開始。インキュベーション・サポートは全方位的に拡張しているようだ。
デザイナーたちのものがたりから学ぶこと
さて、本施設オープン時より何回か開催しているファッション関連で起業を考える人向けのトークイベント。取材日は、楽天ファッションウィークで久しぶりに国立科学博物館でランウェイショーを披露し、好評を博したファッションブランドYOHEIOHNOの大野陽平さんと、モード誌のウェブメディア等で活躍中のライター・エディターの佐藤亜都さんで、「ファッションの可能性×起業×2023」というお題に。
「東京ファッションアワード」を受賞し、ランウェイショーを披露したブランドデビュー2年目からその後の転換期を経て、ここ5シーズンは展示会でしっかり卸先を増やす戦略に転換してきたなど、ブランドビジネスとクリエーションをどのようにバランスをとるのかなど、リアルなお話に、会場に訪れた人たちは熱心に聞き入っていた。
質疑応答では、「服をデザインする時に意識していることは何ですか?」や「卸先の選定はどのようにしているのですか?」など、オンライン・オフラインから続々寄せられ、大野さんは1つひとつていねいに回答。最後は、「これからデザイナーを目指す人は、新しいやり方、自分の方法で恐れずにチャレンジしていくといいと思います。いろんな方がいろんなことをアドバイスくださったりすると思いますが、決めるのは自分ですから。頑張って下さい」と締めた。
終了後、個室に(入居自体は昨年2月から)入居ホヤホヤの「HOUGA」のアトリエを大野さんと佐藤さんらと訪問。
「まだ荷物を運び入れただけなんです!」と言う石田さん。「窓が開けていていいですね」、「思ったよりも広いですね」、「打ち合わせのスペースが他にあるだけでも違いますよね」、「24時間使用していいのはいいなあ」、「新しいから綺麗でいいですね」、「コンビニも近いですしね」、「飲食店もたくさんあるし」など、具体的なアトリエライフへの妄想が広がっていた。
「検討したいです!」。
いっしょに見学していたのは、「a maiden devil」というブランドを展開している Mitusaki Sasakiさんと、「natsumi osawa」の大澤夏珠さん。実は、2人とも、ブランド「perminutes」の半澤慶樹さんの文化服装学院時代の同級生。大澤さんは、「2020 ITS(International Talent Support)」のアートワーク部門でファイナリストに選出され、さらにブランドとして次のステージを目指すなかアトリエを探していたと話してくれた。
そんな「イデタチ東京」の入居者募集締め切りは11月10日(木)とまもなく。11月中旬に書類審査による一次審査を経て、12月中旬ごろ二次審査(面接審査)となり、年内には合否が決定。2023年2月1日より、順次入居という予定だそうだ。
詳細はこちらをどうぞ。
https://idetachi.com/entry/
[取材・文/高野公三子(本誌編集長)]
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