中国の初代皇帝・始皇帝は「不老不死」の仙薬を探し求めていたという。これは紀元前3世紀の『史記』に記されたエピソードであるが、そんなはるか昔からの人類の夢が現実になるかもしれない。
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ここ数年、海外の富裕層の間で「老化を抑制する」といわれるNMN(ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド)を含有するサプリが注目を集めている。
一般的な価格はなんと30粒で数万円前後。しかしながら日本でもエグゼクティブを中心に愛用者が増えているという。NMNとはどんなものか。日本でいち早く2019年よりNMNサプリ、ナダルタス®(NADaltus®)を展開する帝人グループ、NOMON株式会社・代表取締役CEOであり、開発者でもある山名 慶氏に話を伺った。
マウスの老化、高齢者の歩行速度や握力などにおける様々な好データも
まずは「NMN」とはどんな物質なのか。率直に聞いてみた。
「極端に言うとNMNは生きるための『エネルギー生産』と『老化抑制』に働く物質です。NMNは細胞内に取り込まれるとNADという物質に変換します。このNADは人間の約37兆個の細胞すべてが生きるために必要なものであり、すでに老化を抑制するとわかっている『サーチェイン遺伝子』を働かせるためにも必ず必要な物質です」
しかし、このNADは誰しもが生まれながらに持っている物質でありながらも、残念なことに年齢とともに減少してしまうのだという。
「下の図の横軸は年齢、縦軸はNADの量を表していますが、現在51歳の僕は20歳のころと比べてエネルギーを作る量が約半分しかないんです。そこでNADの前駆体であるNMNを補充していきましょうというのがNMNサプリの基本的な考え方です」
それではNMNを補充すると、具体的にはどういったことが期待できるのか。
寿命が2年ほどのマウスの寿命後半1年にNMNを補充したところ、老化現象が抑制されたという実験結果が。きちんとエネルギーを作り出し、きちんと代謝しているため肥満にもならないし、糖尿病にもならなかったのだという。また、骨も丈夫で老眼にもならない。いわゆる健康寿命が伸びたということだ。
「ここまでは2016年のワシントン大学の研究結果でもわかっていたこと。人間においては、糖尿病が改善するというデータが去年『サイエンス』に掲載されました。また我々が大阪大学と組んで行った実験では、半年間NMNを飲んだ高齢者の歩行速度や握力が上がったという結果も出ています」
NMNは、人類が生まれてはじめて口にする母乳に含まれているほか、ブロッコリーやアボカド、牛乳にも含まれているとのことだ。
「しかしそれらの含有量はごく僅か。ナダルタス®一粒で摂れるNMNをブロッコリーで摂ろうとすると、2000房ほど食べなきゃいけないという計算になります」
つまり、NMNはサプリで摂るのが一番効率が良さそうだ。
人生100年時代に事業化できそうなテーマが「老化の制御」だった
ではいち早くNMNサプリに焦点を当てNOMON株式会社を設立したきっかけ、そして自社サプリ「ナダルタス®」と他社との差別化はなにか。それらを深堀りするにあたっては、山名氏の経歴もそのヒントになる。
山名氏は1997年に帝人株式会社に入社。20年以上にわたり医薬品の研究に携わり、2年間ほど在籍したハーバード大学ではゲノム編集や遺伝子組み換え、細胞治療、老化全般の制御をするような研究を行ってきた。
2013年からは帝人グループの研究主幹を務める。その先も研究を続けるつもりでいたが、2017年にヘルスケア事業統轄補佐に選任された。そして当時の社長からある命題を託される。
「1918年に創業した帝人が2018年に100周年を迎えるにあたり『次の100年を考えろ』というお題をもらったんです。様々なことを考えた結果、これからの人生100年時代にいちばん具体的に事業化できそうだったテーマが『老化の制御』でした。なぜなら、比較的簡単なことで老化を制御したり遅らせたりできることを研究を通して知っていましたし、意外にもそれが最先端のグローバル研究が進むアメリカでさえあまり社会実装されていないということも知っていたからです。そこで、2年をかけてNOMON株式会社を立ち上げました」
地球上の「老化しない生物」の研究は進んでおり、「老化する生物」と細かく特徴を比較すると、老化させないためにするべきことが見えてくる。もちろん新薬や最新の医療機器を使うのではなく、例えばカロリーを制限するとか少しだけある物質を与えるなど、身近で些細なことで「老化をしない」状態に近づけることが分かった。NMNの摂取もその一つだったという。
「僕の場合は徹底的に文献を調べたり、それぞれの領域で世界トップの研究者を知っているので見解を聞いてみたり。承認前の新薬は飲んでみるわけにはいかないけれども、NMNは薬ではないので自分でも摂取できるじゃないですか。だから手に入れて飲んでみて、自分で『あ、効くな』と体感したら人にもすすめてみて。これは事業になるなっていう僕自身の実感から、ナダルタス®の商品化へのプロセスに移っていきました」
企業の参入が相次ぐ中、「ナダルタス®」の強みとは
2016年にNMNの論文が発表され、2017年に事業化の構想を練り、2019年にNMNサプリ「ナダルタス®」が発売されるまで実に3年。そのスピード感の中でも、毎日ユーザーが口にするものだけに、安心安全の担保は絶対的な大前提だった。
「NOMONのNMNは、パンやビールを作るいわゆる酵母から作られています。そのほかの製造工程でも食品成分でも認められたものしか使っていないですし、人での試験でも徹底的に血液検査などを行って全部クリーンなことを確かめています。その上で“一番良いNMN”を届けることにこだわっています」
そこで気になった「一番いいNMN」。そこが他社との差別化となるとしたら、それは純度のことを指すのだろうか?
「世の中でよく“純度99%以上”と謳うものがありますが、それは商品として当たり前。しかし99.9%の純度でも、ごく微量でも体に悪いものが入っていたらダメなんです。だから製造工程の全部、あるいはお客様に届く最後までの品質を保証したトレーサビリティ(「その製品がいつ、どこで、誰によって作られたのか」が追跡可能な状態)が完璧であることが我々の『いい』の基準であり、ナダルタス®は自信をもって一番いいと言えるんです」
ナダルタス®は30粒で6万円ほど。その値段の理由は、やはりその安心安全なトレーサビリティにあると言う。
「僕のような医薬品をずっとやってきた人間がこの業界に参入する価値は、医薬品をやっていたレベルで、製造工程からお客様の手元に届くまで品質の管理をしっかり意識できることだと思っています。ナダルタス®は完璧なトレーサビリティにこだわった。医薬品レベルでの安心安全を担保した分が価格に反映されています」
また、ナダルタス®のプロモーションにはアスリートが多数参加している。国際的なドーピングの検査もクリアし、アスリートでも摂取できる安心安全性の表現もさることながら、NMNの補充によるリカバリー力の向上の表現としてアスリート起用がマッチしている。
「加齢によりNADは減少しますが、激しい運動でも減少してしまうんです。一日運動してエネルギーを作り出すNADが減少した体にNMNを補充すると、より強い疲労回復力が得られるという理論です」
さらにNOMONのナダルタス®を愛飲しているアスリートたちは、実際に効果を体感しNOMONのミッションに共感した人ばかりだそうだ。
山名氏が描くちょっと不思議な未来の風景
ナダルタス®をはじめとしてサイエンスに基づいた商品で「プロダクティブ・エイジング(最期の日まで、元気に歳を重ねること)」を提唱するNOMON社。山名氏が描く未来は「年齢」と「元気さ」が関係なくなる社会だ。
「みんなに人生最期の日まで元気でいられる選択肢を提供したい、というのが企業の願い。個人的には高齢者が元気になって、見た目も若者とわからなくなって、ちょっと不思議な景色になったとき、自分たちがやっている仕事が少し貢献できたかなって感じるんでしょうね」
そんな未来を実現するためには、誰もが手に入る価格でのナダルタス®が必要ではないかと山名氏に問うと、以下の答えが返ってきた。
「当社のサプリの2019年の売出し時の価格は15万円で、今は6万円ほどです。いつとは明言できませんが、それ(低価格化)は間違いなく約束できます。私たちの長期的ビジョン、ミッションは『Well-being for Everyone』。『Everyone』と宣言していますから」
自身の老化のスピードとナダルタス®の低価格化。NOMON社の早期のミッション実現を期待したい。
[1]ISO 9001とは、品質マネジメントシステムに関する国際規格です。最も普及しているマネジメントシステム規格であり、全世界で170ヵ国以上、100万以上の組織が利用しています。
[2] cGMPとは、米国の栄養補助食品の法規制である21CFR Part111と要求事項が一致する同機関のNSF/ANSI Standard 173,Section8への適合性が認められ、きわめて高い品質基準に適合していることを保証するものです。
PROFILE|プロフィール
山名 慶(やまな けい)
NOMON株式会社代表取締役CEO。
筑波大学人間総合科学科博士号取得。1997年帝人に入社以来、20年以上にわたり医薬品研究に携わる。また、帝人株式会社ヘルスケア事業統轄補佐として、ヘルスケア事業領域、特に新事業の創出(医薬品の研究開発や医療機器の研究開発、国内外製薬企業との共同研究開発)を担当。帝人グループ研究主幹として帝人グループ全体(グローバル)の研究をリード。また2008年よりハーバード大学医学部歯学科へ2年間留学。客員研究員として骨粗しょう症にも関連する骨代謝について研究。自らが発起人となり、2019年11月、明治ホールディングス、島津製作所、帝人、オリエンタル酵母工業と共に「プロダクティブ・エイジング コンソーシアム」を設立。
https://www.nomon.jp/
Text by Junichi Suzuki(ALTANA inc.)
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