2022年7~9月期の「転職求人倍率」を算出しましたので、職種別・エリア別の転職マーケット状況とあわせてお知らせいたします。
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全国の転職求人倍率
転職求人倍率は2.43倍(前期比+0.64ポイント)
採用長期化に伴い、全職種で転職求人倍率は2倍越え。コロナ前の転職希望者優位の市場へ
アパレル・ファッション業界の2022年7~9月期の転職求人倍率は2.43倍となり、2020年10月の調査開始以降、初めて2倍を超えました。また、「マーケティング」を除くすべての職種の転職求人倍率が前期より上昇する結果となりました(表①参照)。こうした状況から、アパレル・ファッション業界は、コロナ流行前の転職希望者優位の状態に戻ったと言えるでしょう。
ここまで大きく転職求人倍率が上昇した背景には、「登録者の減少」と「採用活動の長期化」があります。7~9月期は、セールや秋冬シーズンの立ち上がりの時期であることから転職活動を控える人が増え、登録者数が減少。それに加えて、企業は引き続き即戦力重視の採用を行っていることから採用活動が長期化し、新規求人数は前期比89.2%と減少したものの、転職求人倍率は大きく上昇する結果となりました。
今後年末にかけて新規求人数は増加すると見込まれるため、転職求人倍率は来期も上昇すると考えられます。
他職種より転職求人倍率が低い傾向にあった「販売/店舗系」(販売職)は前期を大きく上回り、転職求人倍率は2.76倍。労働力不足が深刻化の兆し
「販売/店舗系」すなわち販売職の転職求人倍率は前期比+0.94ポイントの2.76倍となりました。7~9月期は、入国規制の大幅緩和が予想されたこと、また歴史的な円安であったことから、インバウンド需要の回復を見込む企業が増加。ラグジュアリーブランドを中心に、来年以降の新規出店計画を見越して販売員の採用を活発化させました。加えて、コロナ流行後は停滞していた外国語を話せる人材のニーズも高まるなど特定のスキルに秀でた人材を求める企業が増加しているため、即戦力となる人材は引く手あまたな状態が続いています。
また、コロナ流行直後は「将来への不安」から転職を希望する登録者が多かったのに対し、最近は「キャリアアップ」を目的に転職を希望する登録者が増加しています。アパレル業界では、アパレルメーカーから、よりブランドの世界観の体現、老若男女問わず対応できる接客力が求められるラグジュアリーブランドへの転職を「キャリアアップ」と捉える傾向があるため、国内メーカーの採用難易度はより一層高まっています。こうした採用難易度の高まりを受け、国内メーカーでは未経験採用を積極的に行う企業も増加しているものの、人員確保ができている企業は一部にとどまり、労働力不足が深刻化しつつあります。
円安の影響はアパレル業界でも散見。影響を受けたOEM企業では、「営業」などのポジションで人員補充。アパレルメーカーは、海外卸を目的に、SNSでの海外発信に注力するケースも
歴史的な円安が続く中、アパレル・ファッション業界においてもその影響を受けている企業が多く存在します。特に、他メーカーの製品を製造するOEM企業においては、素材価格や物流コストの上昇などを背景に、想定していた製造コストより実際にかかったコストが上回るケースが多いため、メーカー側と調整を行う「営業」の業務負荷が増しています。こうしたことを背景に、人員補充のために営業職の採用を行うOEM企業が増加傾向にあります。
一方、この状況をチャンスと捉える企業もあります。海外企業への卸売りの促進を目的に、国内アパレルメーカーでは、海外に向けてSNS発信を注力する企業が増加傾向にあります。そのため、「プレス/販売促進/VMD」に分類されるSNS担当のうち、海外発信向けの専任担当者を募集するケースが見られ、海外のSNSトレンドを抑えている人材や、英語や中国語ができる人材のニーズが高まっています。
引き続き「EC」をけん引するデジタル人材のニーズは堅調。今後「越境EC」の需要も高まる見込み
「EC」は新たな局面を迎えつつあります。今までは国内メインでしたが、「越境EC」つまり「ECでの海外進出」を狙う企業が増加傾向にあります。そのため、「WEB/EC」「マーケティング」では、従来の自社ECサイトのUX向上や、国内モールを含むECの売上伸長のためのデジタルマーケティングはもちろんのこと、海外向けの自社ECサイト構築や海外モールへの出店経験がある人材のニーズが高まりつつあります。今後、アパレル業界で越境ECの注目は高まり続けると想定されるため、英語・中国を中心とした語学スキルのある人材はもちろんのこと、他業界から海外モールの担当をしていた人材を獲得する動きがより顕著に高まると言えるでしょう。
スポーツアパレルブランドでは、他社との差別化をはかるためハイレイヤーの採用を活発化
コロナの流行を機に、スポーツ需要は拡大。それに伴いゴルフやランニング、ヨガウェアといったスポーツアパレルのニーズも高まりました。この2年ほどでスポーツアパレルの市場が飽和状態となるなか、他ブランドから抜きんでるために、「デザイナー」「MD(マーチャンダイザー)」「営業」といったポジションで年収600万円以上のハイレイヤークラスの採用を行う企業が増加しています。
とくに、商品面で差別化を図るために「機能性」を兼ね備えた「デザイン性」のあるアイテムを生み出そうと考える企業が増加し、商品企画を行う「MD」や商品を生み出す「デザイナー」の需要は高まっています。しかし、機能面での知識を持つ人材は少ないため、給与額を引き上げてそういった知識をもつ経験者を採用しようとする動きがみられています。
エリア別 転職求人倍率
リニューアルに伴う増員を背景に、転職求人倍率は全エリアで上昇トレンド。
郊外エリアでは、採用難を背景に期間を前倒して採用する企業が増加。
エリア別でみても、転職求人倍率は上昇。全エリアで転職求人倍率は2倍を超えています(表②参照)。一方、新規求人数は、全エリアで減少傾向にあります(グラフ②参照)。
中部・東海、関西エリア:百貨店やファッションモールのリニューアルに伴い人員増員をする企業が増加
中部・東海、関西エリアは、新規求人数は前期比でマイナスとなったものの、転職求人倍率はプラスとなりました。(表②)両エリアともに、百貨店やファッションモールなどのリニューアルを背景とした人員増員を行う企業が多く、「販売職」のニーズが高まっています。とくに中部・東海エリアでは名古屋駅エリアを中心にその傾向が顕著にみられています。一方で、企業の採用基準を満たす人材が少ないことから採用活動がスムーズにいかず、採用期間を従来より前倒する企業が増加しています。
関西エリアでは、「未経験採用」および「ミドル世代の採用」が増えてきています。採用難から、未経験採用が復活しているものの、未経験人材を育成する人材やマネジメントできる人材が不足しているのが現状です。そこで、今までは今後のキャリアを見越して採用活動を行っていた企業が、育成経験やマネジメントスキルに長けているミドル世代を採用する傾向がみられています。
北陸・甲信越エリア:金沢の香林坊エリアを中心に採用が活発化
北陸・甲信越エリアでは、転職求人倍率が4倍を超える結果となりました。元々、登録者が少ないエリアであることから採用期間が長期化していることが要因の1つに挙げられますが、加えて、観光客の回復を見越したリニューアルや増床などに伴い金沢県香林坊エリアで採用が活況になっていることも転職求人倍率が大きく上昇した要因だと言えます。北陸・甲信越エリアは都心部エリアと比較して採用条件がかなり緩和され、ラグジュアリーブランドでも未経験採用を行う傾向にあります。
<算出方法>
求人倍率算出方法:転職求人倍率=求人数(採用予定人数)÷登録者数
求人数:算出期間に新たに登録された新規求人数(採用予定人数)と、算出期間以前からの繰越求人数(採用予定人数)の合算
登録者数:算出期間に新たに登録した新規登録者数と、算出期間以前から継続登録している繰越登録者のうち算出月に1件以上の求人に応募した登録者の数を合算
解説者プロフィール
クリーデンス 事業責任者 河崎 達哉(かわさき たつや)
1984年、兵庫県生まれ。
2008年、株式会社インテリジェンス(現社名:パーソルキャリア株式会社)入社。
キャリアアドバイザーとして、IT・ウェブ領域や金融、医療を担当。
また、さまざまな業界のハイクラス層の転職も支援。
これまでに支援した転職希望者は、1,500名を超える。
キャリアアドバイザー部門のゼネラルマネジャーを経て、
2019年4月からは「クリーデンス」の事業責任者として、
アパレル・ファッション領域の人材サービスをけん引している。
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