株式会社トーマネが製作した、手漉き和紙100%のマネキン「Waltz」。
茨城県常陸大宮市の無形文化財「西ノ内和紙」を素材としたマネキンで、2022年10月7日にはグッドデザイン賞を受賞するなど、注目を集めている。
審査委員からは「伝統工芸の素材と技術を応用することで、環境負荷の軽減やリサイクル性の向上を実現している。同時に軽量化による設置性の向上など、製品に求められる機能にも貢献している」と高い評価を受けた。
「Waltz」製作にあたっては「脱プラスチック」と「地域貢献」「SDGs」がキーワードになったというが、なぜ老舗マネキンメーカーが新たなマネキンづくりに取り組んだのだろうか。
今回は、同社の社長室執行役員である岩下沢子さんに「Waltz」の製作経緯と今後の展望について聞いた。
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トーマネの原点は日本人形の名工・山川永徳齋
株式会社トーマネはマネキン人形の製造・レンタルを始め、什器・オーナメントなどのディスプレイツール製作、POPUPストアのプランニングなど商空間のプロデュースまで幅広く事業を展開しているが、同社のルーツは日本人形の名工・山川永徳齋にある。
「弊社の初代社長・岩下亀之助は手先が器用で永徳斎のもとで五月人形の甲冑師をしていました。太平洋戦争に突入し、時代の要請もありマネキン人形製作を手がけるようになった永徳斎は、岩下をマネキン部の⻑として選びます。その後に独立し、永徳斎にマネキン人形を納めるようになり、トーマネの前進である東京マネキンが創立されました」
トーマネのルーツとなった人形司永徳斎を彷彿とさせる日本の伝統工芸「西ノ内和紙」を100%使ったマネキン「Waltz」。なぜ「Waltz」を製作することになったのだろうか。
「Waltz」製作のきっかけは脱プラスチックと地域貢献
岩下さんによると、一般的なマネキンはFRP(繊維強化プラスチック)で作られているが、2022年4月から「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行されたことに対応するという側面があった。
「日本のマネキン人形やディスプレイ什器はレンタルシステムを利用した完全回収型です。FRPは最終的にセメントの原燃材料とするなどリサイクルを行っています。よって環境に負荷のかからない製品と考えております。しかし、4月の法律施行によりFRPにも規制が生じたことで、FRPに代わる何かを模索する必要があるとは考えておりました。その思いがWaltzに繋がっています」
同法は、2050年のカーボンニュートラルに向けてプラスチック製品に対する規制の必要性が高まりを受けて施行された。事業者はFRPを含む「プラスチック製品使用設計指針」にしたがって、プラスチック使用製品を設計したり、廃棄物の排出を抑制したりするなどの役割が盛り込まれている。
そして、FRPに変わる素材を選定するにあたっては、地域貢献を意識し、トーマネの工場がある茨城県で350年の歴史をもつ「⻄ノ内和紙」を採用した。
「弊社は茨城県の古河市に工場があります。Waltzを製作するにあたって、長く市場に生かされた企業として、何らかの地域貢献を行いたいと考えながら素材を探しておりました。いくつか素材として検討する中で、茨城県の常陸大宮市に「⻄ノ内和紙」という350年の歴史を有し無形文化財となっている那須楮(なすこうぞ)100%の手漉き和紙を知ることができました。
江戸時代から火事が起こった際に川に投げても字がにじまず紙が切れることもないとされ出納帳として使用されていました。 私たちが⻄ノ内和紙を原材料として、マネキンを製作することで少しでも無形文化財を皆さんに知って頂くきっかけや、地域に貢献できたらと考えていました」
那須楮は緻密な長い繊維で高い耐久力の紙を生み出す。その和紙100%である「Waltz」は、廃棄時に再び和紙に戻すことができる。自然から生まれ自然に還ることのできるマネキンだ。
また、製造の過程で有機溶剤を使用せず、研磨を行わないことで粉塵も出ず、さらに完成した一体の重量は現FRP製品と比べて約80%減となる軽量化も果たした。
あらゆるディスプレイを和紙に
製品完成後に「Waltz」に対する反響はどのようなものがあったのだろうか。
「SDGsの観点からマネキンだけではなく様々な造形に対応可能なところも反響が大きかったと感じています。型があれば同じ方法で造形が製造できます。現状ではブルドッグ・ネコ・ラブラドール・ディスプレイトルソーなどがございます。
弊社は製造方法に関する特許を取得しており、マネキン人形だけでなくあらゆるディスプレイを『Waltz』と同じ製造方法で和紙に置き換えることが可能であり、日本の無形文化を知って頂きながらファッションや商業に貢献できると考えています」
「Waltz」の名称の由来は「和+ルーツ」。同社のルーツが日本人形の名工・山川永徳齋だったように、日本の伝統文化を継承していくことにも力を入れている。
今後も「見たことないもの」をキーワードに
トーマネは、和紙マネキン以外にも、様々なマネキンを生み出している。
「弊社ではマネキン人形に関してはKERENシリーズとYOシリーズの2つがあります。KERENは我々の技術とアイデアの最高峰の製品で、YOは使い勝手に特化した使用する側の『これはダメ』をそぎ落とした製品です。
KERENシリーズで10月に『Vive La Vie』の他に『Heartful』というシリーズも展開しました。ペアというレアなシリーズで男性&女性、女性&犬(ペット)、女性&女性など様々な愛の温かい形を表現しました。
好奇心を失わず『見たことないもの』をキーワードに、私たちならではの技術とアイデアで製作を続けたいと思います」
マネキンを通して、今後SDGsに関してはどのように取り組んでいくのだろうか。
「基本的にはFRPでも完全にリサイクルします。使用できなくなるまでメンテナンスを行い、レンタルしています。この形もSDGsと考えておりますが、日本ならではの日本文化を視野に入れたSDGsに取り組んでいきたいと考えています」
脱プラスチック、SDGs、そして地域貢献。ルーツである日本文化を意識しながら、柔軟に時代の変化に対応する同社に今後も注目したい。
Text by Asami Tanaka
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