年々厳しくなっていた専門店向け卸販売のビジネスはコロナ禍でECとの競合も激化し、苦境に拍車をかけた。メーカー側も小売店側も在庫リスクを避け、受注生産・販売にとどまらざるを得ないため、追加フォローに対応できるメーカーもなく、ヒット商品は生まれにくい環境になって久しい。そうした中、メンズブランド「DCホワイト」「MIDA」を運営するS&Oコネクト(東京)は限られた卸先の個店と濃く太い関係を構築することで「一緒にブランドを育てていく」取り組みで成果を上げている。特にリブランディング中のDCホワイトで、今春夏と秋冬向け紺のブレザーのヒットに貢献した卸先の一つ、静岡県浜松市の「シトロン」との取り組み事例を追った。
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S&Oコネクト「DCホワイト」
卸先を厳選し太く濃く
S&Oコネクトのジャケットを軸としたトラッドテイストのブランド「DCホワイト」は立ち上げから6年目となる。リブランディングでブランドを象徴するような〝顔となる商品〟作りに着手し、22年春夏物から1シーズンに1アイテムを掘り下げる「アルティメット」シリーズをスタートした。その際、こだわり抜いた商品を作り込むのはもちろんだが、「従来型のメーカーのように出荷したら終わりではなく、情報発信や店頭消化まで協力し合い、ヒット商品を作っていける卸先との関係づくりが不可欠」と営業企画の石原協氏。そのためには、まず、ブランドの商品や提案力、方向性に共感してもらえる卸先とがっちり組まなければならない。その上で、「店がほしいタイミングに、ほしい量を安定供給できるのがメーカーの役割」と考えた。
卸先との新たな関係づくりでは、シトロンを含む3店にはDCホワイトの企画会議にも1シーズンに1度、参加してもらい、店頭の声など意見をもらうところから始まり、商品投入後も販促策の相談など密に情報共有を重ねる。今春夏の紺のブレザーでは1商圏1店の原則で3店を含む限定15店と組んだ。取り組み店には初回設定したミニマム数量を仕入れてもらう分、追加フォローを約束し、ある程度の期間をかけてヒット商品に育てる戦略だ。取り組み先を厳選するには、「店の販売力や発信力はもちろん、バイヤーやオーナーの審美眼を前提とした人柄を重視する」という。
ここ数年のメーカーとショップの関係で目立つのは、安易な別注対応。さらには小ロット生産対応の工場が増えたことで、ショップオリジナルの開発も増えている。別注品やオリジナルを販売した方がオーナーの思い入れも強く、利益面のメリットも大きいためだろう。しかし、それではメーカー側のブランドが育つ環境がなくなってしまう。ヒット商品のサイクルやブランドの寿命がどんどん短くなる中、メーカー側も、やみくもに卸先を拡大するのではなく、じっくり商品のクオリティーをグレードアップさせながら、店や顧客の期待を裏切らない提案が欠かせなくなってきた。
今後も卸先にとって「おかず」(トレンド商品)というよりも「米の飯」(定番品)として売れ続ける商品を提供していきたい。そこには単なる定番ではなく、ブランドの芯はぶらさず、思い入れを込めた深掘りと飽きさせない企画力をプラスすることが重要になる」とみている。
「シトロン」(浜松市)
リアルな店頭情報を共有
今年3月に開業した静岡県浜松市のメンズセレクトショップ「シトロン」はリブランディング中のメンズブランド「DCホワイト」との深い信頼関係に基づく取り組みでヒット商品を生み出している。開業から約半年にもかかわらず、メーカーと良好な関係を確立できているのは、長沼功佑代表が独立前に勤めていた東京・上野のセレクトショップ「フリーポート」の時(約10年前)にS&Oコネクトの営業企画担当の石原協氏とは知り合いだったからだ。DCホワイトの立ち上げ当初から取引もあり、リブランディングにも協力することになった。
長沼代表自身がトラッド好きで、フリーポートの頃からトラッドやアイビーベースの商品を扱ってきたため、新店のシトロンでも「いつ来ても同じモノが売っている店にしたい」との思いから、長く着られる普通の服を揃える。一度つき合ったメーカーとは基本的に長く取引を続けることが多いという。DCホワイトとの取り組みも前職からの延長線上にある。今回の取引でも店とメーカーが〝ウィンウィン〟の関係づくりを目指した。仕入れ条件を整え、リスクを対等に分散するようにした。メーカーが一定の在庫量を確保し、サイズ欠けなどによる販売機会ロスを防ぐため追加フォローの体制を組んだ。その分、店側もSNSやECなどでの情報発信や店頭での打ち出し、接客などに力を入れた。店頭の状況やリアルな顧客の声も定期的に共有し合った。その結果、DCホワイトの紺のブレザーをはじめとした商品は毎月、売り上げ上位となった。
同店の客層は40代後半~60代の大人の男性が中心。「いろいろなファッションを経験してきた世代で、トレンドよりもクオリティー重視で、生産背景や歴史に投資したいという気持ちで購入する人が目立つ」という。地元が中心だが、三重県や愛知県からドライブがてらに来店する客も多い。前職の店長時代からの長沼代表のファンも東京などにいるため、EC比率も高い。インスタグラムで情報を広く拡散しながら、ブログで商品への思いを含め、詳細を伝えることで、顧客からの信頼を得ており、ECでの購入や来店のきっかけになっている。店頭の接客でもインスタやブログの効果から、商品説明に多くの時間を割かなくても、雑談の中からスタイリングでの購入につながる。
卸先に寄り添った戦略をとる専門店向けのメーカーが少なくなる中、協力し合ってヒット商品を生み出す取り組みは希少な存在。「今後も
安易な売れ筋を追いかけることなく、DCホワイトにしかできない、こだわりを追求し続けてほしい」(長沼代表)としている。
(繊研新聞本紙22年10月27日付)
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