伊勢丹新宿本店と阪急うめだ本店がコロナ禍の余韻がありながらも、どちらも過去最高売上高を記録した。
ADVERTISING
伊勢丹新宿本店の売上高は3276億円、阪急うめだ本店は2611億円だった。一時期、少し差が縮まった伊勢丹と阪急の売上高だが、ここにきてその差が660億円と少しさらに開いた。
要因はさまざま考えられるが、東京と大阪の人口差は前提としてあるだろう。さらにいえば客単価が伊勢丹の方が高いのかもしれない。阪急うめだ本店には「これもうちょっと値下げでけへんの?」と平気で値切ってくる大阪のおばちゃん客が少なからずいることからわかるように、東京の百貨店客層に比べて、よく言えば締まり屋、悪く言えばケチが多い。
少し余談だが、実際に阪急うめだ本店でポップアップを行うと、1日に何十人かは「これ、もっと値下げしてくれへんの?」と値切るおばちゃん客が必ずいる。出店者に聞くと「東京の伊勢丹で値切ってくる客はいなかったので、大阪の値切るおばちゃん客は異次元の存在です」と口を揃えるほどである。
それはさておき。
東京と大阪の百貨店一番店の好調さが際立っているが「百貨店復活」とは決して言えない状況にある。百貨店全体の売上高はコロナ禍ピーク時よりは回復しているものの、全盛期とは程遠い。そして今後も全盛期の9兆円規模に回復することはあり得ないだろう。
全国の百貨店店舗数は順調に減り続けている。
日本百貨店協会の発表によると23年3月末の全国百貨店店舗数は181店舗にまで減少している。コロナ禍が始まる直前の2019年12月末の百貨店店舗数は208店舗だったから、27店舗減少していることになる。
たしか、2019年後半から2020年前半にかけては「全国百貨店店舗数が200店割れしそう」という話題になっていたと記憶しているが、今や200店舗割れどころか「180店舗割れ目前」である。今年中か来年中には間違いなく180店舗割れを実現してしまうだろう。
例えば、先日、伊勢丹新宿本店過去最高売上高の発表とほぼ同時に名鉄百貨店一宮店の2024年1月閉店が発表された。
今後も間違いなく、一宮店のような郊外型・地方型の小型百貨店の閉鎖・撤退は続いて途切れることはないだろうと考えられる。
地方・郊外の百貨店は全般的に中小型店ばかりである。ハッキリ言って狭くて品揃えバリエーションが少ない。近隣に大型ショッピングモールが出来れば絶対に負けてしまう。とりわけ、一度でも大型ショッピングモールのテナントバリエーションの豊富さを目にしてしまえば、地方・郊外の中小型百貨店のショボさがより目に付いてしまう。
また、都心大型百貨店が近隣にある場合はそちらに客を吸い取られてしまう可能性も高い。
尾張一宮には少しだけ土地勘があるのだが、電車移動する場合、JRの新快速に乗れば10分強でJR名古屋駅に到着する。名鉄の特急快速に乗っても15分で名古屋駅に到着できる。
当方は名古屋から岐阜に移動する際、JRの新快速に乗るのだが、尾張一宮と名古屋の距離は物凄く近く感じる。岐阜まででも20分弱で到着してしまう。
そうなると、百貨店客層でさえ、中小型の一宮店でわざわざ買い物せずとも名古屋市内の大型百貨店で買い物をしたいと考える人は多いだろう。当方が尾張一宮市に住んでいたら、間違いなく名古屋市内の大型百貨店で買い物することを選ぶ。
岐阜市内に住んでいる人でさえ「電車で20分弱で名古屋市に行けるから、買い物とか飲み会は名古屋に行くことが多いですね」と言うくらいだから、電車で10分ちょっとの尾張一宮市の人なら尚更名古屋まで行ってしまうだろう。
地方・郊外の中小型百貨店の敵は大型ショッピングモールだと考えられる場合が多いが、近隣の都心大型百貨店も強敵となっていると考えた方が辻褄が合うだろう。
数年前までの当方は、そうは言っても「中元・歳暮などの贈答品は地元百貨店で買う需要がそこそこはあるだろう」と考えていたが、百貨店でもある程度はネット通販に注力している現在、地元の中小型百貨店で買う需要はかなり減少していると考えている。
衣料品の場合、試着ができるかできないか、特に高額な衣料品の場合はネックになる部分が多いと感じるのだが、中元・歳暮などの贈答品で、よほど凝ったパーソナルな商品を贈る場合以外、有体にいえば決まりきったコーヒーの詰め合わせとか、定番のハムの詰め合わせとか、缶詰詰め合わせだとか、そんな物はわざわざ実物を見る必要も無い。それこそ百貨店のネット通販でポチれば十分だ。あとは送付先をこちらから指定して熨斗を貼ってもらえれば事足りてしまう。
今回の名鉄百貨店一宮店の閉店によって、愛知県内には名古屋市以外には百貨店が無くなるそうである。今後は他の都道府県でも政令指定都市級の大都市以外には百貨店が無くなってしまうのではないかと当方は見ている。ただ、大都市であっても不採算百貨店は生き残れないだろう。例えば名古屋市でも業績の低迷が続いた老舗の丸栄百貨店は閉店してしまっている。
正確に言うなら、採算が取れている大都市百貨店以外は生き残れないという未来しか見通すことはできない。
最終的には全国百貨店店舗数はもっと減ってやがて底打ちするのではないかと思っている。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【南 充浩】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
sacai Men's 2025 SS & Women's 2025 Spring Collection