昨年11月、最新コスメを試すことができる体験型美容テーマパークとしてオープンした『Tierland』は、Z世代、α世代を中心に来場者は1万人を突破。だが、そんな『Tierland』は商品の販売を主とはしていない。『Tierland』はリアル店舗での体験データを同名のアプリで集計し、出展メーカーに提供するビジネスを展開。今や、大手をはじめ多くのメーカーに採用されている。気になるその仕組みについて、同ショップ・サービスを運営する株式会社トレンドキャスケットCEOの二階堂京介氏に話を聞いた。
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テクノロジー×小売りでユーザーデータを可視化
テクノロジーやデータを活用した小売システムを他社に提供する「RaaS(ラース)」が注目されている。「Retail as a Service」の頭文字を取った略称で、直訳すると「小売業のサービス化」となる。『Tierland』も、リアル店舗での体験とアプリで得られるデータを提供するRaaSモデルのサービスである。「ビジネスの仕組みとしては、各メーカーさんと月額契約を結び、ECへの送客や店頭での体験機会を提供しています。たとえば大手のコスメブランドの場合、これまではメーカーと生活者の体験機会はデパートしかありませんでした。『Tierland』はデパートとドラッグストアの中間の位置づけとなり、『試す』『体験できる』場所を設けつつ、そこで得たZ世代、α世代のデータをメーカーに提供しています」
『Tierland』の設計はこうだ。まずメーカーはリアル店舗『Tierland』に売り出したい商品をフルラインナップで出展する。ユーザーはアプリを通して予約をして来店し、そこでサンプルを試したり、体験イベントに参加したりすることができる。そして店頭ではアプリがリサーチツールとなり、ユーザーへのアンケートを自動的に分析し、その結果をメーカーにレポーティングする。この一連の仕組みは『Tierland』の特許システムとなっている。こうしてメーカーはユーザーと商品の接点を得られるだけでなく、来店したユーザーのリアルな声によるSNSでの拡散が期待できる上、アプリで集められたアンケート結果や行動データのレポートを商品開発やマーケティングに活用することができるようになる。質の高いデータを集めるには大きな母数が必要だが、『Tierland』は店舗への高い集客を実現している。「リアル店舗を『体験型の美容テーマパーク』と位置づけ、無料で受けられるネイルやメイクアップ体験、肌診断のサービスなどを用意しています。ユーザーはメーカー提供の商品を体験してSNSで発信したり、アンケートに答えたりすると、この無料サービスが受けられるシステムになっています。この無料サービスが高い集客力につながっていて、アプリのダウンロード数の実に35%がアクティブユーザーになっています」
D2Cブランドや海外メーカーが重視する「体験」ニーズ
『Tierland』のユーザーのほとんどはZ世代やα世代であり、コスメの情報収集をSNSで行い、そのままECで購入することも多い層だ。
「この世代は、圧倒的にTikTokを情報源に購入するケースが多いです。憧れのインフルエンサーがおすすめする商品をそのまま購入する『推し買い』も起きています。しかしその一方で、試さずに買ったコスメが自分に合わないという事例も増えています。ですので、スマホひとつで完結してしまう『認知・共感』から『購入』のプロセスの間に、『体験』の機会を置くことが重要だと考えています」
この「体験」は、既存の大手ブランドだけでなく、ここ数年で台頭した国内D2Cブランドにおいても課題となっており、「一度は新商品を試してもらいたい」というニーズとマッチした。さらに中国系ブランドなど日本初上陸の海外メーカーにとっても「体験」の場は貴重であり、まさに『Tierland』がその場所を提供している。
「『Tierland』の実店舗に来るユーザーたちは、滞在時間が長いのも特徴です。ショップには常時30強のメーカーが出展しています。店頭では自分のお目当て以外の商品にも出会い、試してみて購入につながるケースも多いです。また肌診断や、定期イベントの“基礎化粧品講座”などの『体験』を通して選ばれた商品は、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が長くなる傾向もあります」
都市型モデルの次は地方モデルを成功させ、全国へ展開
Z世代やα世代に向けた商品では、やはりSNSマーケティングの重要性が増しているものの、いまだにうまく活用できていないメーカーも多いのだという。「ドラッグストアで取り扱われているような国内の中堅メーカーでも、意外とSNSマーケティングをしていないことがあります。そうしているうちにSNSでのプロモーションをする前提で商品を作りマーケティングをし、バズらせてくる韓国系や中国系のメーカーに押されてしまう……そんな現象が起こっています」こうしたマーケティング戦略の有無は、ドラッグストアでの棚取りにもかかわってくるのだそう。「あるドラッグストアでは棚取りを決める際に、各メーカーから『今年はいくらの予算をかけて、どれだけのプロモーションをやるか』という計画を提出させることも多いそうです。それをもとにその商品をどれだけ仕入れるかといった取り扱い方を考える時代になってきています。そんななか、たとえば中国系の新興メーカーが立ち上がりからいきなり10億円ものプロモーションをかけることもあるので、十分な予算が確保できない日本のメーカーは売り場を落としてしまいます」そんな若い世代を巡る棚取りやマーケティング環境の変化には、大手メーカーも敏感に反応しているという。「マスマーケティングを得意とする大手メーカーでも、Z世代以下からの手応えが得られないというケースも増えているようです。『Tierland』なら、これまでの手法が通じない新しい世代のデータを収集できるので、そこは大きなメリットになっています」さらにデータだけでなく、『Tierland』独自のシステムが生む他のメリットに着目したニーズも増えている。
「『Tierland』のシステムの強みはリアルにユーザーを“集客できる”ということでもあり、現在、さまざまな商業施設から好条件での出店依頼を受けています。また、新発売の商品のファーストフェーズとの相性が良いサービスでもあるのですが、このシステムを使って、その後のwebマーケティングやECの展開にも携わってほしいといった依頼も増えています」
2023年の6月には大宮アルシェに2号店を出店。今後の展開としては国内に10店舗くらいまで増やしていきたいとのことだ。
「大宮に出店するのは、原宿で『都心モデル』ができたので、次は『地方モデル』を成功させたい、という意図もあります。地方都市でのモデルも成功すれば、全国各地に『Tierland』を作ることができ、企業は全国区でデータをリサーチすることができるようになります。Z世代、α世代が消費の核となるにつれ、リアルとテクノロジーを融合した『Tierland』のデータがさらに有益になってくると思います」
二階堂京介(にかいどう きょうすけ
株式会社トレンドキャスケット社 CEO
ファーストリテイリング、トヨタ自動車東日本、 株式会社ピアズを経て現職。大学卒業後、 株式会社ファーストリテイリングにて店舗管理を担当。 その後、 トヨタ 自動車東日本株式会社にてカローララインをはじめとした生産技術プロジェクトに従 事。 株式会社ピアズに第二創業メンバーとして参画。 その後、 コーポレート統括本部長 として東証グロース市場へ上場、上場後はリモートワークボックスやリテールテックプラットフォームといった新規事業を手がける。
Text by Junichi Suzuki(ALTANA inc.)
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