ループ・オブ・ザ・ルームは、ニューヨークでさをり織りとベンガラ染めを教えているスタジオだ。染めや織りの技術を染織家だけではなく誰でもできるようにし、伝統を受け継ぎながら生活の一部に染織文化を生かすことを目指している。創業者の佐藤根有可子さんは、2005年にニュージャージー州のイングルウッドに1軒目をオープン。2008年にマンハッタンのアッパーイーストサイドに移転し、長年地道に日本の染色と織物を伝道してきた。手を使って何かをつくることは癒しになる。加えてサステイナブルな工程が、コロナ以降ますます人々を惹きつけているようだ。
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ニューヨークでは9月はテキスタイル月間で、テキスタイルに関するさまざまなイベントが市内のあちこちで行われる。ループ・オブ・ザ・ルームは、2019年にオープンしたダンボ店で染めのワークショップを行った。インディゴとベンガラをミックスした染めが特に人気で、12人が参加。藍の生葉を発酵・沈殿してできた顔料を「藍錠」と言い、ループ・オブ・ザ・ルームで扱うベンガラメーカー「古色の美」(大阪)の藍錠染めは水に溶いて染める藍染めで、手軽に染められる。佐藤根さんによると、アメリカ人は藍染めが好きで、自然な色を好むと共に、色があせるのは自然なこととして経年変化を楽しむ。
ロサンゼルスからこのワークショップに参加するためにニューヨークにやってきたコスチュームデザイナーの女性は、いつも生地と染めが好きで、もっと生地について学びたい、自然なものが好き、織物や陶芸もやっているという人だった。5月に初めて日本に行き、インディゴについて学ぶ機会がなく、2ヶ月前にさをり織りを体験。その後、今回の藍錠染めのワークショップを知って参加した。ロサンゼルスにはこのような場がなく、いろいろな異なる染めの手法を学びたいと話してくれた。
インディゴ染めを以前やったことがあるという女性は、ブルックリン在住の弁護士。何かに集中し、細部に集中し、クリエイティブなことをすることで、リラックスできるという(写真の左手が佐藤根さん)。
ループ・オブ・ザ・ルームで働いている娘からプレゼントされて参加したというプロダクトデザイナーの男性は、こうした染めは初めての体験だったが、「面白い。ルールがなくてなんでもOKなのがいい」と語った。
染めのプロセスが終わって乾かしている間、スライドを見せながらベンガラ染めの由来などについて説明する時間があり、参加者たちからは「染料の色が違うのは違う泥だからということなのか」などの質問が出た。
ダンボ店では、古色の美の企画・開発・デザインを担当している小渕裕さんのベンガラ染めの個展も開催された。
ベンガラ染めに使う土の半分は、大阪・交野市の水道局でフィルターをかけた後に採取された土泥。地下300メートルという深い地層から水をくみ上げる時に一緒に混ざってくる土で、乾燥させると酸素に触れて黄土色になり、酸化鉄と呼ばれる天然ベンガラになる。長年「汚泥」として大阪の海に廃棄され続けてきたものだが、当時の水道局の職員の方がSDGsに関心があり、小渕さんにその泥を泥染めに使えないかと送ってきたそうだ。水道局ではタンクの清掃を年に1回行う。その際に小渕さんがタンク内にアクセスされてもらい、バケツでくみ上げて持ち帰るという。佐藤根さんが送ってくださった写真でその状況を垣間見れる。
この土に棲む多様なバクテリアの作用により、きれいな飲料水となり、人々の生活を支えている。「汚泥」として廃棄するのではなく、再利用することで美しい色となるのだ。
ループ・オブ・ザ・ルームはダンボ店をオープンした翌年、コロナで店を一時閉店せざるを得なかった。再開した頃は、自宅勤務となった近所の人たちが染色を習いに来るようになったという。中には10歳の子供もいて、その子は2021年に単独で展覧会をできるほど上達したそうだ。そんなに小さいうちから染色に興味をもつ子がいるとは、将来に希望がもてる。佐藤根さんによると、カリフォルニアやシアトルなど西海岸では柿渋が人気。織物はウイスコンシン州と北東部で人気がある。
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