セブン&アイホールディンス(以下、セブン&アイHD)傘下のイトーヨーカ堂は、構造改革を急ピッチで進めている。2026年2月末までに全国で展開する「総合スーパー(GMS)」125店舗のうち、33店舗を削減するのに加え、祖業であるアパレル事業からの撤退も表明した。GMSの苦戦はイトーヨーカ堂に限ったことではなく、現イオンでも同じだ。経営陣が進めるGMS改革は店舗閉鎖や在庫圧縮などで利益を改善するもので、業態としてはお客から総じて支持を受けなくなっていると言える。
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元々、GMSは、食品スーパーに生鮮やグロサリーの買い物にやって来たお客に、階上で展開する衣料品や日用雑貨を「ついで買い」してもらう業態。一言で言えば、食品で集客し、非食品で稼ぐというビジネスモデルだ。1990年代に入ると、郊外に大型のショッピングセンター(SC)やロードサイドショップが開業。専門性の高いテナントが登場し、お客にとっては選択肢が増えた。そのため、品揃えがフラットで奥行きのないGMSは、お客にそっぽを向かれるようになっていった。特に衣料品では顕著だった。
もちろん、イトーヨーカ堂も手をこまねいていたわけではない。2005年には、伊勢丹でカリスマバイヤーと目され、独立後には福助の再建を成し遂げた故・藤巻幸夫氏を迎え入れて、衣料部門の立て直しに取り組んだ。ビジュアルマーチャンダイジング(VMD)に力を入れ、従来のようなハンガーラックに並べただけから、商品一つ一つが見やすく買いやすい売場に変更。だが、オリジナルブランドは売上げ目標に届かず、藤巻氏自身の体調不良もあって退任を余儀なくされた。在任期間はわずか3年程度だった。
その後、セブン&アイHDは、傘下のイトーヨーカ堂とそごう・西武との共同で「セットプルミエ(SEPT PREMIÈRES)」を企画・開発した。同社にとってはPB「セブンプレミアム」のアパレル版で、商品はベーシックでありながらも時代性を映し出す色・素材・フィット感を追求。第1弾ではジャンポール・ゴルチェ氏を迎えたコラボレーション企画も加えられた。2015年10月からイトーヨーカドー 135店舗、そごう・西武 全24店舗で発売した。
アイテムは、イトーヨーカ堂で販売したセットプルミエがアウター、トップス、ボトムス、ワンピースで、価格は2900円から19000円。そごう・西武で販売したジャンポール・ゴルチェとのコラボ企画は同様のアイテムに雑貨をプラス。こちらの価格は1400円から49000円と幅広いプライスラインとなった。
ところが、セブン&アイHDは1年後にはセットプルミエ含む衣料品3ブランドを2017年2月期中に廃止すると発表。「衣料品については厳しい状況が続いており、精査を行っている。1つ1つのブランドの価値や収益性を見直し、今回のブランドの統廃合に至った」と説明した。要は当初計画した売り上げ目標(=需要予測を見誤った)に届かず、ライセンス料やコスト面などを考えると、とてもペイするような状況ではなかったのだ。
うまくいかなかった理由はこうだと考えられる。企画の段階で、そごう・西武の両百貨店とイトーヨーカ堂というスーパーでは、ターゲットが異なるのにセットプルミエという統一ブランドにし、百貨店のみデザイナーズコラボという付加価値をつけたのが、中途半端だったということ。むしろ、共同でブランド開発を進めたのは、イトーヨーカ堂とそごう・西武の店舗数を合算することで、最低生産ロットの帳尻を合わせたとしか思えない。
ブランドのレベルも、百貨店向けにデザイナーズコラボという価値をつけたにしても、投入された商品が本当に百貨店レベルを維持していたのか。マーケティングの論理から言えば、スーパーと百貨店では商品作りからコスト管理や生産背景、販売スタイルまでが異なる。セブン&アイHDの理屈はイトーヨーカ堂には通じても、百貨店では通用しないということ。これはセブンプレミアムがそごう・西武のデパ地下救世主となり得なかったこととも共通する。
イオンの「トップバリュコレクション」はどうか。元々、イオンは肌着などの実用衣料が強く粗利も高かったが、ユニクロなどにシェアを奪われる中で、GMSの存在意義さえ失っていった。2023年3~8月期の連結決算では、衣料品の収益は回復している。これはGMSの営業損益が36億円と黒字に転じたからで、要因は在庫を4年前の1678億円から直近は1138億円と3割も削減したことによるものだ。
子会社のイオンリテールは、衣料品売場を「デイリーカジュアル」「オケージョン」「セカンドライフ」「ネクストエイジ」「スポーツライフ」「雑貨」と、年齢別・シーン別に分類した「専門店モデル」を拡大するという。船橋店での実験では、2ケタの伸びを示すなど好調な滑り出しだが、全国のお客が求めるレベルまで完成度を高められるか。商品作りではユニクロなどのSPAが先行しており、専門店モデル、年齢別・シーン別と掲げたところで、アソートメントの呼び方を変えただけでは意味がない。課題は依然として残ったままだ。
アパレルが絡むと状況が変わるのか
こうした状況から一歩抜け出そうとする企業がある。ベイシアグループ傘下でショッピングモールやスーパーセンターを展開する「ベイシア」は、大手アパレルのワールドと協業しオリジナルのレディスブランド「YORIMO(ヨリモ)」を開発。10月4日からベイシア50店舗で販売をスタートした。ベイシアは1959年、群馬県伊勢崎市で創業し、現在ではホームセンターの「カインズ」、職人御用達の店「ワークマン」など20社以上からなるベイシアグループに属する。同社はベイシアファションセンターという名も専門店も展開していたが、10中旬にはこちらを全て閉店すると明らかにしており、それに代わる業態がヨリモと見られる。
従来、ベイシアがモールなどで展開していた衣料品は、PBも含めタイやベトナムで生産した低価格の実用衣料やジーンズ、Tシャツなどのデイリーカジュアル。いわゆる、どこのディスカウントストアでも見かけるような、とてもオシャレとは言い難い代物だ。そこで衣料品について、ワールドの手を借りてファッション性やコーディネート力を高め、タウンウエアとして通用するようMD改革に乗り出したわけだ。ワールド側にとっても、ベイシアほどの規模なら協業するメリットはあると判断したと思われる。
ヨリモはベーシックなデザインからエレガントな服までと幅広い展開。価格はストライプシャツやヘンリーチュニック、ベイカーパンツなど、いずれも税込み4378円と値頃感がある。秋冬物は63点が投入されている。さらに今後は商品面の協業に止まらず、ベイシアの衣料事業部がワールドのプラットフォームサービスを導入することで、店舗の内装デザインや運営、EC販売にも踏み込み、そこではワールド側も全面支援していくという。
ベイシアグループでは、カインズが東急ハンズを買収し、ワークマンはワークマン女子を開発するなど、本流の低価格路線を維持しながら新たなマーケットの開拓にも積極的だ。GMS他社が衣料品改革を一向に進められない状況で、ベイシアにしてもワールドが持つノウハウを頼ったとは言え、抜きん出るような商品を安定して生み出せるか。あの広大なスペースの中でハンガー陳列が多用される売場がどう変わるのか、が期待される。
ただ、ヨリモの売場だけが異彩を放つようでは、周辺の売場との整合性がなくなる懸念もある。ベイシアのことだからその辺の売場配置やレイアウト調整も考えていくだろう。それにしても、ヨリモはファッション衣料だから、商品を作って専用売場を展開したからといって、セルフのままでは売れるわけがない。インナーからアウターまでの編集を軸にしたコーディネート展開を行う以上、それを実際にお客に提案し、接客で販売するスタッフの力がものを言う。専門のスタッフ育成も不可欠なのだ。そこまでできるかがカギとなる。
量販店を本業とする企業がアパレルと協業するのはベイシアが初めてではない。広島のスーパー「イズミ」も2022年から「アダストリア」と共同で、衣料品のリブランディングに乗り出している。アダストリアがもつ生産背景や店舗デザインのノウハウを活かし、30~40代の女性向けの新ブランド「SHUCA(シュカ)」を開発。同年9月からイズミが西日本、九州一円で展開する郊外型SC「ゆめタウン」の全46施設で展開をスタートした。
ゆめタウンにはユニクロやグローバルワーク、レプシィムの他、地元のセレクトショップなどのファッションテナントが並び、安定した集客と売上げを維持している。しかし、イズミが運営する自主編集売場のファッション衣料では、どこの施設でも閑古鳥が鳴く有様だ。ゆめタウンはGMSではないが、やはり衣料品改革は待ったなしの状況。SCとして持ち前の集客力を生かし、テナントでカバーできない30~40代の女性層を開拓する狙いと見て取れる。
ゆめタウン博多のシュカを見てみたが、アダストリアが参画しただけに従来の衣料品コーナーからは商品力が上がったのは間違いない。だた、シュカは30代~40代の女性がターゲットというものの、商品のテイストを見ると50代の方が好むのではないか。実需を考えても、そちらの方向性で行く方がうまくいくと思う。
ヨリモも、シュカも、目的は量販店の衣料品を改革すること。だからと言って、アパレルとの協業で、簡単に改革できるほどファッションは甘くない。まずは食料品やグロサリーを買いに来たついでに売場を見てもらうこと。そこで消費者に「結構、おしゃれな商品もあるじゃん」と感じてもらうことが再生の一歩になる。識者の中にはベイシアとワールドの取り組みから、他のスーパーでもアパレルと協業するのではないかと見る方もいらっしゃる。
ただ、ベイシアやイズミが衣料品改革に乗り出せるのは、グループ内に好調な事業を抱えているからだ。それでも、ファッション衣料を売るには店作り(売場作り)から商品編集や販売スタッフの配置まで、小売りというか、専門店のノウハウが欠かせない。SPAはそれを確立し、はるかに先行している。まずは商品作りから踏み出し、一つずつ小売りノウハウを積み重ねていくしかない。
シュカは販売開始から1年が経過したが、特に好調だという話は聞こえてこない。ベイシアもイズミもグループ全体が好調だからと、「ヨリモやシュカが赤字でもいい」と言うことにはならない。「1社でも赤字企業があれば、そのままにしてならない」が、子会社をいくつも抱える企業グループの経営の本質だからだ。おそらく向こう3年で黒字化できなければ、セブン&アイHDのセットプルミエと同じ運命を辿るかもしれない。どう転ぶかはわからないから、現状では様子見というところになるだろう。
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