10月下旬からだいぶ過ごしやすくなった。このまま寒くなってくれればいいのだが。筆者の場合は気温の低下=汗をかかない=徒歩移動が楽という図式なので、仕事の打ち合わせなどで街歩きが増えるのは確かだ。それにレザーやコートを着て街中を闊歩できる。それも車に乗らずに暮らせる都会生活の醍醐味と言える。
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そんなことを考えながら先日、仕事の打ち合わせに行った帰り、大濠公園からけやき通りを歩いてみた。仕事後に定期的にランニングをしていた逆コースなのだが、コロナ感染拡大による引きこもりや夏の猛暑もあって中断していたので、久々のウォーキングとなった。
公園の湖岸沿いを歩き、美術館、駐車場から国体道路に抜けると、真向かいに見える大鳥居を境に右手はNHKの福岡放送局、左手には護国神社の杜が広がる。横断歩道を渡らず左折してそのまま歩くと、かつて青山というレストラン喫茶があった場所にアパレルメーカーのジュングループが展開する「BIOTOP FUKUOKA(以下、ビオトープ福岡)」がある。ちょうど4年半ほど前の2019年春にオープンした複合セレクトショップだ。
店舗の裏手は福岡城趾、前には護国神社と緑に囲まれたロケーションで、少し先にはけやきの並木道にマンションが建ち並ぶ「けやき通り」が続く。ビオトープ福岡は1階がカフェ&レストラン、2階がセレクトショップ、さらに右手にはナーセリー店を併設し、観葉植物やガーデニング用品などを揃える。
ビオトープについては10月初め、東京・南青山にフルラインを楽しめる初の旗艦店がオープンしたというニュースを耳にしていた。根津美術館手前のコレッツィオーネ2階の店舗がそれで、こちらはオリジナルのレディスライン「ヨービオトープ」が中心になる。同ブランドは、2021年春夏からインナーを中心にスタートし、23年春夏からドレスやボトムなどのセットアップやデイリーアイテムを拡充。今秋冬物からはダウンなどが加わった。
ヨービオトープの主体となるインナーは肌に優しい天然素材を用いて、柔らかくて透明感のあるアイテムで着心地を追及。これまで東京・白金台、大阪・南堀江、福岡・赤坂のほか、ECでも販売していた。ワコールと提携する「ビューティフルピープル」のインナーと幾分被る部分がないでもないが、メーカーブランドとしてアピールし、本気で売りにいく狙いでブランドショップの聖地、南青山への旗艦店展開に舵を切ったと見られる。
一方、ビオトープ福岡は福岡市の中央区赤坂にありながら、周囲は都会の喧騒とかけ離れている。出店者側の意図は瀟洒なロケーションを生かし、飲食やグリーンを合体させて集客を図る狙いだったと思われる。都市のビルイン展開なら、どうしてもフラットな店構えにならざるを得ず、ショップの訴求力や差別化には限界があるからだ。セレクトショップとしての理想を追い求めれば、やはり路面店に行き着くだろう。
最初から飲食やガーデニングを合体することを意図したのか。それとも出店先立地の特性で後付けしたのかはわからない。結果的に立地とうまく調和する複合ショップは都会のオアシス感覚でイメージ的な収まりは良い。ただ、実際に売れるかどうかは別問題だ。開店にあたってジュンは、「わざわざ来店していただき、極端にいえば2~3時間くらい滞在して、買い物をしたり、お茶や食事でくつろいでほしい」とのコメントを出していた。
ただ、個性的なデザインのアイテムを含め、国内外のブランドに生活雑貨、化粧品などを加えた編集では、品揃えが限定的で深堀りされておらず、わざわざ買いに行く理由にはなりにくい。ビオトープ福岡については、オープンからこれまで何度か覗いてみたが、物販はともかく、飲食、ガーデニングとも集客が好調には見えなかった。大手アパレルが運営するだけにECの引き当てなどをシンクロさせて、何とか持ち堪えている状況なのだろうか。
赤坂地区で暮らす住民は古くから住む高齢者か、転勤など2~3年で新陳代謝するマンション族だ。あらゆるブランド、あらゆる価格帯が揃う天神まで歩いても15分程度だから、住民はそちらに向かう。足元商圏の攻略も難しいので、わざわざショップに足を運んで来てくれたお客をリピーターにしていくしかない。それにしても、固定化するには特定ブランドのファンを作らないと難しい。それがビオトープ福岡のオープンから4年、筆者がずっと感じていたことだ。
メーカーの強みを生かした品揃え
セレクトショップは、国内外のブランドを主体にカジュアルやオフィシャルのウエアから雑貨、靴などまでを揃える。バイヤーは店ごとのコンセプトに添って、思い思いに仕入れながら編集で個性を打ち出す。そのため、フルアイテムで購入すれば外れがないし、単品買いでも顧客管理がしっかりしてお客のワードローブを知り尽くすスタッフのアドバイスに従えば、お洒落なコーディネートが楽しめる。これはセレクトショップのメリットだ。
反面、セレクトショップにはブランドSPAのような同じ型での色、サイズのバリエーションがほぼない。洋服好きにとっては奥行きのあるMDから探し出す楽しみがなく、商品同士での比較検討もしづらい。ど・ストライクの商品に巡り会えない限り、購入動機が生まれにくいというデメリットがある。エストネーションのアウトレットが苦戦した理由も、売れ残りによる編集では購買の選択肢が狭められるからだと思う。
アパレルメーカーは商品開発はお手のものだから、オンリーブランドは奥深くMDを組んでいける。型、色・素材、サイズのどれかで企画条件に区切ったとしても、バリエーションのある展開は可能だ。それによってお客がブランドを気に入れば、比較検討がしやすいから購入動機にも繋がるし、リピーターにもなりやすい。セレクト、オンリーブランド、どちらにもメリット、デメリットはあるのだ。
ビオトープの場合は、ジュンという老舗アパレルが手掛けるセレクトショップという触れ込みで、飲食やグリーンを合体したまでは良かったが、積極的に売りに行く、数字を取るということでは難があるように感じる。あくまで私見だが、オリジナルのヨービオトープはそうした反省から生まれたブランドとするなら、商品開発から店舗展開にまで至った経緯の説明がつく。メーカーブランドとして個性的な商品展開を進め、店作りでもオリジナリティ(ヨービオトープは安藤忠雄氏の設計)を打ち出すことを目指したわけだ。
南青山という立地はコムデ・ギャルソンからヨウジヤマモト、プラダやステラ・マッカートニー、COSまでがひしめくメジャーなエリア。お客の大半は服を買う目的でここを訪れ、スタイリストが昼夜を問わずに行き交うのでプレスプロモーションでも優位性がある。ブランドを訴求する、売りに繋げる、数字を取りにいく。そうした目的に合致する立地であり、そんな場所に出店したのも、商品の完成度を高めて勝負するメーカーとしての意気込みを感じさせる。
翻って、オープンから4年が過ぎたビオトープ福岡は、多少の変化が見られるようになるのだろうか。服を買いにわざわざ訪れるお客をもっと増やしていくことも必要なのだが、これまで見ているとその存在がまだまだ知られていないように感じる。店舗単位で難しいのは十分承知の上で言うが、もっと店独自のプレスプロモーションに注力してもいいのではないか。
ショップの斜向かいには、メディア界に君臨するNHKがある。福岡放送局というハンディを差し引いても、番組によっては高視聴率を取るものが少なくない。また、三井不動産に転職した近江友里恵アナ、絶対音感の持ち主である林田理沙アナがブレークするきっかけを作ったのが福岡放送局だ。筆者の家族が毎日朝食時に視聴するニュース番組「おはよう日本」で、九州・沖縄のお天気情報を担当する佐々木理恵アナも在籍する。
先のお二人は東京に戻られた(近江友里恵アナは三井不動産に転職)が、佐々木理恵アナは福岡放送局所属のためか、衣装が自前のようでうちの女性陣の評判はすごく悪い。毎朝、佐々木アナが着ている服を見るたびに彼女たちが発するコメントは実に辛辣で、ここで取り上げるのも憚れるほどだ。国立大卒の高学歴で気象予報士の資格を持ち、ルックスもそこそこなのにテレビ映えせず、華がないのは実に惜しいと筆者も感じている。
大きなお世話かもしれないが、ビオトープ福岡は目と鼻の先に一大メディアがあって視聴率を取れる女子アナがいるのだから、衣装提供をしてはどうだろうか。筆者がうちの女性陣にこう言うと、彼女たちも「その手もあるよね」と返してきた。NHKの場合、ブランド名のクレジットは出さないが、視聴者が問い合わせるときちんと答えてくれる。ビオトープの商品は間違いない感度とクオリティなのだから、あとはいかに多くの人に知ってもらうかである。
もちろん、ローカル女子アナが着たからといって、売れるものではない。第一、ビオトープの商品が佐々木アナに似合わないという意見があるかもしれない。それも十分に承知の上だ。しかし、知ってもらうにはメディア露出を増やすことも重要だし、キャラクターに似合うようなコーディネートをするのがショップスタイリストの仕事ではないのか。要はどうセールスに繋げるかなのである。やってみる価値は十分にあると思うのだが。果たして。
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