ファッション通販サイトを運営するZOZOは10月18日、会員が商品注文時に行う受け取りの初期設定を「あんしん置き配(玄関前)」に変更したと発表した。これにより、置き配指定可能な注文は、「変更前より約7割に伸びた」という。ファッション特化ではないが、Amazonも対象エリアでは玄関への置き配が初期設定となっている。楽天は「置き配サービス対象ショップでの注文」「注文金額が10,000円以下かつ、前払いでの注文」「医薬品を含まない注文」で、置き配サービスを行なっている。
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置き配が導入される背景には、働き方改革でドライバーの時間外労働が年間960時間に制限される「2024年問題」がある。これにより、運送事業者が再配達などを避けて業務を効率化することが予測される。ZOZO側も受け取りの初期設定を置き配にする理由について、再配達率の低下による配送ドライバーの負担軽減に加え、CO2排出量の低減に取り組むためと表明している。そこでは置き配が社会的な問題を解決するには欠かせないとすることで、市民権を得たい狙いではとも感じる。
では、荷物を受け取る側はどうか。置き配は人との接触を避けたいというニーズに合致する。リモートで仕事をする人が増える中、忙しくして手が離せない時などに対面受け取りしなくても、不在扱いにならないのはメリットだ。また、受け取りの日時指定をしていても、急な仕事で自宅に帰れなくなったなど、現代人のビジネスライフにも合っている。再配達は時間がかかることも考えられ、すぐに使いたい商品を置き配にできるのは非常に便利だ。
さらに置き配は場所を選択することもできる。運送事業者でも各様だが、基本的な受け取り場所は「玄関前」で、戸建住宅では「ガレージ」や「物置」「自転車のカゴ」「宅配BOX」を指定することができる。マンションなどの集合住宅では、「ガスメーターのボックス」を受け取り場所にすることも可能だ。
一方、置き配にはリスクが伴う。まず「盗難」がある。戸建住宅では玄関先に置き配されていると、盗まれるケースは格段に高くなる。日本の場合、比較的治安がいいことから、過去には運送事業者がファスナー付きの簡易的な宅配BOXに収納していれば盗難のケースは低いと、テレビ報道を利用してアピールしていた。ところが、窃盗犯はそうした情報を見逃さなかった。報道の後には荷物が宅配BOXごと盗まれるケースが続発したのである。
オートロックのマンションなら安心かと言えば、そんなことはない。現に盗難の被害が出ている。ドライバーは住人または管理人が開錠してマンション入口のドアを開けてくれたことで、受取人の自室の前に置き配したのだろう。そこで窃盗犯は別の住民が入口ドアを開けるときにすれ違いでマンションに入ることができ、簡単に盗み出せたと考えられる。監視カメラの設置も増えているが、窃盗犯が堂々と犯行に及ぶのはテレビニュースでも枚挙にいとまがないほど。抑止力には限界があるのだ。
置き配には「汚損」や「破損」「滅失」も考えられる。玄関前に置いていたため、雨に濡れて汚れてしまったとか。物置に置いて何かのひょうしに落下して壊れたとか。自転車のカゴに入れた荷物が軽かったため、風で吹き飛ばされてしまったとか。さらに受取人がドライバーの前で荷物を確認しないため「誤配」が起きたり、届くはずの荷物が別の住所に「誤送」されるなんてトラブルも起こり得る。
もっとも、宅配荷物が増えるに従って、置き配は条件付きで受け入れざるを得ないだろう。これは自然な流れで、止めることは難しいと思う。ただ、荷物の受取人が置き配を承諾した以上、荷物の盗難、汚・破損、滅失が起こった場合、運送事業者に全面的な責任を追求するのは難しくなるのではないか。その辺は法律(商法や各社の運送約款)に基づいた契約や条件をしっかり把握して選択すべきだ。これについては、大学時代に受けた「商法」「運送取扱営業」の授業を思い出す。
荷物の運送を行う運送事業者は、法律(商法第55条)で「運送取扱人」と規定されている。運送取扱人は荷物運送の「取次」をするものとされる。運送事業者が荷物の取次を受ける場合、「荷送人」と取次を引き受ける委託契約を結び、「荷受人」に荷物を送り届ける。これが「運送取扱契約」だ。ヤマト運輸などの営業所に行くと、壁に小さな文字で書かれた「宅配便約款」が貼ってある。これはヤマト運輸との契約内容の詳細を記したものだ。
また、商法の第八章第一節(第570条~)の「物品運送」では、第577条に「損害賠償責任」の規定があり、運送事業者は荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関して注意を怠っていないことを証明しなければ、荷物の滅失、毀損及び延着につき損害賠償の責任を免れることはできないとされている。ただ、荷物が無くなっても、何を持って「引き渡し」とするか、注意の有無とは何かまで、明確に定められてはいない。だから、運送事業者の約款に記されている内容で判断することになる。これが置き配に関わってくるのだ。
何を持って「引き渡し」とするのか
では、こうした契約をファッション通販に当てはめてみよう。荷送人とは、商品を販売した事業者。ZOZOや直販のAmazon、楽天市場やマーケットプレイスなどに出店する各ショップだ。荷受人は商品を注文した会員や届け先の相手、運送取扱人は運送事業者になる。ZOZOや各ショップはヤマト運輸などの運送事業者と運送取扱契約を結び、会員が注文した商品の配送を委託する。運送事業者は商品という荷物の配送を取り次ぐわけだ。
一例としてヤマト運輸が運送契約の内容を定めた「宅配便約款」に掲げる規定を見てみよう。置き配はこの契約における「荷物の引渡し」の項目に該当すると思われるが、現状では具体的な記載はない。第三章には荷物の引渡しの項目があり、第十一条で「当店は、次の各号に掲げる者に対する荷物の引渡しをもって、荷受人に対する引渡しとみなします」とある。
1.配達先が住宅の場合 その配達先における同居者又はこれに準ずる者
2.配達先が前号以外の場合 その管理者又はこれに準ずる者(荷受人等が不在の場合等の処置)
約款には「各号に掲げる者」とあるが、置き配は荷物を引き渡すのが同居者などの人間ではないため、条文通りに解釈すれば置き配しただけでは引き渡したことにはならないと推察される。また、第十二条の第3項には、「安全な管理及び保管が可能である荷物受け渡し専用保管庫(以下「宅配ボックス」という。)の設置された集合住宅等では、当店はそれを使用して荷受人に対する荷物の引渡しとすることがあります」とある。
そこで、ヤマト運輸は置き配(EAZY)で、以下のような条件を打ち出した。まず、届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップは、Amazon(クロネコメンバーズにご登録済み)の他に6社。注文時・もしくは届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップは、ZOZOTOWNの他に7社となる。つまり、これらの通販事業者では、受け取り方法の指定に置き配も含めるということだ。
ただ、以下のようなケースの場合は置き配されない。悪天候により届け後の荷物の安全が確保できない(荷物が濡れるなど)、受け取り場所に荷物が安全に収まらない、受け取り場所への立ち入り(オートロック)ができない、マンションなど集合住宅の建物管理規程その他の規程により、置き配が禁止されている、受け取り場所を見つけられなかった、それぞれをヤマト運輸側が判断した場合だ。当然のことだが、置き配では受領印やサインは求められない。指定の場所へ配達が完了した際に、ドライバーが写真を撮影し、それが証明になる。
ヤマト運輸としてはいろんな場所や手段がある置き配を引渡しと認めるには、約款に指定場所の項目を追加したり、引き渡し場所を拡大するなどの改正が必要になる。現状では約款を改正して置き配を詳細規定するというより、置き配できない判断を細かく決めることで、盗難や汚・破損、滅失のリスクを回避する対応のようだ。運送事業者としては、リスクを考えるとどうしても置き配に二の足を踏まざるを得ないのがわかる。
他のネット通販事業者についても、委託先の運送取扱契約によって対応していくことになると思う。Amazonには置き配の荷物が盗難被害に遭った場合、商品の再送や返金などの補償制度がある。ネット通販事業者は運送事業者との関係を悪化させないようにするため、なるべく運送事業者側に盗難や汚損などの損害賠償を請求したくないだろう。運送事業者も置き配にいろんな条件をつけることで盗難や汚損などのリスクを避けようとしている。
つまり、それでも荷送人が置き配に誘導し、荷受人が置き配を求めるようになれば、それは荷物を受け取る人間の自己責任だという世論形成=グローバルスタンダードの意識づけをしたいのではないか。その辺は通販事業者や各ショップ、運送事業者でも温度差があると思うので、注文時にしっかり確認する必要がある。
もちろん、ファッション通販に置き配が浸透していけば、盗難被害が増えるのは想像に難くない。アパレルなどは第三者のニーズが高いため、窃盗犯が転売する目的で盗み出すケースが考えられる。ZOZOの箱はロゴマーク入りだから、一目でアパレルなどが入っているとわかる。アポ電強盗など白昼堂々と個人宅が襲われる中、玄関先に無防備に荷物が置いてあれば、窃盗犯にとっては格好の獲物になるだろう。簡易的な宅配BOXに入れても、そのまま盗まれるとどうしようもない。
岸田政権は再配達率が高いことへの改善策として、コンビニ受け取りや宅配ロッカーなどを利用した置き配を選択した消費者にポイントを付与する仕組みを打ち出した。ただ、これまでもコンビニ受け取りや宅配ロッカーはあったのに自宅受け取りが多いのは、それさえ取りに行くのが面倒と感じる消費者が少なくないからだ。効果の程はどうなのだろうか。
今後、置き配荷物の盗難被害が続出し、それらが転売されるようなケースが増えていけば、国や消費者庁も何らかの対策に乗り出さなければならなくなる。もちろん、ネット通販事業者や運送事業者がそうした二次的、副次的な問題に対してどう取り組むかも課題だ。ただ、商品を注文する側も便利さばかりを求めて対面受け取りをしないのであれば、それなりの自己責任は免れないしリスクを承知しなければならない。
eコマースは国際標準の仕組みなのだから、荷物の被害補償だけ日本流にしろというのもおかしい。ネット通販を利用する限り、利便性と自己責任はトレードオフの関係にあるということだ。
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