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生産が進む植物由来の新繊維 今後の課題は

生産が進む植物由来の新繊維 今後の課題は

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 毎年、ゴールデンウィークには衣替えをする。といっても、自宅の押し入れにある季節別のパッキンから夏物を出し、クローゼットの春物と入れ替えるだけ。春物は厚手のコットンを使った二ットやパンツ、裏毛のカットソー、レザーを含むジャケット程度で、アイテムも数量も多くない。一方、夏物はTシャツやポロ、パンツとアイテムはさらに減る。薄手で嵩張らないが、洗い替えが必要な分だけ数は増える。新規に購入するのは黄ばんだり襟が伸びたTシャツくらいで服の絶対数は増えないが、それでも業界御用達の海苔箱一つ分はある。

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 春夏の衣替えでいつも思うのは素材のこと。春物には肉厚のニット、ピケやモールのパンツはあるが、全てコットン100%だ。夏物になると他に麻混や麻オンリーが加わり、こちらも100%か、半々くらいの混紡になる。綿も麻も素材は丈夫で、コシがあるものがほとんど。どのアイテムもシンプルなデザインでトレンドに左右されないため、1、2年ごとのローテーションで着る。そのため、購入してから長いもので20年、短くても10年くらいになる。多少擦れているものもあるが、日常で着る分には粗野な感じが何ともいい。

 よくよく考えると、通年を通して着用する素材は、綿が主体だ。エラスタン(ポリウレタン)が混ざったものもなくはないが、好んで着るアイテムはどうしても綿オンリーになる。この20年ほどは天然繊維のみのアイテムが減ったため、合繊混紡も買わざるを得なかった。天然素材は堅牢度、耐用で見ると落ちるのだが、心地いいからどうしても好んで着る。
だから、長持ちするように数を揃えてローテーションを組んでいる。

 改めて思うのは、綿がいちばん好きなこと。九州ではずっと暖冬が続いているので、綿は重ね着にちょうどいい。綿繊維の中では、超を含め糸が長くて細い長繊維より、糸が短めの中繊維の方が好みだ。中繊維はジーンズやTシャツ、ポロシャツに使われるが、アイテムのデザインより素材感が好きで着ているという感じだ。素材そのままで、自然な風合いをもち、極論すれば帆布のような粗野さ。洗うと次第にザラつく感触が惹かれる理由だと思う。

 一方、綾織と平織、未晒し糸と晒し糸の違いをもつデニムとシャンブレーは、経糸に紺糸を使っている分、色落ちするのであまり好きになれない。繊維としての風合いはいいのだが、ウエアになってブレークや擦りまでいくと、貧相に感じてしまう。ツイルも織物の三原組織の一つだが、フラットで組織変化がない点で選択外。サテン、いわゆる朱子織も経糸が緯糸を長い間隔でクロスする織りで、光沢があり触感はいい。だが、如何せん摩擦に弱く、破れやすいところが好きを遠ざけてしまう。

 麻も綿に次いで好きな素材になる。1980年代のDCブランドの全盛期では、ジャケットやパンツにも多用されていた。上下共地で同色ならセットアップでいけたし、上下どちらかに別地、別色を合わせるとジャケパンスタイルにもなった。夏場は上下ビシッと決めると暑かったのだが、当時はそれが流行だった。5月24日も映画が公開されるが、テレビ版の「あぶない刑事」で舘ひろしが着用していた影響もあったと思う。屋内では冷房が効いていたため、打ち合わせなどで外出する時は定番のスタイリングになっていた。

 麻も植物由来の繊維という意味では綿と同じだ。生地メーカーから聞いた話では、麻と言っても30種類もあるそうで、生地としては綿以上に奥深いとか。日本規格の品質表示法では、ラベルに麻と表示できるのは、「亜麻、英名のリネン」、「苧麻(チョマ)、同ラミー」の繊維から作られたものだけという。両者は強度や汗を吸収する性質では同じだが、リネンは柔らかいもの、ラミーは硬めのものという違いがある。

 確か無印良品では、麻素材アイテムを売り出すポスターやパンフのコピー、商品タグの説明書きではあえてラミーと表記されていたと記憶する。これには提携する商社が素材の調達から縫製まで全て中国で行っていたことが関係する。加えて、無印らしい自然な風合いは、単に麻と表記するよりラミーの方が上手く表現できる。クリエイティブサイドの考えもあって、そう表示されたのではないか。それだけ無印良品が素材を売りにしていたのだろう。

植物由来の新繊維の採用に期待

 業界では衣料品の大量廃棄が問題になっている。そのため、さまざまなリサイクルが試みられているが、どれも手間やコストがかかり、再生に足る品質維持やCO2の発生といった課題もある。天然繊維についても生分解性を生かして、回収した中古衣料を無肥料栽培で活用するなどの取り組みもあるが、こちらも緒についたばかりだ。

 そもそもの繊維作りに植物由来のものをもっと活用すべきではないか。これなら廃棄になっても天然素材なので、環境負荷も抑えられる。そうした発想から世界では環境対応の衣料品素材を求める動きが年を追うごとに広がりを見せている。すでにとうもろこしなどのでんぷん、なたねなどの油脂を資源とする繊維が活用されているが、サトウキビの糖質資源を活用した繊維の生産も始まっている。

 山形県鶴岡市のスパイバーは、植物由来のバイオマス原料を使った繊維の増産にこぎつけた。その規模は2026年で年間最大2000トン。現在の10倍になり、増産によって材料コストを引き下げ、国内外のアパレルへの採用機会を窺う。業界他社や異業種から第三者割当増資で100億円強を調達。今回の設備増強に充てるという。

 バイオマス原料を使った紡糸、繊維生産の原理は以下になる。植物由来の人工タンパク質素材を液体に溶かしたものを、極細のノズルから長い繊維として紡ぎ出して、繊維にしていく。人工タンパク質素材はサトウキビなどから得られる糖類を微生物に与え、発酵させて作る。製造時にCO2の排出も水の使用も少ないのがメリットだ。織物にすると、カシミアのような肌触りだというから、いろんなアイテムに採用すればオールシーズンの着用に耐えられる。ウールのチクチクが苦手な人にももってこいだ。

 課題は生地にする場合のコスト。スパイバーからの出荷価格は、肌触りと同じくカシミアと同水準というから、ウール素材を超えてかなり高額になる。アパレルメーカーとしては一般的なブランドには採用しにくいが、今回の設備増強で繊維の生産コストは半分以下になる見通しという。スパイバーとしてはコスト低減を軸にして出荷量を大幅に増やし、アパレルの幅広い製品に採用してもらうことを目論む。

 経済産業省は2024年3月、「繊維製品の環境配慮設計のガイドライン案」を示した。この中には繊維製品のリサイクルがあり、再生資源(リサイクル材料)利用の方針や目標を設定しているか、再生資源を使用しているか、それはどのくらい使用しているか、再生資源利用促進活動を実施しているか、品質は確保されているか、どのような再生資源であるか確認しているか、再生資源の使用を情報開示しているかといった細かな評価基準を挙げ、具体的な評価方法も提示している。

 具体的には、バージン材を代替、削減するためのリサイクル材の利用について、また工程廃棄物から再生またはリサイクルされた材料に使用については、環境配慮設計の原則および要求事項を規定するJISQ62430で、アパレル企業側が実施するための手引を示している。さらに繊維製品に含まれるリサイクル含有量については、規制強化が進むEUの基準に沿うように促す。こうした所管庁の主導により、環境負荷を抑えらえる植物由来の繊維は、ますます注目されていくだろう。

 繊維によっては、オーガニックコットンのように名称イメージだけが一人歩きし、実際にどこまで環境に配慮した素材なのかが明確でないとの指摘もある。広告などを利用し、あたかも実際の商品よりも環境保全に配慮した商品であるかのように消費者を欺く「グリーンウォッシュ」の問題も取りざたされている。環境に配慮しているという主張は、その信頼性を確保するために然るべき機関のお墨付きや情報開示が不可欠だ。まずはアパレル企業が環境に配慮した素材を使用しているという根拠を示すことから始めるべきだろう。

 そして、消費者の側も環境に配慮するには質の高い衣料品をできる限り長く着たり、お直しやリユースを活用して行くことが第一歩になる。そして、リサイクルしやすい素材を好んで選択していけば、生産する側もそうした商品を市場に送り出すようになっていく。それが出荷量の拡大につながるから生産性の向上とコストダウン、効率性を生むのだ。スパイバーは企業価値が10億ドル以上の未上場企業、いわゆるユニコーンでもある。世界中の投資家はユニコーンに注目しているため、スパイバーが投資対象になればさらに資金が集まる。

 肌触りが良いというのは、自然由来ということ。それを好きで着ていければ、着古しても自然に返せるので、環境を守ることになる。天然は生まれ還る。オーガニックというか、ナチュラルは全て良しということだ。

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