円安基調は当面続く見通しだ。政府と日銀は4月末に5兆円規模の協調介入に踏み切ったと言われる。この日は1ドル154円前半まで下げ幅を広げたが、翌30日には157円台に回復。ニューヨーク外国為替市場では5月1日に153円台に急騰した。だが、ゴールデンウィーク明けは154~156円の小幅な動きが続くだけで、円安が収まる様子は一向に見られない。日米金利差が縮まらない限り、今後も円安で推移すると思われる。為替変調のカギは、秋に実施される米国大統領選挙の結果次第とも言われるが、どうなのだろうか。
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一方、訪日の外国旅行者にとって円安は追い風で、インバウンド消費は好調を続けている。大手百貨店ではラグジュアリーブランドをはじめ、かばん、時計・宝飾品など高額品の需要が伸び、2024年4月免税売上高が過去最高に達した。訪日客は中国が減ったものの、台湾、香港、韓国が増えたという。もっとも、今年のショッピング傾向としては新品だけでなく、中古のブランド品を購入する旅行者が増えているという。その中心となるのは中国をはじめとしたアジアの富裕層だ。中国人は不動産バブルが弾けたことで堅実消費に向かい、東南アジアの人々は値ごろなブランドを求めることから、中古品にも目を向けていると見られる。
一方、日本人ではブランド品を買取店に持ち込むお客が増えている。日本人は使わなくなったブランド品でもぞんざいに扱うことはなく、自宅に保管しているケースが多い。有名ブランドのバッグや財布が綺麗なまま家に眠っている人にとっては、「円安で買取金額が上がっているかも」「今が一番高いようだから売り時か」との心理が働き、買取店に持ち込んでいるようだ。実際、買取価格は2ヶ月前より平均で約3割アップし、長期的に見ても20年前より確実に買取価格はアップしているという。
買取価格が上がっているのは、円安が直接の影響ではない。訪日の外国人旅行者が品質が良い中古ブランドを求めることで、需要が高まっているのだ。買取店によっては在庫の回転がよく、すぐに品薄になるため、買取を強化しなければならない。当然、他店に買い取られたくないため、持ち込まれたブランド品の査定額は値上がりする。お客も換金するなら、より高額で買い取ってくれるところに持ち込む。買取店同士で取り合いが始まっているのだ。買取価格を業者同士で競わせる「買取りフェア」を開催する百貨店もある。知り合いのカメラマンによると、中古の一眼レフカメラやレンズも高額査定の傾向にあるとか。
ネット上では、中古品をメルカリやヤフーオークションで売買するのが一般化した。ただ、メルカリの場合、転売を含め売り手が提示した価格で、購入するかしないかは買い手が決める。オークションは開始価格は出品者(売り手)が決めるが、落札したい入札者が複数いた場合にしか価格は上がらない。そうでなければ、買い手がつかないケースもある。つまり、どちらも現金化できるかは不明確なのだ。また、商品の真贋については、あくまで売り手の申告によるもので、偽造やコピー商品もあり得る可能性も排除できない。
その点、「有名」「高級」なブランドという条件付きだが、買取店に持ち込めば専門ノウハウを持つスタッフが査定してくれるので、真贋はもちろん査定額も妥当だ。しかも、中古ブランドに対する需要が旺盛なことから、買取額が押し上げられる傾向にある。Z世代の間ではすでに新品購入は中古品でも高値がつくかが前提になっているという。つまり、中古ブランドを持ち込むお客は高額で買い取ってもらえると、それを原資に別の商品やサービスに投資しようとする。キャッシュフローがいろんな市場に波及し、消費が活性化するのは間違いない。
中古品買取大手のコメ兵はブランドのバッグや衣類の他、スニーカーも買い取りも強化。銀座には「GINZA SNEAKER HILLS SNEAKER MARKET BY KOMEHYO」が出店しており、日本人だけでなく、外国人の若者を集めている。KOMEHYO ONLINEにも、ナイキやアディダスのほか、フィンランドのKARHU、イタリアのDATEといったマニア好みのスニーカーがラインナップする。
KOMEHYO ONLINEでは、掲載商品の中で欲しいものが見つかると、近くの店舗に取り寄せて、現物を実際に確認したり、試着することもできる。もちろん、送料・手数料等は一切かからず、イメージと違った場合にはキャンセルも可能だ。特にスニーカーの場合はサイズも購入の決め手になるから、こうしたサービスが若者を惹きつけるわけだ。
高くても売れるは、スニーカーで顕著
一方、アパレル各社は2023年は暖冬の影響で、秋冬物が売上げ不振に陥った。通販大手のZOZOTOWNでも、24年1~3月の平均単価は約4000円で、23年10~12月の4360円に続き低調だった。ZOZOTOWNは全国に顧客基盤を持つため、アパレル側は冬物衣料を消化できると、在庫を仕向けたと見られる。しかし、店頭だろうとネットだろうと、売れないものは売れない。消費者にとってオンラインサイトは試着ができないし、セール品は返品・交換の対象外になる。だから、どうしても購入に二の足を踏んでしまう。
しかも、アパレル側はZOZOTOWNに出店すれば、自らの粗利率を超える受託手数料(ブランドにより20%後半から30%半ば。平均28%)を取られ、利益を出すのは容易ではない。それでも委託するのは現金化ができると考えるからだろうが、2024年冬のZOZOセールでは思ったほど消化ができなかった。ネットと言えどお客に欲しいと思わせる商品がなければ、実店舗の店頭と変わらない。これが現実なのである。
アパレルは気象で売上げが左右される。特にコートなどの重衣料は顕著だ。メーカー側もAIを駆使し気象による需要予測を探るなど、何とか売上げ不振に陥るのを避けようとしている。また、気候に左右されない商品の開発に着手するところも出ている。だが、答えを導き出すのは難しく、商品まで作り出すのは容易ではない。気候に関係なく、価格が高くても売れている商品と言えば、スニーカーだ。著名ブランドによる寡占状態が続いている。
有名ブランドから新品のスニーカーが発売されると、投資目的で購入する輩もいる。また、人気モデルを定価で購入し、5倍、10倍、それ以上の価格で売る転売ヤーも増えている。メーカーは欲しいお客に公平に販売するために「抽選」を実施しているが、転売ヤーは大学生や主婦などを雇って「キャパ」と呼ばれる並び屋を抽選に当たらせる。そこで、メーカーが抽選参加を自社ブランドのスニーカーを履いていることを条件とすると、今度は転売ヤー側も並び屋にそのメーカーのスニーカーを履かせるなどイタチごっこが続く。
こうした中、ナイキは先着抽選販売や完全抽選販売、ランダムで発売予定日より前に予約・購入できる限定オファーを用意するなど、転売対策に取り組む。だが、転売ヤーはそれにも対応していくだろう。昨今はNのタイプフェイスが目立つニューバランスを履いた人も多くなった。ナイキやアディダスと被りたくない層だとも見られるが、ボリューム化を避けるためにミッドソールを厚くしイボイボのアウトソールを重ねた街履きデザインも登場している。海外のメーカーが販売する希少性のあるスニーカーは、4万円代でも完売している。デザインやカラリングがいいものは高くても売れる傾向にあるということだ。
だいぶ前から、市販のスニーカーで物足りない層の間では、ラインストーンやビーズなどで彩る「デコ」が流行っていた。さらに最近ネット動画で見かけるのが、新品スニーカーを高度な職人の技術でカスタマイズするものだ。例えば、定番のバスケットタイプで先ゴムや廻しテープ、ミッドソールを革に張り替え、アウトソールをビブラム仕上げにしてワークブーツ風にするなどだ。量販のスニーカーでもカスタムリメイクによりオリジナリティが発揮でき、なおさらレア価値が生まれる。リメイクするには靴職人の専門的なノウハウが必要だが、スニーカー人気を考えると技術を身に付けたい若者は少なくないと思う。
さらに生産中止になった人気モデルやデザイン性が高いもののユーズド、履かずに加水分解したものをリペアするマニアもいる。彼らは作業風景をネット動画で公開しているが、ブランドスニーカーの中でもレアなモデルにプレミア価値がつくのを考えると、リペアまでして履きたくなるのも納得いく。リペアではないが、アシックスが4月12日に販売を開始した「ニンバス ミライ」は、アウトソールは通常の合成ゴムだが、ミッドソールのフォーム材の約24%はサトウキビ由来。環境に配慮して近い将来は単一素材で実現する目標を持つ。
18世紀には永久機関という概念が科学者を夢中にさせた。21世紀の今日、広島の業務用洗濯機メーカーが修理部品を永久に提供するサービスを始め、海外から注文が来ているという。昭和時代に人気を博したクルマのレストアにも通じる。ならば、人気スニーカーの修理・再生など遥かに簡単なはず。パーツが手に入らないといった課題はあるが、3Dプリンターを活用すれば、製造も不可能ではない。リペアノウハウが確立されている点を考えると、人気スニーカーの修理販売が拡大していくのも時間の問題だろう。
革靴全盛の時代は「靴にはお金をかけるべき」と言われた。人の視線が先端に導かれること。トレンドがほとんどないこと。経年によって表情が良くなること。これらが理由であり、靴には人格が現れるとも言われている。いくら仕立ての良いスーツを着ていても、靴が良くないとその良さを十分に発揮することができないのは確かだ。スニーカーが必ずしも革靴と同じとは言えないが、いいスニーカーも履いていると、人の視線が集まるのは共通する。足元を見られたい。気候に関係なく売れるようにするには、そんなアイテムの開発がカギになる。
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