実店舗に客が戻る中、販売員の商品提案力はどこにとっても最重要課題の一つだ。多くの企業は、接客ハウツーを材料とした研修を行っているが、実際、そんな研修を重ねても商品提案力が大きく改善することはない。なぜか。商品提案力は試行錯誤を通じて磨き上げていくものだからだ。そのことを確認するために、改めて提案力の本質を押さえる必要がある。
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三つの本質がある
商品提案力には三つの本質がある。一つ目は「個別最適化力」だ。まず商品提案の目的を再考する。多くの販売員はそれを「商品をお買い上げいただくこと」と考える。しかしこの発想だと「売りつけること」と表裏一体であり、顧客を遠ざけてしまう。
それよりも「喜んで」買ってもらうことと考えたほうがいい。そうすればおのずと「どうやって喜んでもらうか」に関心が向く。では「喜んで」購入してもらうには何が必要か。それは「顧客一人ひとりのニーズに合わせて商品の特性を提案すること」だ。顧客ニーズは千差万別なので、「私のことを理解して提案してくれた」ということが顧客にとって最も大きな価値となる。
二つ目は「実践知」であることだ。実践知とは、理論や知識を現実の状況に適用して、実際の問題を解決するための知識や能力のこと。一方、理論知とは、ある分野の基本原理や法則、概念、およびそれらの関係についての体系的で抽象的な知識のことだ。
顧客ニーズは多様で、かつ変化する。年代や体形といった属性による傾向の違いもあれば、好みのような個人に属する違いもある。ライフスタイルによって変化もするし、さらに、季節やその時の天候によってもニーズに影響を与えることもある。
多様かつ変化するニーズを前提にすると、現実は理論知のようには動かない。現実の状況を見極め、新たな解決策をその場で生み出さないといけない。従って、理論知をもとに行動し、経験することで多様かつ変化するニーズや状況に適応する能力としての実践知を高めていくことが必要がある。
「わかる」と「できる」
三つ目は「試行錯誤学習」による磨き上げが求められることだ。試行錯誤学習とは、心理学者ソーンダイクが提唱した「試行の積み重ねによって問題の解決に至ることから生じる学習」を指す。接客研修で身に着くのは理論値までで、実践知である個別最適化力を高めるには試行錯誤を通じて磨き上げていくが必要だ。
「わかる」と「できる」は違う。「わかる」とは、理解の段階にあり、ある概念や方法についての知識や理論を頭の中で把握している状態だ。「できる」とは、実践の段階で、その知識や理論を実際に活用し、具体的な行動や成果を生み出せる状態だ。試行錯誤学習はこのギャップを埋めるアプローチなのだ。
(エンゲージ社長・藤谷拓)
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