パリオリンピックの開幕まで10日をきった。今回の大会も競技の熱戦、選手の活躍、メダル獲得と話題は尽きないだろうが、ビジネスの面でも国家代表、チーム、選手が着用するウエアやシューズは、大会後にエントリーモデルとして量産される可能性は高い。中心となるのはやはりシューズだ。特にマラソンシューズは日進月歩で進化しており、今大会で最高のパフォーマンスを上げた選手の履くシューズが市民ランナー向けにも影響を与えるのは間違いない。
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ランニングシューズはアスファルトで舗装されたコースを走ると、ソールの踵部分の摩耗が激しい。ジム用のシューズはランニングマシーンで走ったり、筋トレするくらいだから、ソールが耗ることはほとんどない。大事に扱えば、10年くらいは履き続けることはできる。ただ、こちらも知らず知らずの間に靴の表面がマシーンの台座やフロアに擦れているようで、5年も履くとアッパー全体が傷み、7〜8年目にはタンの端が破れてくる。
スニーカー全般に言えるのは、ミッドソールやクッショニングパーツは、上下からかかる力を緩衝する働きに過ぎないこと。むしろアッパーの方が表面に何かが触れることが多く、細かな傷ができるとそこから劣化が始まる。レザースニーカーはクリーナーで汚れを落とし補修クリームを塗るなど、こまめにケアすれば長持ちする。だが、キャンバススニーカーは専用洗剤とブラシで洗浄することはできても、「バルカナイズド製法」で密着された生地とゴムとの境目から徐々に亀裂が入るので、長期の耐用には限りがある。
足の形は人によってそれぞれ異なるので、靴はしばらく履いた方がフィット感がわかりやすい。お気に入りのブランドやデザインがあっても、こればかりは自分の足に合うとは限らない。ブランドではナイキが絶対的な人気を誇るが、最近ではセレクトショップが注力するせいか、ニューバランスを履いた人を見かけることが多い。筆者もナイキではコルテッツを一度履いたこともあるが、以降は買っていない。ニューバランスも試着をしてみたものの、自分の足にはフィット感がイマイチで購入には至らなかった。
自分の足形にはアディダスがしっくり来る。多分、同社の木型がいちばん足に合っているのだと思う。過去20年を振り返ると、街履きはGlenhavenやGAZELLE RST、Stan Smith Primeknit、Tech Super2.0、ジム用はHockey、ランニング用はクラシックタイプのDragon、予備にはSUPERNOVA CUSHION 7 IRAKと、すべてアディダスになった。日常でフィットしたものが寿命に達すると、もう1足買っておけば良かったと思うことがある。流行より履き心地がいいと、移動や運動がとても楽だからだ。足には健康を左右する「ツボ」があると言われるが、まさにそのせいだろう。
そこで、10数年ほど前から自分の足型に合うアディダスのシリーズは、一度に2足購入するようになった。Dragon、GAZELLE RST、Stan Smith Primeknitがそうだ。Dragonは週2回程度のランニングでしか着用しなかったので、1足目は購入から13年も耐用した。インドア・ジム用のHockeyが購入17年目で限界に達したため、とりあえず2足目のDragonを代用した。新しいランニングシューズを探してはみたが、なかなか自分に合ったものが見つからないので、自分の足に合うDragonをランニング用に戻し、ジム用にはSUPERNOVA CUSHION 7 IRAKを当てた。これで当分は持つだろう。
GAZELLE RSTは日本未発売だったため、フランスから2足まとめて輸入した。販売元の粋な計らいでシューレースを好みのオレンジ色に変えてもらった自分仕様だ。こちらはアッパーに生地が使われているにも関わらず、ローテーションを組み適度に休ませながら履いてきた。ただ、11年目にして2足ともアッパーとゴムの境目が破れてきて、1足はソールが剥がれ落ちてしまった。着用期間は1足にすると5.5年。十分な耐用年数を経過したと判断し、廃棄することにした。家族からは「十分元は取れているよね」と言われている。
Stan Smith Primeknitは夏場だけの着用で保存もきちんとしているせいか、8年目でも2足とも劣化はない。ただ、年々猛暑がエスカレートしてきており、靴下を履いても汗で足がべっとりする。Glenhavenは素足で履けて快適だったが、現在は廃盤で製造されていない。それに変わるものを探しているが、アディダスではキャンバスシューズがほとんどない。コンバースか、ムーンスターか。これもネットでは決められないので、1店舗に行って足に合うものを探してはみたが、なかなか見つからないまま盛夏に入ってしまった。
海外ブランドの高価格帯にも注目
スニーカーは有名ブランドの寡占状態が続く。各社はファブレスな生産体制を確立しており、ブランド力にデザイン、機能性を併せ持つものが売れている。アパレルも製造コストを下げた低価格のものが売れる傾向にあるが、スニーカーに関しては高価格帯に人気が集まる逆転現象になっている。さらに定価の5倍、10倍の価格で売り捌く転売ヤーもいる。ニーズがあれば価格は上がるというダイナミックプライシングの理屈はあるにしても、意図的に価格を釣り上げて販売する行為は、民法が定める公序良俗の暴利行為に触れなくもない。
スニーカー市場はアパレルのように気候によって売上げが左右されることは少ない。そのため、新規に参入を目指すところもあるが、うまくいったケースはない。ファーストリテイリングも参入しているが、有名ブランドの牙城を切り崩すまでの商品にはなり得ていない。現在はワークマンも980円、1900円、2900円という格安で、ランニングシューズを販売している。実際に市民ランナーが試履きして大会にも出場してモニタリングルポをネットで公開しているが、「改良の余地あり」という意見が大半だ。
スポーツで履く靴は、やはり靴擦れや捻挫、足の各部への負担軽減を図る上で、専門のノウハウを持つメーカーのものを選んだ方が間違いない。自分の足を守るにはやはりコストをかけた方がいいということだ。そうした意味で、アディダスは兄ルドルフ、弟アドルフのダスラー兄弟が設立した靴製造会社がルーツなのでノウハウの蓄積は申し分ない。第二次大戦中はドイツ国防軍の靴を製造していたが、戦後はルドルフがプーマ、アドルフがアディダスを創業し、共にサッカーシューズの製造販売で鎬を削った。終戦後、日本に駐留した米兵が履いていたスニーカーがアディダスだったという話もある。それほど長い歴史を持つブランドなのだ。
ナイキはアディダスよりだいぶ遅れて誕生した。1957年、米国オレゴン大学で陸上コーチを勤めたビル・バウワーマンは、のちに共同創立者となるフィリップ・ナイトと出会う。ナイトはスタンフォード大学で経営学を学ぶ一方、バウワーマンの陸上チームのランナーでもあった。バウワーマンは陸上シューズの製作に試行錯誤する中で、彼の手作りシューズを履いた選手が新記録を出し始めたことで注目が集まる。ナイトはバウワーマンとブルーリボンスポーツ社を設立し、多くのシューズを開発に着手。ランニングシューズのマラソンやフレレングス・ミッドソールを採用したボストンが今日のナイキの礎を作り上げた。
アディダスもナイキも足の構造を熟知した上で、どうすれば負担を軽減して高いパフォーマンスを発揮できるか。飽くなき探究心がシューズ開発の源流にあり、ブランド醸成に繋がった。さらに昨今のスニーカーは普段履き、ファッション、アーバンスポーツと、ライフスタイルに浸透し、いろんな要素で開発競争が展開されている。一方、ファッションの一部としては、デザインやカラーリングを優先するものも増えている。欧米も日本も各メーカーはそれぞれの個性を打ち出し、ショップやネットの力を借りながらブランドの浸透に挑んでいる。
インポートのスニーカーではデザイン面でナイキやニューバランスをしのぐものは、完売している。インポーターが百貨店などを通じて展示即売会を実施するため、実際に触れて試着できて販売に繋がっているようだ。最近では、スイス生まれの「オン」もランニングシューズの注目株だ。ただ、こればかりは実際に履いてみないとわからない。店舗でオンを試着してみたが、自分の足にはアディダスほどしっくりこなかった。ナイキ人気は依然として圧倒的だが、新モデルが発売されると転売ヤーが暗躍し、買い占められることに辟易しているお客も少なくない。ならば、被らないブランドに向くのは自然の流れだろう。
筆者が数年前から注目しているブランドは、オランダの「HUB」、イタリアの「D.A.T.E」のほか、フランスのブランドが一つ。これらもデザインがいいものは、SOLD OUTしたものもある。スニーカーがそれだけ世界中のファッションシーンで欠かせないアイテムになったということだ。盛夏の今は、キャンバスのスニーカーに目が向く。ホワイトベースはどうしても汚れが目立つので一般には敬遠されがちだが、専用の中性洗剤や炭酸水、酢を使って洗えば見違えるほど綺麗になるとの動画も公開されている。
まあ、服もそうだが、デザインのみならず着るシチュエーションに応じた機能も重要だ。スポーツシューズがルーツのアディダスやナイキ、ニューバランスは、通気性を良くするためアッパーのクォーター部分に小さな穴を開けたサスティナブル素材を用いる。ただ、汗かきにとってはやはりコットン素材のキャンバスの方が快適だ。そして、歩くたびに足が素材に触れると足のツボが刺激され、心地いい。感性も大事だが、足にフィットするのがシューズ選びの条件かと。感覚でジャストフットとでも言おうか。アディダスの次に来るものを何とか探し出したい。
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