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Y-3 × サッカー日本代表、機能性とデザイン性を両立できるか

Y-3 × サッカー日本代表、機能性とデザイン性を両立できるか

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 いよいよパリオリンピックが開幕する。毎回、アパレル業界でオリンピックの話題となるのは、日本代表の公式ウエアやユニフォームだ。さる6月21日、サッカー日本代表2024のユニフォームがヨウジヤマモトとアディダスのコラボブランド「Y-3」に決まったと、発表された。サッカー日本代表がブランドとコラボするのは今回が初めてで、パリオリンピックでも着用される予定という。

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 デザインのコンセプトは炎で、男女両チームのシャツやパンツにグラフィック化された炎をあしらうことで、日本代表が持つゆるぎない力強さ、火出る国日本の神秘性を表現する。また、一つ一つの炎は選手やサポーターを表し、それぞれの熱い思いが炎の目となり、そのパワーがサッカー日本代表の力として高く舞い上がる様子を表したという。ホーム用はダークネイビー、アウェイ用は白を基調とする。シャツの胸元、パンツの左前、ストッキングの左右脛中央には、それぞれ国際標準のサイズにそってY-3のロゴがレイアウトされている。

 ゴールキーパー用はホームユニホームと同じ炎のグラフィックを採用し、身体の動きに合わせたカッティングとシルエットを採用することで、素早い動作とより長いリーチをサポートする仕様。ユニフォームは選手用のオーセンティック(半袖18,700円、長袖19,900円)、レプリカ(半袖男女13,200円、キッズ10,450円)で販売される。併せて、サッカーからインスピレーションを受けたストリート&ライフスタイルウエアをそろえた「サッカー日本代表2024 カルチャーウェア コレクション」も企画されている。

 こちらはスカジャンからTシャツ、フーディ、長袖シャツ、ショートパンツ、マフラー、キャップ、トートバック、ロングパンツまでがラインナップされ、サッカーのユニフォームと同様の炎のグラフィック、八咫烏の代表マークやY-3のロゴが配置されたアイテムもある。サッカー日本代表を応援する商品は、これまでレプリカ版のシャツが主力で、それにタオルなどの応援グッズが加わる程度だった。そのため、購入者はコアなサッカーファン、日本代表のサポーターに限られていた。

 今回のユニフォームはともかくとして、カルチャーウエアコレクションを見るとヨウジヤマモト、ワイズの延長線上にいるY-3ファンがどう動くかも注目される。市販されるアイテムは豊富にラインナップされ、サッカーファンや日本代表のサポーター以外の目をひく可能性は非常に高い。ヨウジヤマモトにしても、アディダスにしても「サッカー日本代表応援のスタイリングはY-3で」と、サポーターに呼びかけるのはもちろん、新たなY-3ファンを開拓する上でカルチャーコレクションはカギになる。

 ヨウジヤマモトはファンドのインテグラルが経営再建に携わって以降、ブランド戦略の一環からか、S’YTEやGround Y、power of the WHITE shirt、RAGNE KIKASといった派生ブランドを増やしている。Y-3はその戦略以前の2002年にデビューしたが、ストリートファッションの全盛期にアディダスとコラボしたクリエーションは、スポーティながらもエッジが効いてすごくスタイリッシュに見えた。汗臭いジャージのイメージを一新させただけでなく、カジュアルウエア選びに窮していたガタイがデカい人間にとっては、これなら普段着にしてもおしゃれに見えると思わせたはずだ。

 ただ、Y-3はデザイナーズブランドという性格から、一般のアディダより割高で、機能性を持つスポーツウエアとは乖離し、地方ではECでしか買えないといった立ち位置にある。デビューからすでに20年以上経過しているが、こうしたコラボブランドの特徴が逆に作用し、ファッション、スポーツの両面でメジャーになったとは言い難い。まあ、それはヨウジヤマモトが手がけることである程度予想されたことだが、経営サイドとしてはもっと知名度を上げて、売上げを伸長させたいと考えているはずだ。

 もっとも、ヨウジヤマモトがスポーツチームのユニフォームに参画するのは、今回が初めてではない。2014年にはスペイン・プロサッカーリーグのトップチーム、「レアル・マドリード」のサードユニフォーム、2019年のラグビーW杯では「オールブラックス」のジャージをデザインしている。また、2022年にはヨウジヤマモトと読売ジャイアンツのコラボ企画として、9月6日~8日の東京ドームでのDeNA戦で監督、コーチ、選手がコラボユニホームを着用。各ユニフォームはレプリカを含め市販もされている。

 Y-3も2022年にはレアル・マドリードの創立120周年と同ブランドの創立20周年を記念して、コラボレーションを行なっている。ユニフォームをはじめ、アパレルとアクセサリーは、Y-3表参道ヒルズ店やギンザ シックス店、アディダス直営の一部店舗などで発売された。Y-3は2024秋冬シーズンにもレアル・マドリード・メンズチームの4thユニフォームをアップデート。併せてウォームアップ用のトップス、ライトシェル アンセムジャケット&パンツ、Tシャツやスカーフやウォッシュバッグなどもラインナップしている。

 こうしたコラボアイテムの売上げがどの程度かはわからないが、ヨウジヤマモトはスポーツチームと手を組む新たなビジネスモデルを作り上げたのは確か。知名度やブランド力を持つ球団やスポーツチームとコラボレートするのは、デザイナーズブランドの新たなマーケティング手法の一つにはなり得るはずだ。

後に続くアパレルブランドはあるか

 一方、スポーツのユニフォームには、機能性が要求される。多くのチームが大手スポーツメーカーと契約するのも、そうした理由もあると思う。サッカー日本代表は1999年からアディダスと契約してきたが、2010年のサッカーW杯南アフリカ大会では、同社によって「軽量で吸汗性が高い素材を使ったタイプ(フォーモーション)」と「体にフィットし運動性能を高めるタイプ(テックフィット)」の2種類のユニフォームが企画された。選手のプレースタイルや状態で選べるようにしたものだ。

 フォーモーションは、従来のユニフォームに比べ15%軽量化され、吸水性が高い素材を使用。三次元で設計、縫製し、動きやすさを向上させた。テックフィットは背中にタスキがかかったようなデザインで、肩甲骨を矯正して姿勢を正す。血液の循環を促進し、疲労軽減に繋げられるようにした。ともに日本代表選手が試合で最高のパフォーマンスを上げられるのを目的にしたものだが、チームがベスト16以上に勝ち進めなかったことを見た時、ユニフォームに全面的な責任があるとは言えないまでも、効果をどう検証したのかである。

 大会後、アディダスは各選手にモニタリング調査をしたとは思うが、その詳細は発表されていないのでわからない。というか、同社と日本サッカー協会(JFA)は、2015年に新たに2023年まで8年間契約を結んだ。21年6月には契約を延長することで基本合意している。2024年の代表チームのユニフォームがY-3に決まったとは言え、そこにはアディダスとの契約があるのは言うまでもない。それはプロモ用の写真にオフィシャルサプライヤーのクレジットがあるのを見てもわかる。

 ただ、今回のユニフォームはY-3のブランドやデザインモチーフが全面に出ているものの、機能性については2010年のサッカーW杯の時ほど深く追求した様子は見られない。ゴールキーパー用では多少の説明があるが、選手用はフォワードもミッドフィルダーもバックスも同じ仕様だと思われる。企画開発の段階で選手側の要望を取り入れたのか。それとも、選手は契約するシューズほど機能性にこだわっていないのか。その辺の詳細は定かではない。

 仮にユニフォームが一般に公開された段階で、JAF側から機能面で手直しの声が上がっても、パリオリンピック開幕まで1ヶ月しかなかったことを考えると、修正は不可能だ。JFAとしてもアディダスがオフィシャルサプライヤーで、ユニフォームの提供以外に資金面でのサポートも受けているはずだから、それは承知の上だったと思う。

 大手スポーツメーカーは、各国の代表チームやプロリーグの球団と契約している。選手が試合で最高のパフォーマンスを上げるには、機能性や仕様面での要求も受け入れていると思われるが、それには素材開発から緻密に行なっていく必要がある。4年に一度のオリンピックやサッカーW杯はそのまたとない機会で、市場のリーダーシップを取る絶好のチャンスになる。そのため、一般向けのレプリカを拡販して開発コストを回収していかなければならない。日本のスポーツメーカーではこれまでもそうした手法をとってきた。

 過去のサッカー日本代表のユニフォームではこんな話もあった。それまでアディダスに素材を提供してきたのは日本の繊維メーカーだったが、ある大会から中国のメーカーに変わったという。理由ははっきりと聞かされなかったが、多分コストが影響しているとのことだった。ただ、大手スポーツメーカーも各スポーツ団体に巨額な契約料を支払っている以上、どこかでコスト削減を行う必要に迫られる。それが素材の調達コストだったわけだ。

 これを日本のアパレルブランドに置き換えるとどうか。日本オリンピック委員会(JOC)は公益財団法人ではあるが、収入はがんばれニッポンキャンペーンなどに限られる。日本サッカー協会にしても同様の法人格を有するが、やはり日本代表の活動資金はスポンサーに頼っているのが現状だ。日本のアパレルがウエアやユニフォームをデザインするには、そうした団体と契約しなければならず巨額なスポンサー料を払った上で、企画し提供することになる。だが、わずか3週間ほどのイベントでは、とても投資対効果は望めないだろう。

 2020オリンピック東京大会では、紳士服大手のアオキが選手団の公式ウエアを提供した。水面下では大会組織委員会元理事に計2800万円の賄賂を渡したとして、親会社AOKIホールディングスの青木拡憲前会長が贈賄罪に問われ、懲役2年6月、執行猶予4年の東京地裁判決が確定した。法的な問題を抜きにしても、オリンピックへの企業参画で巨額な金が動いているのは事実だ。こうした根深い背景がある以上、「コムデギャルソンに日本代表のウエアやユニフォームをデザインしてほしい」と、容易く言うことはできないのである。

 それでも、Y-3はサッカー日本代表のユニフォームをデザインした。素人目にはデザイナーの山本耀司氏が1981年からパリコレに参加しているからとか、Y-3ではバックにアディダスがついているからできたことと考えがちだ。しかし、日本のデザイナーブランドが世界的なスポーツイベントの日本代表ユニフォーム参画で先鞭をつけた点は、もっと評価されてもいい。なおさら、日本代表にはユニフォームに記された炎をパワーにして是非ともメダルを獲ってほしいのは、サポーターのみならずY-3関係者の総意でもあると思う。

 オリンピックを契機として日本代表ユニフォームへのY-3の採用は、ブランドバリュウの向上、世界市場に向けたマーケティング、開発ノウハウの蓄積と汎用品へのフィードバックなど、いろいろな効果が期待できる。参画の仕方もスポーツメーカーを通じれば、ハードルが下がるかもしれない、Y-3に続く日本のアパレル、デザイナーの登場を願う。

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