マニアのためのアパレルがある。標識や看板、給水塔など、日常の風景になじむモチーフに、あえて焦点を当てた「マニアパレル」だ。見落としがちな物たちを掘り起こし、〝面白がるプロ〟のファンたちに届けている。(小坂麻里子)
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分かる人には分かる
グッズはテトラポットのぬいぐるみ、ダムを動物に見立てたイラストをプリントしたTシャツ、鉄塔やガスタンクを模様にした手拭いなど。06年の開始以来、200~300種ほど販売したという。「そこか、と突っ込まれるのがうれしい」とは運営するバドンさん。
重機をキリンに見立てたデザインのトートバッグは「実際に働いている人に怒られるかと思った」が、むしろ関係者が買っていくそうだ。「落ちたら死ぬ」という実際にあった標識をプリントしたTシャツは、受験生や作家に人気だ。今年最大のヒットはガソリンスタンド3兄弟Tシャツ。「火気厳禁」などガソリンスタンドに必ずある表示でTシャツが、危険物取扱者の資格を持つ人や、これから受験しようとする人に刺さった。
ブログやSNSでデザイン案をアップし投票を集め、一番人気の案を採用して受注数が最小ロットに達したら生産、販売する。全国の雑貨店で一部扱うほか、ジュンク堂書店池袋本店の一角にマニアパレルのコーナーもある。
バドンさんはテレビ番組「タモリ倶楽部」に団地マニアとして出演するほどの団地好き。オフ会やイベントのつながりでダムも好きになり、バドンさんの作ったダムのモチーフをステッカー、Tシャツにして配ったことをきっかけにマニアの間で人気になった。イベントに行けなかった人にも販売するようになり、マニアパレルができた。
団地、ダム、工場などは「機能のための建築」である点に魅力を感じるという。テトラポットや三角コーンなど「街中にたくさんあるのに、まじまじと見る人はいない。そういった意図的にデザインされていない物たちが好き」と話す。
琴線に触れる物を
地方の街起こしにも関わった。産業遺産を観光資源にする活動を始めた仲間に観光グッズのデザインを頼まれ、兵庫県朝来市の神子畑(みこばた)選鉱場跡や鳥取県日南町の若松鉱山にちなんだキャラクターを制作した。
神子畑選鉱場跡は「シックナー」と呼ばれる装置を眠っているキャラクターに見立て、消費者に親しみやすく、受け入れやすいデザインを心掛けた。「初めは地元の人たちは半信半疑だった」が、観光客が多く訪れるようになり、グッズの売れ行きは好調だ。
バドンさんは「自分の琴線に触れる物、愛する物をアウトプットするのがマニアパレル」と話す。自己満足だが賛同する人は多く、18年間続けてこられた。今後も「作りたい物はたくさんある。この活動は喜びの源なので、同じことを続けていきたい」と話す。
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